335 地味な砂漠の風景にカラフル柄ローブはいかが?
「…こんな所で行き倒れ?」
「駆け出し冒険者だな」
オアシスの街から少し離れた所で、影収納からトカゲ三匹を出し、シヴァとアカネがトカゲに乗って進み始めて数分、砂丘の下に少年が倒れていた。
街まで十分もかからない位置で行き倒れた、ワケじゃなく、何とかここまで戻って来たものの、オアシスの街の防壁を見て安心して倒れた、という所か。
準備が足りないのも駆け出し冒険者には多い。
他の街より過酷な環境なので、冒険者をやろうと思った人は別の街から始めるので、ここに駆け出し冒険者がいるのは珍しい。
「熱中症」
スポーツドリンクを飲ませ、キュアをかけ、手持ちの布を氷水で濡らして身体にかけてやった。脱水症状はすぐには治らないが、マシにはなるだろう。
三頭いるトカゲの一頭にくくり付けて、街まで運んだ。
意識が戻らない少年は「十分程の所で倒れてた」と警備兵に預ける。
トカゲは中々いいお値段で売れた。
冒険者ギルドに依頼達成報告と納品といらない素材の買取をしてもらうと、シヴァとアカネは物陰から砂漠手前の街へ影転移した。
美味しかった食堂目当てである。
お昼には少し早かったが、既に並んでいる人もいて、何とか入れた。
砂漠羊が美味しかった店だが、やはり人気店だった。
今日のランチは砂漠羊と砂漠トカゲの香草唐揚げ定食だった。主食は細かい豆のスズマルではなく、ピタパンみたいな薄焼きパンだった。これもまた美味しい。
「カリフラワーに見えるけど、味が全然違うね!これ」
「そう、見た目と味が違うんだって。きのこっぽい」
付け合せのサラダに見た目カリフラワー、味きのこ、な異世界植物が混じっていた。
「あ、きのこか!何か似てると思ったら」
メインの砂漠羊、砂漠トカゲの唐揚げもジューシーで美味しく、辛過ぎなくて大満足。他の料理も美味しいので、人気店になって当然だった。
前回は覗いていなかったので、昼食後は砂漠手前の街の冒険者ギルドにも寄ってみた。
砂漠での依頼も多いが、街中での依頼も結構あった。
砂漠の側ならではで、風向きによっては砂漠から砂が飛んで来るので、清掃依頼も多い。
「魔道具師の助手募集?何で冒険者ギルドで」
そんな変わった依頼があり、アカネが読み上げた。
「魔力と素材採取目当てかもなぁ。専属で雇っとけば、一々依頼を出さなくていいし、安く上がる、とかって。しかし、そんな割の合わねぇ仕事は誰もやらねぇから残ってる、と」
「でも、大半の魔道具師は貴族が囲ってたり、援助してたりするんじゃないの?成果を上げられなくて切られたか、新人…はないか。教えてもらっても理解出来ないし~」
アカネも一応、魔道具の勉強をしたことがあるのである。
「魔法陣と付与魔法と魔石の属性やら法則やら何やらも勉強しねぇと魔道具は作れねぇしな。ともかく、こうも胡散臭い依頼なのに掲示板に貼られてるってことは、それなりの権力者が依頼主ってことか」
報酬の高さに釣られてつい受注してしまった冒険者は、想像出来ないぐらい理不尽な目に遭うだろう、ということはよく分かった。
他は引っ越し手伝い、配達、農家の手伝い、雑用とよくある依頼ばかりだったので、冒険者ギルドを出た。
そして、オアシスの街の商業ギルドへ行って受付の列に並び、露店を出す場合の費用と手続きを教えてもらった。
薬を売る場合は薬師ギルドの加入と許可をもらわないとならないが、このオアシスに薬師ギルドはないので、少し遠くの街まで行かないとならない。
また治療院を開くには国の許可が必要で、そのための試験も受けないとならないらしい。
一応、詐欺な治療院防止のためだろうが、回復術師の冒険者が小遣い稼ぎをやっている場合もあるため、そう厳しく取り締まられていない。あまりに高額だと噂になるので、そこそこの値段というのもあるのかもしれない。
聞きたいことは聞いたので、商業ギルドを後にし、物陰からディメンションハウスに移動してお茶にした。
シヴァは最初は乳製品の食べ物か、卵を売ろうと思っていたが、食べ物露店が多いし、どこかの商人に迷惑かけるかもしれないので断念。
既得権益に迷惑をかけない商売で、思い付くのは「修理屋」「美容院」「化粧品屋」「写真屋」だが、大騒ぎになる未来しか見えない……。
単にオアシスで露店をやってみたいだけなので、物好きしか買わないようなものなら、と思うが、中々…あ、そうだ!
