249 なに、そのぎもんけいは~

 時々休憩を挟みつつ、90階。

 フロアボスはマンティコア。人面ライオンである。体長3mぐらいだが、かなり素早く物理攻撃も魔法も得意。

 Aランクに分類されている魔物だが、個体差が激しい。

 人型魔物の気持ち悪さはなく、人間と見間違うことがないマネキンみたいな顔はまだマシだった。


 何にしてもまだ子供の部類の従魔二匹では太刀打ち出来ないので、今回は見学。

 最初からシヴァが対峙し瞬殺した。

 一気に距離を詰め、合金刀で首をねて終了、だ。


【……え、え、なに?ドロップにならないんだけど】


 シヴァの戦闘力に関しては今更だからか触れず、デュークはドロップの方を気にした。


「これがダンジョンエラーだ。24回目か。想定外で対応が遅れてるってこと。討伐時間が一秒ぐらいじゃそうなるわな」


 エラーに驚いたコアが側に来るので、シヴァならさっくりコアルームに踏み込んでマスターになることも出来るが、今回は急いでいないし、デュークとバロンに徐々にダンジョン探索するのを経験させて、レベルアップをするのも目的なので見送った。


 生臭いので防臭結界を張り再び休憩してると、やはり、十五分程でドロップに変わった。

 ドロップは定番の魔石と木箱に入ったお馴染みの【植物図鑑16~18巻】、そして、ビロードの宝石箱に入った【マジック収納バングル】だった。


 このマジック収納バングル、時間停止で5m四方の大きさがあり、手を触れずとも出し入れ出来て脳内リスト化も出来る。時間停止機能があるアイテムボックスの下位互換ということだ。

 シヴァが作った収納イヤーカフとは、まったく比べ物にならない性能だが、一般的にはかなりの破格ドロップだろう。

 レアドロップ率がよくなるシヴァの称号のおかげか。


「買い物に行くホテル従業員に貸し出すか…あ、ヒルシュに譲るのもあり?」


【てきせいかかくなら、てがだせないんじゃないの?】


「そこは分割払いで。バングルなら目立たずに済むし、普通のマジックバッグに入れたフリすりゃいいだけだし。っつーか、食材の鮮度を保つためと、新しい料理が出来たらすぐ出来立てが食いたいからって預ければいっか。無期限貸与。…となると、5m四方は手狭」


 ちょうど出たマンティコアのAランク魔石で20m四方に改良し、ついでに通信機能と緊急通知機能も付けた。

 【チェンジ】より便利に、任意の場所に出せるし、手で触れなくても収納出来るようにした。アイテムボックスのように。


【20mってかなりのおおきさじゃないの?】


「『大は小を兼ねる』という格言もあるんだよ。まだ短い付き合いだけど、ステータスの経歴を見てもまったく問題ねぇし、【直感】スキルも反応なしだし」


【けいれきって?】


「今まであった印象深い出来事の簡略箇条書き。鑑定スキルのレベルが上がって、他人や魔物のその辺も見れるようになっててさ。そうじっくりステータスなんて見ねぇから、しばらく気付かなかったんだけど。犯罪者が街に入れねぇのはその経歴が分かる魔道具で判断してるんだけど、それの詳しい版だな」


【なんとなくわかった。シヴァ…マスターはわるいことじゃなくてもみれるってことね】


「そ。ヒルシュの腕がいいと思ったら、以前はある貴族の専属料理人だった。権力争いでか、その貴族は没落して、他の貴族に雇われるには紹介状が必須で難しいから、街の食堂に来たようだな。家族構成はヒルシュが話した通り、妻は数年前に病で亡くなり、行商やってる成人した息子が一人」


 ヒルシュは三十八歳でまだまだ働き盛り。

 平民も早婚なので二十歳前後で結婚するのが平均的だ。十九歳の息子は雇われじゃなく独り立ちした商人で、当然ながら数年は修行のため、そこそこ大きい商家で働いていた。

 まだまだ物流が弱いこの世界、父親のためにもたくさんの食材を、ということらしい。親子関係も上手く行ってることは窺えた。


【ぎょうしょうやってるんなら、しゅうのううでわ、ほしがらない?】


「欲しがるに決まってるから、息子にもマジックバッグのことは内緒にしてるって言ってただろ。大丈夫だって。自分で手に入れてこそ、というのも分かるしな。それに、通信機能を付けたから、見慣れねぇバングルしててもマジック収納バングルだとは思ねぇって。アクセサリー型収納ってただでさえ、滅多にドロップしねぇし。称号のおかげでレアドロップ率が高いおれでも初めてだぜ?マジックバッグ類は結構あっても」


【そうなんだ。…って、ぼくのくびわやマスターのイヤーカフにしゅうのうつけたのって、ものすごいことなんじゃないの?】


「多分?」


【なに、そのぎもんけいは~】


「収納付きアクセなんて持ってたら、絶対内緒にすると思わねぇ?だから、実態が掴めねぇんだよ」


【まぁ、たしかに。ぼくもアイテムボックスのフリしてるしね。…あ、じゃ、アイテムボックスをもってるひとのなんにんかは、ほんとうにスキルをもってないかもしれない?】


「可能性は高いだろうな。マジックバッグで誤魔化してる人も多いだろうけど。【チェンジ】という使い勝手のいい魔法も広めてるしな。…さて、今日は100階まで行っておしまいで、ギルドに納品に行くぞ」


【はーい。ヒルシュのとこは?】


「夕食終わってからで。他の店でも食ってみてぇだろ。王都ドリフォロスの街中はさらっと見ただけだし」


【そうだね!】


 ……ということで、91階からはシヴァが主導でさっさと探索を進め、あっさりと100階に到達した。


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