第7話 休暇とティラミス
昨日はふっかふかのベッドでゆっくり寝れたわ!
気が付けばお昼になってたぐらい、ゆっくりと寝てしまった。
アネッサもルヴィーサも居ないという事は、もうすでに何かしらの活動をやっているのだろう。
あたしも起きて、お昼を食べないとな!
伸びをして、ベッドから出ると、あたしはお風呂に入り寝汗を流す。その後、ヘアケア、肌ケアをして、化粧をして、今日は冒険者ではなく私服で行動しようと思う。ケア自体はそれなりに欠かさずやってはいるんだけれども、やはり宿に泊まらないとしっかりとできないのよね。
私服は、あたしは露出しちゃうと筋肉がどうしても目立っちゃうから、基本的に私服でも肌は露出させない。スカートをはいても下はしっかりとズボンを履いている。一見するとタイツにも見えなくないかな。鏡を見て、自分の姿を確認する。うん、かわいい! あたしはオレンジ色が自分のパーソナルカラーだと思っているので、基本的にはオレンジを基調とした服装を身に着けている。普段着ている冒険者用のインナーも、オレンジを基調している。そこに鎧や防具その他冒険者用のポーチなどを身に着けたのが普段のあたしの冒険者スタイルになる。
化粧ももちろんオフ用だから、普段のあたしとは印象がちょっと変わるかな。
というわけで、昼食である。
宿付きのレストランで、あたしは軽めにキッシュを食べることにした。ズッキーニとトマトのキッシュだ。トマトなんて珍しい。とはいっても、基本的に食用の野菜って1000年まえの大破局時代に開発されたものがほとんどだし、栽培されててもおかしくはない。ラスティンネル皇国の西部では珍しいってだけである。もちろん、あたしはトマトは好きだけれどね。ってああ、そうか。リデンサールは中央になるから、トマトも入ってきやすいのだろう。西部は海に面していて、国の直轄領や大貴族の領地が多く、東部は山脈などが多く、男爵や子爵などの貴族の領地となっていることが多いみたい。後で市場に行ってトマトが仕入れられるか確認しておかないとね!
ズッキーニとトマトのキッシュは山羊のチーズが乗っており、オーブンでしっかりと焼かれている。見た目に反してさっぱりとした味で、食べ応えも十分だ。
「おいし~♪」
ズッキーニの甘みと、トマトの酸味が癖になりそう。山羊のチーズの濃厚さもいい感じに味に奥行きを出していて、お昼だというのにかなりがっつりと食べてしまった感がある。まあ、あたしは常にがっつりと食べてますが!
お店の出す料理と自分で作る料理って同じものを作っても味が全然違うのよねぇ~。やっぱり、材料だけじゃないわよね!
そんな感じであたしは昼を堪能した。
あたしはリデンサールの街を散策することにした。日中ならば気を付けていれば変なことに巻き込まれないので、気軽に散策できる。まあ、あたしの場合は下手な男よりも力があるので、
なので、早速市場に顔を出してみることにした。
リデンサールは街自体が交易路となっている面もあるようで、交通が激しい場所の裏側には市場がある。東側で流通しているものだけではなく、ラスティンネル皇国よりも東側で取引が行われている商品も集まってるらしかった。
「おや、プリシラじゃないか。今日は私服なんだね」
声をかけてきたのはアネッサだった。
「あれ、アネッサも市場に来てたの?」
「そうだよ。こういうところにも遺跡の遺留品が流れてたりするものだからね。見逃さないようにしているのさ」
「あはは、アネッサらしいね」
「そう言うプリシラのお目当ては食材だろう? 西側じゃあ見ない食材も多くあるみたいだから、チェックしてみると良い。今朝はワイバーンの肉なんかも流通していたみたいだしね」
「空飛ぶトカゲちゃんね。手羽とか美味しいわよねぇ」
「おや、食べたことがあるんだ」
ワイバーンの肉みたいな、強い野生動物の肉は基本的にはそれを専門とするハンターか、冒険者が狩ってくることが多いらしい。あたしはまあ、その場で食べちゃうからなぁ……。倒すのだってそんなにむつかしくない。空を飛んでいるならば、石を投げまくって墜落させればいいだけだからね。なんでみんな苦労して倒すのかはわからないけれど。
ちなみに、ワイバーンの肉は鶏肉と白身魚の中間のような、少し淡白であっさりとした味ね。爬虫類って似たような味になるのかしらね?
