第8話 ドルネケバブ

 今日は朝早く起きれた。

 朝ごはんは甘いキイチゴのジャムをたっぷりと塗ったトーストされたパン・ド・ミーである。こういうシンプルな朝ごはんっていいわよね。コーヒーも甘いトーストと一緒に食べると良い感じ。


「みんな、今日は何するの?」


 あたしがそう聞くと、それぞれ答えてくれる。


「わたしは今日も遺跡に関する情報を集めようと思うよ」


 アネッサはいつも通りである。どうして遺跡探索をするのか気にはなるけれども、もはや彼女のライフワークなのかもしれない。


「私はエルマンといるわ」

「俺は事務仕事は昨日あらかた片付いたんでな。プリシラが何か用事があるなら同行するぞ」


 つまりは、特に用事は無いもしくはあたしと交流を深めてくれるつもりのどちらかだろう。食べ歩きは今日の夜に決行する予定だったし、朝と昼は二人に同行してもいいかもしれない。鎧に関しても、なんだかんだで強敵と戦ったせいで傷ついているし、せっかくだしガンテツさんに見せてみるのもありかなと思った。

 ただ、あの人って”剣”は見てくれるって言ったけれども、鎧はそうとは言ってくれてないのよねぇ。

 まあ、これはお昼過ぎていくとして、朝はどうしようかな。


「うーん、朝は特にすることが無いのよねぇ。お昼だったら、鍛冶屋さんに鎧を見てもらおうかなって思ってたけど」

「そうか、なら、午前中は俺たちに付き合ってもらうという感じで構わないか?」

「いいわよ。昼の用事が昼の用事だから、冒険者の装いで今日は活動するつもりだけど……」

「ああ、その方が良い。アネッサも来るか?」

「……そうだね。わたしだけ一人というのもそれはそれで構わないけれども、そう急ぐ話じゃないからね。付き合うとも」


 というわけで、あたしたちはエルマンに付き合うことになった。

 エルマンの用事というのは、教会での用事で、子供たちの面倒を見るというものだった。どこの教会でもそうだけれども孤児を引き受けるところが多い。元気な子供たちの姿を見るのはあたしも全然望むところだったし、国によってはそもそも、あたしも子ども扱いされる場合もあるけれども、ここではそうではない。


「すみません、助かります」


 修道女さんにそう言われる。あたしとしては子供をあやすというよりも一緒に遊んであげてるだけなのだけれどもね。年が近い子が多いし。


「プリシラさん、よろしいですか?」


 そんな感じで子供たちの面倒を見ていると、修道女さんが声をかけてきた。隣にエヴォス教会の聖騎士の人がいる。


「え、はい、どうしました?」

「おお、あなたがプリシラ・ヴェルトリスさんだね」

「は、はあ……」

「私はジョージ・エルネストン。エヴォス教の聖騎士だ。よろしく、お嬢さん」


 あたしは頭の上に「?」を浮かべる。なんで聖騎士様があたしに話しかけてくるのだろうか? それも、めちゃくちゃダンディな声の。


「おっと、困惑させてしまって申し訳が無い。エルマン神父から一人で盗賊団を壊滅させた冒険者と同じパーティになったと聞いてね。一目見てみたいと思ったのだ」

「は、はぁ」

「ああ、エルマン神父には内緒だよ。彼は私の顔を見ると、毎回苦虫を噛み潰したような表情をするのでね」


 どうやら、ジョージという人はエルマンと知り合いのようだ。あたしは気を取り直して、話を聞いてみることにした。だんだんと冷静になり、とんでもない事態になっていることはこの時にはだいぶ自覚していた。


「えっと、はそれだけでわざわざこんなところにまで来るような人じゃないですよね? あたしにわざわざ会いに来たんですか?」

「ふむ、洞察力があるのは冒険者として必須の技能だね。そうとも、私はまさに君に会いに来たんだよ」


 あたしはいぶかしむ。ジョージ・エルネストンと言えば、エヴォス教の総本山である聖神国キャメロットに所属する13に数えられる人物だからだ。そんな人物がこんな遠く離れた国に来ているはずがない。

