第10章・夫婦でぶらり砂漠の旅

334 …豪快デスネ…

 目立たないようにするには、朝の依頼争奪ラッシュに加わる必要がある。

 しかし、押し合いへし合いはシヴァもアカネもまっぴらなので、影魔法使いならではのやり方で、影の中から掲示板を物色し、めぼしい依頼があったらその依頼票をさっと影に沈めて確認し、さり気なく影から出て受付の行列に並んだ。


 どこでも人気があるのは街に近い場所での魔物討伐、及び納品依頼だ。定期的に討伐しているので個体数も依頼数も少ない。

 しかし、訪れた冒険者ギルドはオアシスの街なので、街の外はすぐ砂漠。討伐依頼が多数あり、中でも美味しい砂漠羊は依頼票の数も多かったので、シヴァはそれにした。


 アカネは毒が薬に使え、殻が細工物に使える砂漠サソリの納品を。

 歩いていると、すぐ遭遇するのでこれまた探さなくてもいい魔物だが、毒袋を破らず丸ごと納品、となると、少しコツがいる。

 まぁ、氷魔法が使えるのなら凍らせてしまえばいいワケだが。


 依頼受注手続きを終えると、まずは市場で買い物だ。

 朝食として色々屋台も出ているので、シヴァも初めて見る屋台が多かった。前に来た時は昼過ぎだった。


「あ、クスクスだ!」


 アカネがそんな発見をする。

 クスクスと細かい野菜を刻んだスープが売っていた。


「ショートパスタの?…あ、ホントだ。何かの粉かと思った」


 パスタと同じデュラムセモリナ粉を使った粉のように見えるショートパスタがクスクスだが、中力粉?ぐらいの小麦粉で作ってあった。

 粉状態だと油と熱湯で簡単にふやかして戻せるので、地球では水が貴重な乾燥した地域ではよく食べられていた。砂漠を横断する時の保存食の一つでもあるのだろう。


 このクスクスのスープも香辛料がたっぷり使ってあって味はいいが、シヴァの好みとしては、ショートパスタなら歯ごたえが欲しいのでマカロニかペンネぐらいの大きさは欲しい所だ。


 どの地域でも人気なのが串焼き肉。

 香辛料が豊富に穫れるだけに、このオアシスの羊肉の串焼きが一番美味しかった。屋台の中では。


 ちなみに、シヴァもアカネも朝食はちゃんと食べて来た後なので、アカネは一口二口、後はシヴァが食べている。


 アラブ料理のひよこ豆のコロッケ、ファラフェルっぽいものも売っていた。豆は異世界産だが、同じ砂漠なだけに料理もやはり似通うらしい。


 散々食べ歩き、色々食材も買ってから、ようやく街の外へ。

 アカネもダンジョンの砂漠経験は何度もあるので、ダンジョン外の砂漠に拍子抜けしていた。

 移動手段は二人共人工騎馬で。走った飛んだ方が速いが、他の冒険者たちも近くにいるので、ここはあまり目立たないように。


 やがて、アカネが30cmぐらいある砂漠サソリを見付け、どうするのかと見ていたら、土魔法で砂漠サソリを空中に放り出し、風魔法で砂を飛ばしてから凍らせ、そのまま【チェンジ】でマジックバッグに収納した。


 加減を間違うとサソリが潰れてしまったり、吹き飛んだり、余計な物まで収納してしまうのに、アカネは馬を止めもせず簡単にやっていた。

 可視範囲の任意の場所に収納した物を出せて、触れなくても収納も出来る改良版【チェンジ】のスクロールをアカネは覚えたので触れなくても収納出来るのだが、かなり繊細な魔力操作を必要とする。


 シヴァは拍手を送った。


「上手くなったなぁ、魔力操作」


「それはもう練習したしね。…はい、五匹、で終了」


 群れにはならないサソリだが、近くにいるので依頼達成は容易かった。探知魔法が使えれば、だが。


 街から近い所の砂漠羊は、既に他の冒険者が討伐しているらしく、少し距離のある所にしかいないので、そちらまでまったりと馬を走らせた。

 途中でジャイアントワームやデザートキラーマンティスを倒しつつ。


「…あ、カニ、いたぞ!」


 予定変更。

 シヴァは羊じゃなく、カニを優先し、そちらへ向かった。サンドキャンサーは砂の中に潜って獲物を待つため、気配を殺すのが中々上手いのだ。


「わたしにやらせて!魔石をぶち抜く」


 拳を握ってアッパーポーズ、ということは魔道具拳銃を撃ってぶち抜くワケではないらしい。


「…豪快デスネ…」


「適当に切っても耐熱結界で蓋すれば、旨味は逃げて行かないよ。凍らせるのも味が落ちるしね」


 色々考えたらしい。結界使いが贅沢だが、確かに最適かもしれない。

 アカネは本当に拳で魔石を打ち抜いて、5m級のサンドビッグキャンサーをゲットした。


 それから砂漠羊を探し、群れでいたので三頭あっさりゲット。

 3m前後と大きいので依頼は一匹だが、美味しいので在庫に。


 ******


 さて、戻る前にデーツがある小さいオアシスに、と思った時、シヴァたちの側をトカゲに乗った冒険者たちが爆走して行った。

 わざわざ、ルートをシヴァたちの側になるよう方向転換までして。トカゲ三匹、人間五人なのでパーティだろう。


「なすりつけってヤツだね」


「キラーマンティス程度で逃げるワケか」


 デザートキラーマンティス五匹は、アカネがサクサクとショートソードで切り捨てた。

 魔石とカマ以外は大した値段が付かないので、不要部分はさくっと燃やす。


 なすりつけたパーティは「ふふん、頑張ってね」みたいな顔がムカついたので、シヴァがトカゲから全員蹴り落として放置。

 色々折れてるだろうが、かなり手加減している。

 騎獣のトカゲもなしで、地道にせっせと歩くがいい。

 誰も戸惑わず、明らかに慣れていたことから、今までもロクなことをしてなさそうなので、命運は尽きてるようだが。


 砂漠で捕まえたレンタルトカゲは、貸し騎獣屋に持って行くと、買い取ってもらえる。

 どこが貸したかの区別がないし、そんな時のため、借りる時に保証金を預けるのである。

 なので、トカゲ三匹は眠らせて影の中に入れてから、シヴァとアカネはデーツがたっぷりっている小さいオアシスに転移した。



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新作☆「番外編40 最強種の黄昏(たそがれ) ― 捕食者side ― 」

https://kakuyomu.jp/works/16817330656939142104/episodes/16818023213376231504

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