第12話
新年を迎えた。
雅史の事やケンの事も、もう、忘れたかのように、日々は過ぎて行った。
ママの体調の関係で、ひかるの働いているスナックは春に閉める事になった。
これを期に、ひかるは知り合いの社長の経営する、カフェ&レストランで昼間、勤める事になった。
しばらくは、昼夜と働く。
しかし、あかねやママに可愛がられ、気持ちの暖かいカフェ&レストランのスタッフに囲まれて、楽しい時間を過ごしていた。
そんな折、久々に、ひかるのスナックへ、初めてケンを一緒に連れてきた客がやって来た。
「店、閉めるんだってな?」
席につくひかるは答える。
「うん、長い間ありがとうね。でも、あかねおねぇさんは、他の店、移るから遊びに行ってあげてや」
「ひかるは?」
「あたしは、ファミレスでウェートレスや。でも、たまにはあかねねぇさんとこ、手伝いに行くから」
カラオケや会話で盛り上げて、楽しい接客をした。
「そう言えば、ケンはたまには来る?」
歌い疲れた客は、ひかるとケンの関係を知らずに、ひかるに訊いた。
「もう、だいぶ来よらんよ」
「そっか…あいつ、ホストになってから、付き合い悪くなってさ。なんでも、客の女と同棲しているらしいよ」
「そうなんや…」
久々に、ケンとの楽しかった日々を思い出した。
涙が出そうになったが、グラスの酒をイッキに飲んで、誤魔化して、明るく客に声を掛ける。
「ブルーハーツ、唄ってや!盛り上がろうぜ!!」
大丈夫…。
ケンは、もう想い出。
大丈夫…。
あたしは、もう、大丈夫や…。
雅史やケンを忘れ、そして、春が来て、梅雨が明け、夏が過ぎて、秋になった…。
仕事終え、のんびりと部屋でひとりテレビを観ながら、くつろいでいる。
メール着信音。
振り分けのしていない着信音に、ひかるは、携帯を手に取った。
誰からやろ?
“受信 ケンちゃん”
ケンからのメールだった。
“久しぶり!俺はホストやめて、昼間の仕事してる。ひとりで頑張っているよ”
“あたしも、昼の仕事、しとるんよ。楽しくやってます。幸せに過ごしてます”
ひかるからのメールで、すべてを察したのか、その後、ケンからの返信は無かった。
秋の夜更け…。
ひかるは、引き出しの奥から、小瓶を取り出した。
GUCCIの香水…。
瓶の中には最後の一滴。
布団に入り、最後の一滴を身体に振る。
懐かしいケンの香りがした。
ケンとの楽しかった時間が頭に浮かんでくる。
そして、雅史の安らぎも蘇ってきた。
2人共、今でも嫌いになって、いないんだよ。
まだ、2人共、好きなんやよ…。
でも、もう、想い出だから…。
今日だけ、想い出してみます。
想い出して…。
少し泣きたくなりました。
泣いていいですか?
秋の夜更けだから…。
少し、泣いてもいいでしょ?
ひかるは、小瓶を握りしめて眠った。
涙で枕が濡れていた…。
エピローグ
翌朝、ヒカルの目覚めたい時間になると、ラインが届く。
“起きろ!!明日から休みだろ?今夜、横浜へ来いよ!明日はディズニーに行くから楽しみにしてろよ”
ヒカルを愛するぢぢぃからのライン。
ヒカルは、まだ、照れ臭くて、ぢぢぃへ愛してるよって言えないが、ぢぢぃの愛に包まれることに幸せだった…。
“元町のカフェにも、連れていけよ”
“おぅ!まかせろ!!”
ぢぢぃは、なんでも話せ、わがままの言える自分に変えさせた。
それは、ひかるが望んだからだ。
楽しさと安らぎがある。
そして、愛がある。
「あかねねぇさん…あたしは、いい女に生まれ変わったよね?」
ひかるは、今、輝いていた…。
完
香水〜ひかる ぐり吉たま吉 @samnokaori
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