247 やった、とべた!

 そこに、セーフティルームに冒険者たちが慌てて入って来た。

 魔物に追いかけられて、ようやく、という感じらしい。

 五人共、大小怪我をしている。Dランクが多いパーティなので、実力より背伸びしてしまったたぐいだろう。


 シヴァたちは話しながらも食べ終わり、食後のお茶をしている所だった。

 バロンはお茶は好みじゃないようなので、水だ。セーフティルームじゃなくても、ソファーにまったりと座る魔物は従魔以外にはいないので、誤解されることはない。


「…も、ものすごくくつろいでるんだけど…」


「…いつの間にか転移トラップで飛ばされたのか?ここ、ダンジョンだよな?」


【ダンジョンだよ。45かいのセーフティルーム。いいじゃない。くつろいでても】


「まぁ、それはそうだけど…誰がしゃべったっ?」


【ぼく。こどもグリフォン。ねんわをだれにでもきこえるようにするマジックアイテムのおかげ】


「そ、そうか」


 毛づくろいを始めたバロンを見て、冒険者たちはギョッとした。


「ぐ、グレートパンサー?」


「フォグパンサーじゃない?」


 霧豹か。その名の通り、霧に紛れるスキル持ちだが、頭はよくなくどこにいるのか分かり易いため、Cランク魔物だ。少し大きくて爪も大きいグレートパンサーも同じくCランク。

 シャドーパンサーはBランク魔物である。


【どれにしたって、ぼくのほうがまものランクがたかくない?まぁ、まだこどもだけど】


「愛想いいから脅威ではない、判断なんだろ。…さて、そろそろ行くか」


 関わり合う気はないので、シヴァはさっさと飲み物とソファーセットを片付けつつ、立ち上がった。


「あ、待っ…」


 呼び止めるような声は気のせいだろう。

 バロンもデュークも用心しながらも、さっさとセーフティルームを出た。


 45階で辛くも魔物から逃げて来る連中に、転移魔法陣がある50階か40階まで行くのはかなりリスクが高い。

 エスケープボールのドロップ率もそう悪くないようなので、さっさと使えばいいだけだ。フロアの途中のどこからでも使えるのが、エスケープボールである。


「せっかく45階まで来たのだから、50階の転移魔法陣まで一緒に行きませんか。どうせ、50階まで行くでしょう?」


 そんなことを言い出し兼ねなかったワケである。こっちにメリットはまったくない。エスケープボールを使ったのなら、1階の転移魔法陣に出るので、40階までしかマークされてないことになる。


 その辺の事情はデュークもバロンも分からなかっただろうが、シヴァが相手にしなかっただけで、関わらない方がいい相手認定はしたのだろう。


 ******


 50階以降のフロアでは、小部屋を通り抜けないと進めないような作りになっていた。

 そうなると、典型的な罠、モンスターハウスにたびたび遭遇することになる。


 その名の通り、魔物が大量に涌く部屋で、下手すれば全滅するパーティもあるが、戦闘力が高い者にとっては返って戦い易くもある。

 身動きが取れない程、ギッチリと魔物が涌くワケではないし、範囲攻撃で一掃出来るからだ。味方に当てないよう注意は必要だが。


 シヴァの場合はもう一つ、魔法の威力の繊細な調整をする必要があった。雷撃で倒すのではなく、痺れさせて、トドメはバロンかデュークに、ということで。


【…はんそくすぎるよね。しみじみとマスターって】


「別にルールなんかねぇんだから、反則もねぇぞ」


【いや、つよすぎてズルイといわれるようなはんそく。おかげで、ぼくもレベルあがってもう75】


 パワーレベリングで50まで上げてやった後は、鍛錬の時にちまちま倒して地道に上げていたが、ダンジョン探索だと段違いなのだろう。


「いいことじゃねぇか。バロンも54になったし、次のモンスターハウスは自分たちで倒してみろ。おれはフォローだけってことで」


【わかった。がんばる!】


「がうっ!」


 デュークもバロンもやる気十分だった。

 何となくしか意思疎通が出来ないバロンにも、シヴァが強くしてやってるのは分かったらしい。

 影魔法も大分こなれて来て、影拘束を覚えたし、影転移も距離が伸びた。

 そして、仲間と連携することも徐々に分かって来ている。野生だっただけに戦闘に対するカンもいい。

 デュークもネコ科特有の戦闘の仕方をバロンに教えてもらえたので、徐々に戦闘力も上げて来た。


 次のモンスターハウスでは、シヴァは二匹をアクティブ結界で守るようなことはしなかったので、どうしても細かい傷は負ってしまっていたが、だからこそ、今後は気を付けようと思えるし、防御力も上がるのだ。戦闘は圧勝である。


「お?飛んだな」


 突進して来たカウ系魔物をよける時に跳躍したデュークだが、そのままバサバサと羽ばたいて飛んでいた。翼は舵取り程度の役割で実質は飛行魔法だ。


【やった、とべた!おもったよりはやかった!】


 ファルコが生後半年ぐらいで飛べるようになると言っていたのだが、デュークはまだ四ヶ月半だ。レベルと魔力量が一定を越える必要があったらしい。


「おめでとう。ファルコとベレットさんに報告しねぇとな」


【うん!…あ、ごめん。バロン。ありがとう】


 突進して来たカウ系魔物を仕留めたのは、結局、バロンだった。

 ドロップはもちろん肉。バロンの影収納に落ちて行く。

 後で回収だが、シヴァに渡すのを嫌がったりはしない。美味しく料理してくれて、たくさん食べさせてくれるのが分かっているからだ。



――――――――――――――――――――――――――――――

100万PV記念SS「番外編35 取って来ーい!」

https://kakuyomu.jp/works/16817330656939142104/episodes/16817330669694925160

更に4コマ漫画2本追加!

https://kakuyomu.jp/users/goronyan55/news/16818023211775236390

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る