337 まぁ、顔つなぎも実用か
カラフル柄ローブが売れると、ハードルが下がったのか、続々と売れ出したが、超高級モデルだけは残っていた。
鑑定持ちが鑑定して事実だと分かっても、すぐ壊れるすぐ使えなくなるような性能の魔道具も多いからだ。
魔道具師の大半は貴族が囲っている。だから、耐久性の高い高性能な魔道具は貴族が独占しており、市場に出回るのは欠陥品ばかりになる。
稀に囲われてない錬金術師や魔道具師が魔道具を出したりするが、本当に稀なので買うのは一種の賭けになる。
「壊れたら返品とか修理とかはしてくれるのか?」
「そんな保証はねぇな。使い方にもよるし。試着はしてもいいぞ」
はい、とシヴァは悩んでいた商人の肩に超高級モデルローブを羽織らせた。
「ボタンホールに触って『涼しく』と念じると涼しくなり、『停止』と念じると止まる」
ボタンの方にしなかったのは、落とす確率が高いからだ。
「それだけ?…本当に涼しい…」
「『幻影』を起動させるのも『幻影』と念じて、ボタンホールのその下を触る。止める時は『停止』。涼しい機能は着てない時には自動的に止まるけど、『幻影』は着てない時でも作動して停止操作をしない限り、そのまま幻影続行だから、囮として使うことも出来る」
その実証をすると、迷っていた商人は一気に購買意欲を高めて、お買い上げになった。ハンカチも付けさせられたが。
転売するのか、献上するのか、するのだろう。
実用的な機能なので実用して欲しい所だが、まぁ、顔つなぎも実用か。
では、とシヴァは新しい超高級モデルローブをトルソーにかける。
「…何枚あるんだ?」
同じく迷っていた商人が呆気に取られつつ、訊いて来た。
「5枚。柄は同じだぞ」
超高級モデルだと一目で分かった方がいいかと。
「明日もいるのか?」
「今日だけ」
「宿は?」
「泊まってない」
「そんな高級品を持ってて野営なのか!」
「いや、速い移動手段があるだけだ。そもそも、本業は冒険者なんで、おれたちから何か奪うのはかなーり難しいと思うぞ?」
「そ、そうなのか」
何だと思っていたのやら。
デュークとバロンも強盗牽制で睨みを利かせているのだが、単なるペット従魔だと思っていたのだろうか。
まぁ、別にどうでもいい。
希望通り、細々と商いが出来たのを喜ぶべきだろう。
儲けは全然細々じゃないが、技術的には安い方だった。
【ぼく、ひまになったんだけど~】
客が少なくなると、当然ながら従魔の見張りも暇である。
「本読む?インテリグリフォンらしく」
【からだをうごかしてあそびたい】
「遊ぶのかよ」
「まだまだ子供だしね。ホテルに連れて行くよ。バロンは?」
「がう」
「行きたいらしいぜ。暇だし。じゃ、店番はおれがやっとくから。Aも休憩して来ていいぞ」
「はいはーい」
軽く返事をしたアカネはデュークとバロンを連れて物陰へ行き、そこからディメンションハウス経由で『ホテルにゃーこや』へ行った。
従魔だけでも移動は出来るハズだが、一度行った所の違う出入り口にも出れてしまうため、念のため付き添うようにしている。
******
客が少なくてもシヴァは暇じゃない。
思念とリンクした飛行カメラに隠蔽をかけて何台か飛ばしており、脳内でオアシスの街の地図を作ってるからだ。出来上がったらタブレットにアウトプットする。
これぞ【知力:SSS】で【思考加速】【並列思考】があるおかげである。
こうやって使うから上がるのか。
当然ながら、シヴァがマスターをやっているダンジョン近くの街は、コアたちが同じように詳細地図を作っており、徐々に他の街まで広げていた。情報は宝である。
「こんな鮮やかな色、どうやって染めたの?」
「どこで仕入れて来たんだ?」
「どこかの特産なのか?」
「その魔道具、作った人の名前が分かるなら…」
そんな質問にはすべて答えない。
情報は本当に貴重だからだ。
インターネットで世界中と繋がっていないこの世界だが、通信魔道具はギルドに設置してあり、各街各国で情報を共有していたりするし、行商する商人も通信魔道具を使い、情報のやり取りをしているので、口コミは意外な程早く広まっている。
中には国が頼んで情報を集めていたり、スパイをしていたりする商人もいることだろう。
玉石混合なので、情報の真偽を確かめる必要はあるものの。
オアシスの街まで来る物好きな貴族もいないかと思いきや、交易の街なこともあり、平民と大差ないような経済状態の下級貴族はそこそこいた。
ステータスチェック情報である。
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