「そう言えば、ルヴィーサは?」
「ああ、エルマンと一緒に教会にいると思うよ。まあ、あの子は普通にしてても目立つからね。エルフであることを隠す気も無いみたいだし」
エルフの人って、エルフであることに誇りを感じている人が多いらしいからね。冒険者のエルフの人も、自分がエルフであることを隠している人を見たことが無いし。
「なるほど、そういうものなのか。わたしにはわからない感覚だね」
あたしがそう告げると、アネッサはそう答えた。種族によって価値観なんてまちまちだし、下手すれば門地によっても異なるからね。それをお互いに尊重するのが人付き合いの肝である。
「数日はこの街に滞在することになるから、アネッサもルヴィーサと仲良くなろうね~」
「そうだね。パーティを組んでいる以上はお互いに信頼が重要だからね」
「そうそう。ただ、今日は用事があるみたいだし、また夜にでもお話すればいいかなとは思うけど、一緒にいろいろなお店に食べ歩きとか行きたいわよね~」
「すでに同じ釜の飯を食う中ではあるけれどね」
「あたしが料理をふるまうのと、お店で一緒にご飯を食べるのじゃ結構違うのよ。なるべくおしゃれそうな店とかでおしゃべりしながらお話しすると、ぐっと仲良くなれるわ!」
それに、ルヴィーサにはなんだか別の意味でドン引きと尊敬されているような気がするしね。心当たりは当然ある。どちらかと言うとヒエラルキーがあたしの方が上になっている気もするので、ちゃんと対等に仲良くなりたいと思っている。
エルマンさんは、神父様だしなぁ……。そもそも、あの人あんまり壁を見せない感じ。絶対的な距離感は感じているので、まずは冒険者仲間として信頼を勝ち取るところからだろう。
「ん~……。プリシラが思っているよりも彼女の問題はむつかしそうにわたしは思うがね。プリシラの思う通りにやってみたらいいと思うよ」
「?」
アネッサがむつかしい顔でそういうけれども、人間関係のキモは自己開示とポジティブさだとあたしは経験からわかっている。それに、確かに戦闘能力の高さは冒険者として必要な素質の一つではあるけれども、それ以外の能力も重要だし、あたしに関して言えば戦いと料理以外はそこまで得意ではない。それをわかってもらうには、結局実際に探索するしかないだろうけれどね。
「とりあえず、食材を買い込んだらルヴィーサを誘ってみようかしら」
「それがいいかもしれないね」
「アネッサは……」
「わたしはここで遺跡に関する情報を集めたいから、今回は遠慮させてもらうよ」
というわけで、あたしはこのリデンサールでしか買えない食材や香辛料を買い込むことにした。基本的にはあたし用ではあるけれどもね。それに、リデンサールからボルツクネル伯爵領の主都オベールに向かうための馬車と御者の確保も必要になる。
御者は盗賊団の仲間だったので、当然ながら引き渡す済みである。
御者や馬車の手配はあとでするとして、あたしは買い込んだ食材をマジックバックに保存がきくように仕舞うと、エヴォス教会に行くことにした。
ちなみに、エヴォス教は世界でもメジャーな宗教だけれども、太陽神アデレスを崇めるアデレス教も有名な宗教である。全能神エヴォス、太陽神アデレスは同格の神性と言われていて、一部ではエヴォスとアデレスは同一神格であると言われることもあるわね。あたしが進行している神は大地をつかさどるティマートを崇めるティマート教だけれども、これはアデレス系列の神格って言われているわね。
って、宗教の事はそんなに詳しいわけじゃないから、そんなに話せないのよね。ティマート教に関しては当然ながら教義についても覚えさせられたけれども。
というわけで、あたしはさっそくエヴォス教会に入る。エヴォス教会に関しては誰でも入ることができる。ちなみに、アデレス教会は教徒じゃないと入れないことが多い。実際、アデレス教会の前はアデレス教の聖騎士が見張りに立っているのが見える。
リデンサールのエヴォス教会の中は、一般的な教会の構成をしている。というか、ティマート教会でも似た作りなので、基本的にはどこの教会も同じ構造になるものだと思われる。
あたしが歩いていると、神父さんに声を掛けられた。
「どうされましたかな?」
「エルマン神父はいらっしゃいますか?」
「エルマン神父ですか。ええ、いらっしゃいますとも」
「あたしはエルマン神父の冒険者仲間のプリシラって言います」
「わかりました。ご案内しますね」
あたしがそう伝えると、疑わしい目つきが少し和らいだ気がする。というわけで、エルマンさんのところまで案内してもらえた。神父さんがノックすると少し厳しめのエルマンさんの声が聞こえる。
「誰だ」
「お友達のプリシラさんを案内してきました」