「カラフル柄なローブはどう?魔物がよけてくれます、だし」
「え、そうなの?…ダンジョン外の魔物って案外、用心深いってのはあるか」
「そうなんだって。毒キノコだってカラフルなのが多いだろ。実用的でもあり、地味な砂漠の風景がちょっとカラフルになるスグレモノ」
「『少し涼しい服』バージョンもありなの?」
「いや、その辺に売ってる素材だと機能しねぇからなし。最低限でスパイダーシルク混じゃねぇと…あ、超高級モデルも用意すべき?」
「ネタとしてはありかなぁ。幻影付与して遠目だと砂漠トカゲに見えるとかさ。銀貨5枚ぐらいからローブってあるけど、普通のはどのぐらいで超高級モデルはいくらにする?」
「普通のカラフル柄ローブは染料が結構高いし、そうペラペラなのも実用性がなくなるから綿麻混で金貨1枚、超高級モデルは『少し涼しい服』で『幻影付与』、スパイダーシルク混で物理魔法耐性ありで、Cランク魔石を使うから金貨30枚かな」
涼しいだけならCランク魔石で大丈夫だ。温かい方の機能まで付けるともう一ついる。使用者の魔力を使うのは無理があるとダンたちで判明したので、浮遊魔力を集めるタイプだ。
魔石は砕いて生地に練り込むのでゴロゴロしたりはしない。
「それだけ機能付いてる魔道具なのに安くない?金貨50枚は付けなよ。…って、わたしの感覚もズレてるかも。トリノさんに値段付けてもらったら?」
「それがいいかもな。砂漠じゃなくても普通に売れそう…最先端はカラフル柄ローブ?」
「流行ったら面白いかも。って、アルの姿はしばらく封印するんじゃなかったっけ?わたしが訊いてみる?にゃーこや店員Aだし」
「そうしてくれ。店員Bだとどうしても仕草でバレそうだし」
「だよねぇ。同一人物なんだから仕方ないけど。…柄は花柄?幾何学模様?目がチカチカするようなチェッカーフラッグとか?マリ○ッコ風とか?」
「お、いいな、それ。ちょっとクールにアーガイル柄とかも」
「カラフルだと結構派手だよね。アーガイル柄も」
「だろ」
そんな風にノリノリでカラフル柄ローブを開発し、柄はほとんどアカネがデザインしたので、中々のスタイリッシュさだった。
本当に流行りそうだ。物好きしか買わない、などというレベルではなく。
トルソーに着せてあるので、尚更、そう思うのかもしれない。
親子色違いペアとか可愛いので、そんなセットも作ってみたり。ローブのサイズはかなり融通が利く。
「…何かすごい売れそうなんだけど」
「それならそれで品切れになったら撤収でいいでしょ」
「それもそっか」
そして、シヴァがトリノに連絡しておき、アカネがローブを持ってエイブル国パラゴの街の商業ギルドへ行って、査定してもらうことになった。
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「普通モデルは金貨3枚、超高級モデルは金貨150枚でも売れるって。オークションに出したらもっと値は付くみたい」
トリノの見立ては、こんな結果になった。
アカネの報告にシヴァは苦笑するしかない。
「……おれらって本当に感覚がズレてるよな」
「シヴァは手軽にさっさと作れちゃうからね。材料入手も簡単だし。まぁ、査定通り、普通モデル金貨3枚、超高級モデル金貨150枚で売ってみたら、中々売れないだろうからちょうどいいでしょ」
「そうだな」
念のため、明日一日だけ露店の場所を押さえて手続きをした。
混雑して来たら即撤収、というワケである。
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新作☆「番外編40 最強種の黄昏(たそがれ) ― 捕食者side ― 」
https://kakuyomu.jp/works/16817330656939142104/episodes/16818023213376231504
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