 ちなみに、エルマンの言う聖女がいるのも聖神国キャメロットである。

 珍しく緊張で胃が急に痛くなってきた。実際冷や汗もすごかったと思う。


「ああ、緊張しないでくれたまえ。今日は挨拶をしに来ただけだからね」

「異教徒のあたしにですか?」

「神の導きに、信仰している宗教など関係あるのかね? ああ、もちろんエヴォス教に宗旨替えを勧めに来たわけでもないよ。もちろん私としては宗旨替えは歓迎するがね」

「は、はあ……」


 にこやかにほほ笑むジョージ卿。だけれども、隙は一切なかった。もちろん攻撃するつもりも無いけどね。ただ、どう考えてもあたしより強いのは明白だった。


「おっと、そろそろエルマンの奴も気づくころだな。私はこれでお暇するとしよう。では、また会おう。お嬢さん」


 ジョージ卿はそう言うと、快活に笑いながらその場を後にした。その後、入れ替わるように慌てた様子のエルマンがやってくる。


「おい、プリシラ! ここにジョージっておっさんがやってこなかったか?!」

「話しかけられたわ」

「おいおい、マジかよあの人行動力の化身過ぎるだろうが!」

「エルマンって、ジョージ卿と知り合いなのね」

「ああ。ってあの人どこまで喋ったんだよ……!」

「大したことはしゃべって無いわ。それより」


 あたしはエルマンに聞くべきことができてしまった。もちろん、教会の偉い人っぽいエルマンがあたしたちとの活動を報告するのは問題は無いけれども、なぜ、ジョージ卿のようなどえらい人物があたしごときに挨拶しに来たのか。その疑問を解消する必要があった。


「教えてくれるわよね?」

「……そうだな。ジョージ卿まで出てこられちゃ黙ってるってのが不誠実だ。わかったよ。ただし、聞いたことを後悔するなよ?」


 あたしは、エルマンに話を聞いたことを後悔することになった。


 アネッサとルヴィーサと合流し、懺悔室の一つを借りてあたしたちはエルマンから話を聞くことになった。


「さて、まずはお前らに『神託』の内容を伝えなきゃならん」

「まあそれはそうだね。わたしたちがパーティを組む原因でもあるのだからね」

「正直、もうちょっと時間が経った後に伝えようとは思ってたんだがな」


 エルマンは頭を掻きながらそうぼやいた。


「で、肝心のジョージさんはどこに?」

「ジョージ卿は帰ったらしい。俺も顔を見せてくれなかったんで知らん」

「そう……」


 少し残念そうな顔をするルヴィーサ。どうやらジョージ卿とルヴィーサは知り合いらしい。


「さて、肝心の『神託』の内容だが、基本的には口外禁止だ。なんてったって、聖女様の『神託』だ。下手に流布されても混乱を招くか、戯言として一蹴されるだけだからな」


 一般的に『神託』は、信用すべきものとして広く知られている。実質、宗教関係者から一般市民への強要になることが多いが、『神託』であることを偽ると、その途端に神聖魔法の行使ができなくなる等の『神罰』が発生するため、そう易々と『神託』であることを宣言できない。また、『神域』……神様が住む場所と言われている場所は、時間や空間を超越した場所にあるとも言われていて、要するに未来が見えるわけであるが、そこから与えられる『神託』は当然ながらより良い未来に進むための指針になるものが多い。

 こういう前提をもとに、よりはっきりと『神託』を受けることができる聖女様の『神託』がレベル違いにやばいものになるというのは想像に難くないだろう。

 まあ、この手記を出版するころにはこの『神託』も公開されているだろうし、遠慮なく書いちゃうわね。


「聖女様曰く、『間もなくこの世界に恐るべき厄災が起きる』そうだ。『放置していれば当然ながら”大破局”クラス、最悪人類絶滅の恐れがある』とのことで、『【魔の根源】を徹底して封印せよ。そして、【勇者】を集めよ』という内容だ」

「……わぁお」

「面白いね」


 冒険者ギルドの方でも【魔の根源】の発見報告・封印の義務化はもともと通達されていた話である。【勇者】に関しては、それはファンタジー小説で出てくるようなお話だ。魔王を暗殺する戦士、それが【勇者】の一般的イメージである。例えば、異世界に転生して~とか、血筋が勇者の家系で~とか、そう言う特別な人たちがなるというイメージがあるわね。もちろん、物語の中の話ではあるけれども。本当に【勇者】なんて称号があるだなんて聞いたことも無かった。


「娯楽小説みたいな、結構突飛な『神託』来ちゃったわね。で、その【勇者】ってのがあたしとでも言いたいわけ?」

「俺はそうにらんでいるが、もしかしたらそうじゃないかもしれない。どちらにしても俺の受けた『神託』はお前たちを見極めることだけだからな」

「お前たち、というと、わたしも含まれるのかい?」

「ああ、そうだ」


 【勇者】……その称号にふさわしいのはお父さんだろうなとあたしは考える。

 あたしは単純にお父さんならこうするだろうと思って人助けをしているだけだ。手記には書いてないだけで、困った人が居たら手を貸しているのも、お父さんならそうするだろうと思ってやってることだしね。それにやっぱり、人から感謝されるのはうれしい。

