おかえり

 私たちは住宅棟の09375号室までメリッサを送り届けた。

 すると、家の中には既に帰宅していたシメナの姿があった。

 シメナは一瞬驚いた後、すぐにメリッサの元に駆け寄り感情をぶつける。


「メリッサ! メリッサどこにいってたの!? 心配したのよ!?」


「あー、うーん」


 メリッサは視線を逸らしながら沈黙を貫いた。


 エスランティはおでこに手を当てながら説明し始める。


「シメナさん、まずは娘さんがなぜ姿を消したか、理由は推測できますか?」


 シメナは戸惑いながら左上を見つめた。


「えっ、そうですね……。家に居るより、もっと違う場所で遊びたかったとかでしょうか? 危険なことには巻き込まれてはいないなそうですし」


「メリッサちゃん、どうかな?」


 メリッサは右下の床を見つめながら不快そうな顔をする。


「そんなわけないでしょ」


「理由、今言えるかい?」


「お母さんとお父さん、いつも野菜の世話ばっかり。ワタシはいつも一人なのよ。友達と一緒に過ごして楽しい時間を満喫してたっていいでしょ!」


「でも、私たちが野菜の面倒を見てあげないと、みんなの食料が。フレシュランのみんなの食事が」


 私も食物栽培を担当しているけど、特に時間が無いわけでは無い。

 シメナの言葉に疑問を抱きながら質問する。


「あのシメナさん、ちょっといいですか? 一日中、夜の間も栽培の仕事を続けているのですか?」


「ええ。みんなの手が薄くなっている時に何かあったら困るから、私たちは面倒を見ているわ」


「べつに夜面倒を見なくても大丈夫だからみんな帰宅しているんですよ。だからシメナさんたちが頑張らなくてもいいんです。帰ってメリッサちゃんの事を見てあげてください。彼女と過ごしてあげてください」


「絶対に大丈夫だとは言い切れないでしょう?」


 そんなこと言われたらどうしようもない。

 今私たちがこうして平穏な日々を過ごせているのはシメナ達の努力のおかげで成り立っている可能性は無いとは言えない。


 エスランティは顎を軽く掴みながら呟く。


「ふむ。シメナさんの言い分はわかりました。ようは人が居なくなった夜に野菜……だけでなく、栽培している食料の安全が確保されればいいんだね?」


「えぇ、まぁそうですね」


「それはシメナさん達が担う必要が無くないですか? もっと別な暇を持て余してる人に任せてみてはどうかな?」


「私もそう考えていましたけど、私たちのように心配している人で暇そうな方が見つからなくて」


「ではこうしよう。しばらく夜は野菜の世話をやめてみましょう。それで空いた時間を活用して、夜仕事してくれる人を探します。今まで以上に本気の取り組んで人探しをして、代わりにやってくれる人を何とか見つけ出しましょう。これはメリッサちゃんとフレシュランどちらも救う手段です」


「でも、その私たちが目を離してる期間にもしものことがあったらどうすれば」


「その心配もすでに解決されています」


 エスタンティは笑みを浮かべ、右手をおでこに当てながら左指をビシッと私に向けてきた。


「彼女が、シエラ君がしばらく夜の担当をしてくれます。これでシメナさん達の不安は解消されました。さあ、メリッサちゃんの不満を取り除くために、早速今日から取り組みましょう!」


 嫌な予感が的中してしまった。

 どうして私がそこまで動かなければいけないのか。


「ちょっと、勝手に話を進めないでください! いつ私が夜も仕事しますって言いましたか!?」


「シエラ君、君はシメナさんとメリッサちゃんを見捨てるというのかね?」


「そういうわけじゃないですけど」


「シエラ君、彼女たちを助けたければ、シエラ君が動くしか今は手段がないんだ。分かってくれるかい?」


 理解はできるけど、納得がいかないし、そもそもやりたくない。


 シメナは深く頭を下げて懇願した。


「お願いします。シエラさん、私たち親子を救ってください。私たち家族を助けてください。ほら、メリッサも頼みなさい」


 メリッサもすぐに目をつむりながら頭を下げてくる。


「シエラさん、お願いします。ワタシを見捨てないで」


 エスランティは腕を組みながら、顎を突き上げ私を見下ろしてくる。


「さあ、シエラ君。彼女たちを助ける気はあるのかい? シエラ君はそんなことする人じゃないだろう? 君の優しくて優秀な能力は僕がしっかり見てきた。今ここで活用する場面だよ。シエラ君ならできる」


 三人して私を救世主のような扱いをしてきた。

 もう流れを変えることが出来ない気がする。

 諦めた私は渋々言葉を漏らしていく。


「分かりましたよ、やりますよ! やればいいんでしょう! シメナさんたちのように上手くできるか分かりませんが、いろんな種類の作物を見て回りますよ。夜の作物の面倒は私がやります。フレシュランの食料の安全は私が守ります。シメナさんは家族の問題に集中して取り組んでください」


「さすがシエラ君。そう言ってくれると思ってたよ」


 こうして私の奇妙で忙しい一日は終わった。

 大変だったしもうこんなことは起きて欲しくないと思う。

 だけど心が充実していた気もする。


 しばらくは寂しい夜を過ごさなくてよさそうだ。

 作物たちが私を慰めてくれる。

 代わりに日中の作業は抑えて行おう。


 私の栽培作業、夜の部が始まるのだった。

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湖中都市の騒がしい日常 !~よたみてい書 @kaitemitayo

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