「……そうか、入ってきてくれ」
言われて、あたしはエルマンさんの居る部屋に入らせてもらう。
「おじゃましまーす」
エルマンさんの部屋は、仕事部屋という感じだ。ルヴィーサも同じ部屋にいる。間借りしているのだろうか? というか、教会に一室を間借りできるほど、エルマンさんの偉さが伝わってくる。
「おう、どうしたんだ? 今日は休みなんだろう?」
「んー、まあ、せっかく同じパーティになったんだし、仲良くなろうと思って」
「なるほど、それもそうか」
エルマンさんはあごひげを撫でる。仕事で忙しかったのか、無精ひげが生えているように見える。
「確かに、『神託』で無理やり仲間になったとは言ってもね。パーティを組む以上は一蓮托生でしょ? だから、距離を詰めて、お互い信頼できるようになりたいわけ!」
あたしが目的を話すと、エルマンさんは毒気を抜かれた表情をする。
「……まあ確かに。お嬢、プリシラお嬢さんと一緒にいてくれ」
「いいの?」
「ああ、教会の一室で俺と一緒に籠るよりは健全だろうし、いざとなったらプリシラお嬢さんが守ってくれるだろう。残念ながら俺は、滞ってた仕事で今日は手が空かないからな」
「わかったわ」
そう言うと、ルヴィーサがあたしに近づく。
「……にしても、こうして見ると私服姿じゃ印象が全然違うのね。普通の女の子って感じ」
「あたしは普通の女の子って自分で思ってるわよ」
ルヴィーサが不思議そうにまじまじとあたしを見つめる。とくにおっぱいの方を見つめて、「羨ましい」と呟かれてしまった。
「あと、エルマンさん。その”お嬢さん”ってのもやめてもらえると嬉しいわ。普通にプリシラで良いわよ」
「だったら、お嬢さんも、”さん”付けをやめてくれるなら構わないぞ」
「わかったわ! エルマン!」
「……順応早いな」
というわけで、あたしはルヴィーサを教会から連れ出すことに成功する。それにしても、エルマンとルヴィーサの関係はまるで保護者と子供みたいな関係なんだなと感じた。
ルヴィーサとのデートは、特に詳しく書く必要も無いかな。普通に一緒にカフェを巡ったり、楽しくお話をしただけである。基本的に表通り以外は行かないようにして、危険が無いようには気をつけたけれどね。とはいっても、ルヴィーサもデップとチールを伸せるぐらいには実力者ではあるので、多少の危険なら対応できるかもだけれども。そう言う危険な目に合うという余計な雑味を入れたくなかったあたしは、安全そうなところを中心に廻ったわけである。
あ、そうそう、一番印象に残ったのはティラミスだったわね。
カフェの看板に書いてあったおすすめのスイーツだったんだけれど、これが美味しかったのよね。基本的にはふつうのティラミスなんだけれども、卵の味が濃厚で、コーヒーと非常に合うティラミスだったのよ。どうやって作ったんだろう? 毎日でも食べたいなと思えるくらい後味はよく、コーヒーともマッチしていてすごくおいしかったわ。
ちなみに、ティラミスってそんなに難しくないスイーツなのよね。卵黄にグラニュー糖を入れて白くなるまで撹拌して、卵白を泡立てたメレンゲを切るように混ぜてあげる。そして、コーヒーに浸したクッキーを並べて、層を作るように生地をのせてあげて、最後にココアパウダーを振ってあげれば完成という、非常にシンプルな(人によっては複雑っていうけれども)スイーツである。
ルヴィーサも喜んでたし、少しは仲良くなれたみたいでよかったわ!
それに、コーヒーは師匠を思い出す。あの人、コーヒーには異常にこだわりがあったのよねぇ。和国の文化は大好きなのに、それと同じくらいコーヒーが好きな謎の人である。
今日はそんな感じかな!
ルヴィーサは一度エルマンのところに戻り、宿に帰るとアネッサが休んでて、ルヴィーサがエルマンに連れられて戻ってきたらみんなで一緒に晩御飯を食べて、休んだ感じ。
本当は一人で食べ歩きしてもよかったけれども、せっかくルヴィーサと仲良くなったし、みんなで食べる方に切り替えた感じね。エルマン曰く、もう少しかかるという話だったので、それまではゆっくりと羽を伸ばしつつ、この街の美味しい店の探索をしないとね!
─────────────────────────────────────
●あとがき
次回が少し長くなってしまうので、今回はここで話を切らせてもらいます。日付的にも丁度ここで切れるので、いいかな?
ブックマーク、★評価、♡応援、ありがとうございます!
励みになりますので、していただければモチベーションが上がってより良い作品になると思います!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます