耳の中にできたイボから声が聞こえてくる

ねねこ

第1話

ある男の耳の中にイボができた。

5ミリほどのサイズで、さほど大きくはない。ただ、耳の中にできたのでとても気になる。かといって、痛くも痒くもないので、病院に行く程のことではないかと思い、塗り薬だけ塗って放置していた。


1週間が経った。イボは消えるどころか、1センチまでに膨れ上がっていた。耳鳴りも酷い。"これはおかしい、病院に行かなくては"と男は感じたが、何せ仕事が忙しい。男はかなりの高収入者ではあったが、仕事は激務だったので、病院には中々行くことができないでいた。


1ヶ月後、イボは2センチまでに成長していた。気のせいだろうか、イボから人の声が聞こえてくる。いらっしゃいませ、いらっしゃいませ、いらっしゃいませ、いらっしゃいませ、いらっしゃいませ。この言葉だけが永遠に聞こえてくる。気持ちが悪い。これは只事ではないと感じ、ようやく男は休みを取って病院に行くことにした。


「イボなんて見当たりませんよ」


「え」


医者から言われたことに、男は耳を疑った。


「何言ってんだ、ちゃんと見てくれよ!

右耳に2センチ程のイボがあるだろ!ほら!」


医者は怪訝な顔をしながら、再度耳を診察した。


「両耳見ましたけど、何もありませんよ。いたって、健康な耳です」


男は絶句した。何故この医者にはイボが見えないのかと。ヤブ医者かもしれないと、他の医者も訪ねてみることにした。結果は同じだった。


何なのだこれは、なんなんだ!!!


いらっしゃいませ、いらっしゃいませ、いらっしゃいませ、いらっしゃいませ。




1ヶ月後、男は自殺した。男の部屋には、一面”いらっしゃいませ”という文字が書かれていた。



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