338 ご協力を感謝する!(にっこり)

 オアシスの街まで来る物好きな貴族もいないかと思いきや、交易の街なこともあり、平民と大差ないような経済状況の下級貴族はそこそこいた。

 ステータスチェック情報である。


 むしろ、威張り腐っているのは大商人だった。

 オアシスの街を出て砂漠を抜けた隣の街まで、トカゲ騎獣車で半日の距離だし、環境も整っているので出張って来るのだろう。


 希少なグリフォンを連れていてカラフルな柄ローブ、中には超高級モデルもある、となると目を付けられるかな~と思っていたが、やはり、目を付けられた。


「おい、貴様。誰の許しを得て魔道具なんぞを扱っておる!」


 結構前からうろちょろしていたが、店番が一人になるのを待っていたらしい。アカネたちも知っていただろうが、シヴァなら問題ない。


「商業ギルド」


「魔道具は別だと聞かなかったのかっ!どこの魔道具師が作った?勝手に販売するなんて許しがたい!」


 魔道具の規制なんてされてないので、このいかにも腹黒大商人っぽいカエル腹の商人の言いがかりだった。


「へぇ。で、どうすると?」


「没収に決まってるだろうが!そら、全部持って行け!」


 強面こわもて使用人、ではなく、護衛?たちにカエル商人が命令し、護衛たちが商品を運ぼうと手を伸ばす。普通のローブも持って行くつもりらしい。


「強盗かよ。…『』」


 シヴァの魔力を込めた【暗示】の言葉に、カエル商人と護衛?六人はそのまま、動かなくなる。護衛?はかがんで商品の箱に手を伸ばす半端な姿勢のままで。

 対象を一人ずつ指定するより、範囲指定の方が楽なのでそうしてみた。【暗示】の前に念のため、さりげなく隔離するように防音結界は張ってある。


「喧嘩を売る相手を間違えたな。このまま砂漠に送り込んで干からびさせてもいいし、魔物だらけの魔境に放り込んでもいいし、空高く放り投げて墜落死ってのもいいけど、どうする?とりあえず、『ハゲちらかす』呪いを発動しとこう」


 シヴァは隠蔽がかかっている【魔眼の眼鏡】を装着して呪っておいた。徐々にハゲちらかすので、この場が散らかり汚れるようなことはない。


 ステータス履歴を見ると、今までも似たような手口で強盗したり、商売敵を脅したり嫌がらせをしたりしていた。出来事の詳細までは分からないが、自白剤を飲ませればいいだろう。

 自白剤は特化型だけあり、暗示よりも持続時間が長いのだ。


 土魔法の手錠と足かせで拘束した後、近くの店の人に銀貨を渡して頼んで警備兵を呼んで来てもらい、強盗未遂、余罪あり、で捕縛させた。

 「あ、こいつか!」という顔をしたので、今までかなり煮え湯を飲まされて来たのだろう。


「何だか知らねぇけど、いきなり色々と話したくなったみたいなんで、色々と聞き出すといい」


 カエル商人一味に自白剤を飲ませたシヴァは、そうアドバイスをしておいた。

 すぐ意味が分かった警備兵たちは笑った。


「ご協力を感謝する!」


 いい笑顔だった。

 足取りも軽くカエル商人一味は警備兵たちに連行され、シヴァは何だかいいことをした気分になった。相手するのは面倒だったものの。


「大丈夫だった?」


「何をどうしたの?」


「あいつら散々悪さしてたけど、取り巻き連中が結構強くて困ってたんだよ。どうやって捕まえたんだい?」


「よく分かんないうちに捕まってたし。魔法?」


「内緒」


 シヴァは適当に流しておいた。

 それから、到着したばかりの隊商がいたらしく、客足は少し盛り返し、物珍しさからかカラフルローブはパラパラと売れた。

 鮮やかな色の秘密を知りたがる商人が多かったが、染色に使っている鉱物はカルメ国で採掘したもので…と言うと諦めた。


 「他にこの近辺だと、色んな環境になってるからダンジョンにあるかもしれない」と匂わせておいた。

 もちろん、シヴァがマスターやってるダンジョン限定である。気付く冒険者がいるかなぁ、とこっそり仕込んであった。


染料を譲ってくれ、という商人はいなかった。シヴァは仕入れてるだけで、自社生産しているとはまったく思わないらしい。

やがて、アカネも戻って来たが、全然忙しくないので、まったり売って昼で引き上げた。


 ******


 用意したカラフル柄ローブが全部が売れたワケじゃなく、三割ぐらいだが、残りはホテルにゃーこやの土産物で売ればいい。

 普通モデルはもちろん、超高級モデルも『涼しい』機能を切れば冬でも普通に着れる。【幻影】は砂漠トカゲになっているが、他の【幻影】にもすぐ変えられるのだ。【認識阻害】に変えてもいい。お忍びに持って来いだろう。


 午後からはホテルにゃーこやの売店に、新商品を置きに行った。

 超高級モデルだけはショーケースを作って入れて置く。鍵は大浴場のロッカーと同じ魔力認証だ。


「そんな高額商品を無造作に置いとくのは怖いです~」


 従業員たちにそう泣きつかれたので、わざわざ作った。

 変な客はいないし、勝手に入れないので、盗まれる心配もないのだが、気分の問題らしい。


 スペースはたっぷりあるので、柄違いサイズ違いをズラッとトルソーにかけて並べ、後は売店のバックルームの在庫の場所へ置いた。

 値札プレートを置いたので値段は間違えようがない。


 オマケのカラフルハンカチは売ってもいいが、ここに来る客だと使わないような気がする。

 貴族の客はレースや刺繍がふんだんに入っている物だろうし、高ランク冒険者はハンカチなんか使わず、【クリーン】をかけるので。

 まぁ、また何か露店や屋台をやる時に売るかオマケにすればいいだろう。



 後日、高級モデルカラフル柄ローブ魔道具は、Aランク冒険者のラーサクが買ったと報告を受けた。


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