 そこまで考えて、あたしはお父さんも【勇者】候補に選ばれるのかなと考えついた。同じ【勇者】になれば、もしかしたらお父さんと会う機会があるかもしれない。ただ、お父さんもあたしもエヴォス教徒ではないことが問題だけれどね。


「じゃあ、ルヴィーサも……」

「いや、お嬢はただの家出娘だ。最初はジョージ卿のところで面倒を見ていたが、今では俺が保護者として預かっている。というわけだ」


 あたしはルヴィーサを見る。どうも、それだけじゃないように見えるけれどね。ただ、この『神託』とはそこまで関係が無いのだろう。ルヴィーサの方も訳を話すつもりはないみたいだし、聞いても無駄な感じはある。


「……わかったわ。さすがに世界の危機となると黙ってられないしね」

「わたしとしても、”大破局”のその先は見たくは無いかな。いずれにしても、冒険者であるわたしたちの仕事は変わらないだろう? 【魔の根源】の発見はどの国でも課題のはずだからね」

「そうだな。実際、【勇者】を見つけたからと言って、その先は聖女様しかわからないからな。どういう厄災が待っているのかも判断しようがないのは事実なのさ」


 やることは変わらないしても、心構えは変わってしまう。そもそも、勇者だとか言われたところで期待されても困るだけである。


「いずれにしても、プリシラやアネッサのやることに俺らは口を挟まないさ。もちろん、人道に反するような場合は別だがな。プリシラの父親捜しはなんだったらエヴォス教会の方でも手を回す準備はある」

「ん~、それはお願いしたいかも」


 とはいっても、今現在どういう顔をしているかとかわからない。名前は当然ながら知ってはいるけれども、冒険者登録自体偽名でもできてしまうので、コツコツ探すしかないと思っていた。


「アンドレイ・ヴェルトリス。あたしのお父さんの名前。とは言っても、アンドレイってかなり名前が被っちゃうぐらい一般的な名前だし、苗字ファミリーネームを名乗ってない可能性が高いから、探すのに時間がかかっちゃってるんだけれどね」

「了解、伝えておく。とはいっても、プリシラの言う通り確かに『アンドレイ』は俺の知り合いにも結構いるからな。時間はかかると思うぞ」


 それにしても、父親を追いかけだしてすでに7年。いまだに追いつけないのはあたしが食べ歩きをしながら旅をしているからか。痕跡自体は見つけるのだけれどもね。ラングバルにも滞在していた痕跡があるから、そこを中心に探していたのもあるし。

 ともあれ、世界の危機とか聞きたい話ではなかった。お人好しのお父さんは必ずその件に関わっているのは確実なので、あたしもそこに身を置く必要が出てきたわけである。

 どちらにしても、あたしがやるべきことは何一つ変わってなかったというのは、朗報なのだろう。


 と、あたしのおなかがぐぅぅっと鳴ってしまう。お昼の時間だ。


「ん? プリシラは腹が減ったのか」

「うん、お昼の時間だしね」

「……相変わらず燃費は悪いのね」

「その代わり、美味しいご飯がいっぱい食べれるからね!」


 不意に、コンコンとノックが鳴る。修道女さんが顔をのぞかせた。タイミングを見計らっていたのだろうか?


「お話は終わりましたか? 昼食の準備ができましたので、よろしければ皆さんも食べていかれませんか?」


 というわけで、あたしたちは子供たちと一緒にご飯を食べることになった。なので、あたしとしては非常に軽めの昼食になってしまったが、孤児院の子供たちに食料を優先するのは当たり前のことである。ちなみに、出されたご飯はシンプルなラタトゥイユだった。『季節の野菜のごった煮』と言った方が通りは良いだろうか?


「ん~! なんか懐かしい感じの味がする~!」


 もちろん、故郷の味というわけではない。

 ただ、なぜか懐かしい感じの味がした。これが地元の味という感じかな? 家庭料理って感じの味である。どうやってこの味を出しているんだろう?

