248 『幸せの味』は妻のお菓子

 そのまま、さくさく進み、60階のフロアボス部屋前にて休憩にする。


「じゃ、飛べたお祝いに、お茶菓子はアカネが焼いてくれたカステラパンケーキにしよう」


 18cmぐらいのスキレット風陶器皿に、こんもりとドーム状に膨らんだパンケーキで十字に切れ目が入っており、その上に更にバターと粉砂糖。高品質な蜂蜜を好みでかける。

 美味しいに決まっているお菓子だ。絵本のパンケーキを再現したものらしい。

 見た目もかなり美味しそうである。

 鉄のスキレットにしなかったのは、こびり付くからだ。


 一人一つずつ蜂蜜もかけて配り、いただきます、と手を合わせて食べ始めた。シヴァとデュークはフォークだ。


【ふわっふわでかるいっ!】


 美味しいのは当たり前なので、デュークはそこに驚いたらしい。


「そう。ここまで軽い食感にするのはおれには無理。ポイントのさっくりかき混ぜる、のさっくりがいまだによく分からねぇし」


 もちろん、にゃーこたちにもコアたちにも無理だった。

 お菓子作りの経験とカンがないと、同じ材料、同じ手順でも食感も出来栄えも変わって来るのだ。

 時間停止の収納があるのをいいことに、まとめて作ってもらってあるが、在庫を気にしながらもったいぶって食べている。


【なんかスフレっぽい?】


「そう。だから、冷めるとしぼむ。時間停止の収納があればこそ、持ち出せるってワケだ」


【そうなんだ。アカネさん、おがみたくなるね、ときどき】


「分かる分かる。『幸せの味は何?』って訊かれたら、アカネのお菓子を挙げるし」


【…それ、いぶくろつかまれてるだけじゃない?】


「胃袋も心も身体も。…バロンも気に入ったようだな」


 バロンはレベルが上がったおかげで、熱耐性も上がったので、猫舌でヤケド、というのはなくなった。


【バロン、なんでもすきじゃん!ぼくもだけど!】


「それでいいって。デュークはもちろん、バロンもまだまだ育ち盛りだしな」


【バロン、まだおおきくなるの?】


「魔物辞典によると平均3mぐらいらしいけど、栄養がよければ、もっと大きくなるんじゃね?」


【じゃ、ぼくとどっちがおおきくなるの?】


「さぁなぁ。いい勝負かも」


【あまりおおきくなっても、いろいろつっかえそうなんだけど】


「まぁ、そりゃ仕方ねぇって。それもおれはよく分かる」


 シヴァは190cmオーバーだが、そこまで長身じゃない国育ちなので作りが小さい所も多く、たびたび色々とひっかかっていた。


 ******


 60階のフロアボスはロック鳥だった。

 アラビアンナイトに出て来るロック鳥のように1km以上もあると言われている伝説の魔物ではなく、せいぜい20mぐらいだ。


 ボス部屋と言うより、フィールドフロア並みのだだっ広さだったが、死角も多いし、わずかな影さえあればバロンが影転移して接近出来るし、デュークはライフルも持っているので、さほど時間をかけずに倒した。

 二十分ぐらいか。


 ドロップは魔石の他に久々に宝石付きキラキラ宝箱が出たが、宝箱自体には大してレアな素材はなかった。


【火鼠の衣・火耐性アップ】


【ロック鳥の羽・風属性付与アイテム作成素材】


 中身も大したものは入ってなかった。中級冒険者パーティが楽々攻略出来る60階程度ではこんなもんだろう。


 ロック鳥はダンジョン以外では見かけたことがなく、もちろん、その肉も食べたことがないので肉を出して欲しかった。

 マスターになった後は肉を出そう。


 61階以降は、属性が偏った魔物が増えて来て、70階以降は魔物自体の数も増えて来て二匹の手に余り始めたので、さすがにシヴァも手伝った。あくまで、手伝い程度しか手を出さない。


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