 そんなことを考えながら、あたしたちは子供たちと仲良く食事をしたのだった。


 さて、食事も終わり、あたしたちは子供たちと別れて鍛冶屋に向かう。剣もガンテツさんに預けてたし、丁度いいかもしれない。とりあえず、傷がついてる鎧とガントレッドを持って、みんなを連れてガンテツさんに会いに来た。


「ガンテツさんいるー?」


 あたしがノックすると、不機嫌そうなドワーフのお爺さん……ガンテツさんが出てくる。


「なんじゃ、プリシラか。今日は何の用じゃ?」

「そろそろあたしの剣がどうなっているのか確認したくて。それと、鎧の修理とかお願いできないかなって!」

「……まあいいわい。後ろにおる仲間も入ると良い」

「わぁ! ありがとう!」

「……ふん」


 あたしたちは店に入る。店は食器から包丁などの調理器具、武器や防具などが置かれている。昼だからか前回来た時に比べてはっきりと見える。素人のあたしから見ても、どれもかなり出来がいいことがわかる。ていうか、前回は疲れてたし、ガンテツさんがあたしの剣に興味津々だったせいでよく見れなかったのもある。

 それにしても、包丁にしても様々な形の包丁がある。この国でよく見るものもあれば、東国で使われている特殊な包丁も置いてあるのは素直にびっくりである。後で買おうかな?


「ふむ、なかなか興味深いね。どの装備も高品質であるように見える」

「そうね。……プリシラの人脈構築には驚かされるばかりね」


 感心するアネッサと、なぜかあたしに感心しているルヴィーサ。


「……包丁を見るのもええが、鎧を見せな」

「あ、そうね!」


 ガンテツさんに促され、あたしは鎧を見せる。その鎧の傷を見るだけで、ガンテツさんはため息をついた。


「おぬし、この鎧はもうプリシラのレベルには合っていないだろう?」

「え、銅級なら別に平気だけれども……」

「どう考えても銀以上の格上と戦っとるじゃろうが! 武器もそうじゃが、防具もちゃんとおぬしのレベルに合ったものを使うべきじゃろが!」

「そうなの?」

「そうじゃ。見繕ってやるから待ってなさい」

「はーい!」


 それにしても、ガンテツさんが偏屈だというのはどうしてだろう? あたしにはお人好しのおじいちゃんにしか見えなかった。まあ、初対面ではちょっと頑固そうな職人気質の人だなぁとは思ったけれどね。話してみたら非常にこだわりの深い職人さんで、あたしの知らないことをいろいろと知っていて鍛冶に関する造形も深まったし、あたしの持つグレートソードが相当な技術で作られている(あたしにとっては単にでかくて取り回しやすい剣)ことがわかって結構感心させられたけれどね。


「わたしたち、来てもよかったのかねぇ?」

「あー、アネッサは魔法使いだもんね」

「そうそう。エルマンはナックルガードを見ているし、ルヴィーサは短刀があるけれども、わたしは特に鉄製の武器は必要が無いからね」

「戦闘用じゃなくても、必要になるんじゃないかな? 縄で縛られたときとかさ」

「……なるほど、それは想像してなかったね。護身用に持っておくのは確かに有効かもしれない」


 アネッサと話していると、ガンテツさんが戻ってきた。その手には、あたし用に少し調整の入ったであろう鎧とガントレットがあった。だって、オレンジカラーだったしね。


「ほい、できたぞ。細かいサイズを調整するから着てみるといい」

「ありがとう!」


 あたしはさっそく試着してみる。


「鎧、ガントレット。共にミスリル鋼で作ってある。魔力を通せば多少の傷ならばすぐに回復するのが、魔法銀ミスリルと鉄鋼を混合したミスリル鋼の特徴じゃ。少し値は張るが、それがプリシラに丁度いいレベルの鎧じゃ」

「ちなみにお値段は……?」

「ま、両方合わせて280万ルピーじゃな。調整費はおまけしてやろう」


 280万ルピーかぁ……。さすがに手持ちにはないけれど、貯金を崩せばある。とはいえ結構大きな出費だ。


「ガンテツさん、貯金下してきてもいいかしら?」

「もちろん構わん。ちなみに、前にも言った通り一切マケておらんからな」


 実際、ミスリル鋼の武器ってめちゃくちゃ高いのよね。オリハルコンはそもそも自分で採取しないと話が始まらないけれども、魔法銀ミスリルは普通に流通している金属だ。直接見たことは無いけれども、魔法銀ミスリル単体でも非常に硬く、そして柔らかさもある武器・防具が作れる。そこに鉄鋼をちょうどいい配分で混ぜることにより、さらにその性能を上昇させたのがミスリル鋼だったはず。銀のようにつやつやで魔法をよく通す性質上、魔法を阻害しないとされるのが魔法銀ミスリルだけれども、それをより前衛向きに加工したものがミスリル鋼である。

 これ、ドワーフしか加工できないとかでめっちゃ高いのよね。それこそ、銀級冒険者以上じゃないと買えないレベル。

 ちなみに、あたしがお金を持っている理由は、これまでの冒険のたまものである。

 とは言ってもなぁ……。もっと稼がないといけなくなっちゃったわよね。とは言っても、やはり職人の言うことには従うべきだろう。だからこそ、あたしは購入することを決めたのだ。

 というわけで、あたしは銀行にお金を下ろしに行くことにした。国によっては銀行がない国もあるけれども、ラスティンネル皇国にはしっかりとした銀行システムがある。とは言っても、あたしはまだ4か国を南下しただけに過ぎないので、世界の何を知っているんだと言われたら困るけれどもね。

 というわけで、あたしの貯金の70%近くを銀行から降ろして、あたしはガンテツさんから鎧とガントレットを購入することになった。


「ほう、やはりしっかりとため込んでたか」

「どういうことですか」

「普通、銅級程度の冒険者じゃここまで稼ぐのは難しいからな。儂の見立てに間違いはないと思ってな」

「まあ、確かにプリシラはこの間も【魔の根源】のボスゴブリンを単独撃破したり、ザッスカル盗賊団だっけ? それも単独で壊滅させた人物だからね」

「ほう! あの悪名高いザッスカル盗賊団をか! それだったら、儂の鎧なんて買ってもおつりがたんまり来るだろうな」

「え、そうなの?!」


 あたしは思わず驚きの声を上げる。


「ああ、そりゃそうじゃろ。そもそもザッスカルを仕留めるだけでも大金星なのに、組織自体を壊滅させたんだから、下手すりゃ国から感謝状レベルの話よ」

「え、エルマンさんが主に活躍したと思うんだけれど……」

「ま、内部工作もせず、文字通り真正面から叩き潰したプリシラの功績の方が目立つからな。一応は俺たち《旅人》の功績になるし、おそらく昇級の話も出てくるだろうが、そのほとんどはプリシラの功績となるだろうよ」

「……うへぇ」


 仕方がなかったとはいえ、また前の国と同じことをやらかしてしまったことに愕然としてしまう。


「……まあ、プリシラの事情も分かる。親父さん探しには銀級ランクはちょっとばかし邪魔になるからな」

「そうそう」

「こっちとしても困るし、俺の方からも報酬はすべて金になるように掛け合っておくとしますか」

「……? そうね」


 不意に意味深なことを言うエルマン。まあ、なんにしても銀級にならなくて済むならいいのかな? 調理道具と食材と冒険道具以外の余計な荷物はあまり背負いたくないしね。


「それじゃ、サイズを測るからこっちに来てくれ。そこのエルフのも手伝いなさい」

「わかったわ」


 ドワーフとエルフが仲が悪いというお話は昔から聞いたことはあるが、仲が悪いのは都市部にすむエルフとドワーフだけである。例の国に住むエルフは、そもそもエルフ以外に高圧的な国であるので、ほとんどの人種が嫌っていたるするんだけれどね。ってこれは前にも説明したかな?

 あたしはバストサイズとかそういう鎧に必要なサイズをルヴィーサに測ってもらった。


「……こう、数値として見せつけられると、いやに敗北感があるわね……」


 ルヴィーサはあたしと胸の差を比べるけれども、別にルヴィーサの胸がないわけではないのよ。あたしは元のサイズに大胸筋のサイズがプラスされているので大きいだけである。そして、大きいと結構邪魔ではある。肩こっちゃうしね。なので、大きさの割に若干堅いのよね。

 という感じの流れで、あたしはガンテツさんが見繕った鎧をあたし用に調整してもらい、手に入れることになったのだった。もちろん、剣も回収したんだけれども、剣は新品のようにきれいになっていた。ただ、取っての部分のデコレーションまで剥がされていたのは残念である。あとでまたデコらないとね!


 あとは、特に大きな話もなく、鍛冶屋を後にした。そのあとはちょっと買い物をして夕飯前に解散する流れになったのだった。

 さて、解散した理由は当然、食べ歩きをするためである。手持ちのお金は減ってしまったけれども、どうせまた入ってくるならば大丈夫だろう。

 ドワーフの多いこの街ならば、噂のドワーフ料理を食べることができるかもしれない! ドワーフは力仕事の印象だけれども、それならば力仕事用の料理が出ていてもおかしくない。

 というわけで、あたしはさっそく料理街をぶらつくことにした。基本的にはラングバルでも見かけるようなお店や、飲み屋が栄えている。ディナーの時間の食べ歩きなので、お昼に食べ歩きをした方がいいのかなぁ?

 とはいえ、夜でもやっている屋台もあるので、あたしはご飯を求めてさまようのだ。途中で難破してくる人もいたけど、あたしが軽く殴るだけで黙るし、特に気にしては無かったけれども(そもそも鎧もちゃんと装備しているし、冒険者にしか見えないだろうけど)女性が一人で夜に出歩くのは本来いけないことである。

 あたしはまあ、トロールやオーガの町は歩きたくないかなぁって感じね。そもそも、オーガの街はほぼほぼ蛮族街みたいなところがあるらしいし、行きたくないところではある。

 そんな感じでさまよっていると、不意に香ばしいにおいがしてきた。スパイスが非常に効いた匂いで、あたしがそのにおいにつられていくと、そこには肉の塊を回転させながらあぶり続ける装置のある店にたどり着いた。


「いらっしゃい」

「個々のお店は何を売ってるんですか?」

「ああ、ドワーフ風焼肉だよ」

「ドワーフ風焼肉?!」

「ああ、この薄焼きのパンに野菜と挟んで、ヨーグルトソースをかけて食べるのさ。この回転式グリルで焼く方式はドワーフの技術のたまものなんだぜ」

「へぇ~!」


 確かに、非常に珍しい。ラスティンネル皇国では本当に見かけたことがない調理器具だった。


「ドワーフの国であるコルドでは一般的な調理法なんだぜ。食べてみるかい?」

「うんうん!」


 あたしはうなづいた。


「じゃあ、どのソースにするか選びな。ヨーグルトソースが一番おすすめだが、唐辛子ソースのハリッサもおすすめだぜ」

「うーん、じゃあ唐辛子ソースでお願い!」

「あいよ」


 店員のドワーフはそう言うと、回転する肉の塊を削り落とす。その肉の塊は何層も重ねたものだったらしい。そぎ落とした肉を、独特なパンに野菜と一緒に挟み込み、辛そうな赤色の唐辛子ソースをかけてくれた。


「はい、500ルピーね」

「あ、はいはい」


 あたしは500ルピーを渡して、紙袋に包まれたドワーフ式回転焼き肉ドルネケバブを受け取る。スパイシーな香りが鼻腔をくすぐる。あたしもここまでスパイシーな料理は食べたことがないかもしれない。ラスティンネル皇国とは異なる文化圏の料理があたしの手のひらのうえにあった。

 一口食べると、まずは唐辛子ソースの辛さが来る! そして、スパイシーな香りの後に肉のうまみが舌の上で踊る。


「っから~!」


 最初に出た一言がそれだった。非常に辛い。けど、そのあとにくるガツンと来る肉のうまみの前座としては十分だった。辛さが肉のうまさ、野菜のすがすがしさを補強しているのだ! じっくりと熟成するかのように熱されたお肉は香ばしくてスパイシーに仕上がっており、うまみも十分である。その焼き方の特性上、肉汁がじゅわーって感じではないけれども、確かな焼肉のうまみが、肉の味がしっかりと舌に残る。まさに、パワー系の味わいだった!


「おいし~!」


 まさに、からうま。ラスティンネル皇国でも女の子に流行るのではないだろうか?


「これも飲むと辛さに良いぜ。チャイっていう紅茶だが、サービスだ」

「あ、ありがとうございます!」


 チャイは赤茶色の紅茶だった。砂糖が結構入っているのか、かなり甘口で、下の辛さを中和してくれる。


「ふぅ~~~。すごくおいしいですね!」

「だろう? 辛い物には甘い物だと相場が決まっているんだ」


 とは言っても、まだヒリヒリするんだけれどね。


「ほかにおいしい料理はある感じですか?」

「そうだな、食べ歩きならばキョフテなんかはどうだい?」

「キョフテ?」

「ああ、この国の言葉で言うならば、スパイシーなミートボールだな。あそこのキョフテはなかなか絶品だから、食べてみるといいぜ」

「ありがとう!」


 あたしはこうして、ドワーフの国の料理を堪能するのだった。お腹いっぱいで今日はゆっくり寝れそうだった。てか、ばっちり寝れたわ!

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異世界美少女の食べ歩き漫遊譚 ちびだいず @yhoto

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