工業都市リデンサール

第6話 ガンテツさんとの出会い

 というのが昨日の話。

 今日は捕獲した盗賊団(なんかあたしが出てくるだけで怯えてる)を、近くの停留所となる村ではなく、街まで護送する必要があった。

 どうせ処刑されるからこの場で殺せばいいと思っている人もいるかもだけれども、人を殺すって結構心に来るものがあるからね?

 あたしとしては、重荷を負うなら最低限かつ自分の中で正当防衛言い訳が成り立つ状態が望ましいのだ。それ以上は背負いたくない。

 御者も、あたしを見ると怯えていう事を聞いてくれる。


「ほら、出発しろよ」

「は、はいぃぃ……!」


 エルマンさんがそう指示するだけで、怯えながら御者をしてくれるのは正直楽ではある。ただ、あたしはその馬車に乗ってないけれどもね。

 というわけで、盗賊団が使っていた馬を使って、あたしたちは出発した。

 ちなみにあたしは、オーガの乗っていた馬に乗っている。懐かれたというよりは服従したというのが正しい気がする。あたしの乗っていた馬……『トロンベ』って名前らしい馬は、アネッサとルヴィーサが乗っている馬車を引いている。

 あたしの乗っている馬は『カイザー』と呼ばれていたらしく、オーガをのせてちょうどいいサイズなので、あたしが乗ると乗せられている感が出てしまう。てか、デカいので乗るとき、カイザーに足を曲げてもらわないと乗れない。ただ、あたし以外をのせるつもりは無いらしく、ルヴィーサやアネッサは一緒に乗せてくれなかった。


 ただ、あたしがカイザーに乗ることによって他の盗賊団連中が大人しくするなら、文句は無いけれどね。

 いや、トロンベならまだしも、カイザーとかどうしよう。旅をするうえで邪魔でしかないし……。


 あたしが馬上でそんなことを悩んでいるうちに、気が付けばお昼の時間になっていた。カイザーの威圧のせいで、特に魔物や野生生物と出会うことも無く、安全に過ごせた。

 ちなみに、逃げ出そうとした盗賊は、カイザーがブチっと踏みつぶしてしまった。あたしは別に指示を出してない。カイザーが勝手に殺った。しかも、目ざとく見つけるものだから、そういう風にオーガに調教されてたのだろうな。

 あたしはドン引きである。

 ただまあ、そのせいか、逃げる盗賊はいなくなった。


 次の目的地はそこそこ大きな街であるリデンサールである。

 ボルツクネル伯爵領から見れば、内陸側である東に大きくずれ込む位置にあり、ボルツクネル伯爵領よりも隣のネーデルンド男爵領の方が近くなってしまう。ボルツクネル伯爵領とネーデルンド男爵領は山で分かれていて、山と山の間にあるふもとにある町がリデンサールだ。炭鉱街であり、ドワーフが多いらしい。

 これだけの大所帯なので、停泊所となる村では牢が足りなくなるのだそうな。だからこそ、そこそこ大きな街に向かう必要があった。


 というわけで、暇を持て余してしまったあたしはカイザーの上でのんきに昨日の分の手記を書いていたわけである。

 しかし、このカイザー。どうやって育ってきたのだろうか? ツヤツヤの黒い毛並み、たくましい肉体と言い、いいものを食べてしっかりと育ててこないとここまでにはならないと思う。カイザーの主だったオーガは馬主としては優秀だったのだろう。

 たぶん、あたしがもらい受ける場合、あたしの冒険者としての稼ぎのほとんどをカイザーの食費に当てることになりかねない。あたし自身の維持費でいっぱいなのに、これ以上増やしても困るだけである。リデンサールに到着したら、カイザーもトロンベも引き取ってもらうしかないけど、カイザーは暴れ馬らしいし、どうしたらいいのかしらね?

 座椅子もあたしのサイズじゃないし、お尻痛くなってきた。


「エルマンさーん、ごめんけど休憩したーい!」


 あたしがそう伝えると、隊列が止まる。そしてあたしはカイザーに下してと伝えて、降りて休憩を取ることができる。


「お疲れのようね」

「まあ、カイザーの鞍はオーガ用のままだし、合って無いのよねぇ」


 オーガはおよそ3mの大男だ。あたしの身長は160cmぐらいなので、2倍近く差がある。カイザーはオーガにふさわしいサイズの馬なので、鞍のサイズはどうしたってあたしに合うわけがない。トロンベの鞍ですら若干大きいと感じるのにね。

 なので、いくらカイザーがあたしをあるじと認めたとしても、残念ながらあたしのサイズに合わな過ぎて申し訳ないけれどもリリースせざるを得ないのだ。


「そう言えば、今回あたしたちを狙った動機って何だったわけ?」


 あたしがルヴィーサに聞くと、答えてくれる。


「当然ながら、私たち女性3人を狙ったようね。エルマンは排除するつもりだったみたいだけれども、実際の脅威はプリシラの方だったってわけね」

「あたし、御者の前で何度か戦ってなかったっけ?」

らしいわ」


 なるほど、単にか弱い女の子を馬車ごと誘拐するならば、オーガは不要である。あたし対策だったのかと得心した。


「最初は半信半疑だったみたいだけれども、あなたの二つ名って相当有名みたいね。……何やったの?」

「何って言われても、前にいた国で暴れてた盗賊団を締め上げただけなんだけどね。今回の盗賊団より、もうちょっと規模がでかくて、オーガ以外にもトロールがいる盗賊団だったわね」

「え、プリシラ単独で?!」

「いや、まさか! もちろん他の冒険者パーティと協力したに決まってるわよ。そもそも、その時はあたしも冒険者パーティの一人として参加したわけだしね」


 あの時は大変だった。大幹部のオーガにトロールが数人従っており、それ以外にも2体ヤバメのオーガが用心棒として雇われていた。構成員は主にゴブリンとオーク、若干弱いオーガが数名という、どうしてこんなになるまで放っておいた&国が軍隊出すべき案件だったけれどね。


「てか、隣の国の盗賊団が壊滅って、もしかしてダルドード盗賊団?」

「んー、確かそんな名前だったと思う」

「銅級でよく参加できたわね……」

「あの時は銀級パーティにいたからね」


 と、アネッサがやってきた。


「お、なかなか面白い話をしているじゃないか。わたしも混ぜてくれないかな?」


 アネッサはどこで手に入れたやら、フードを被っていた。元の服とは布地が若干違う。


「プリシラ達がダルドード盗賊団を壊滅させた話よ」

「個人的にはあんまり詳しく話したくないんだけれども……」


 登場人物とか当時のメンバーの名前とか、新しく色々と出てくると情報過多になるから(書くのが面倒くさいので)省きつつ、おおよその概要をあたしは説明することになった。


 ダルドード盗賊団というのは、その時居た国で一番大きな盗賊団だった。亜人系統のならず者連中の受け皿として機能していたし、国内の盗賊団を合併吸収したという話も聞いていて、とても危険な組織だったわね。だから、国から討伐要請が出ていて、銀以上は参加する必要があったわけだけれども、あたしも参加することになったのよ。

 当時のあたしは銀パーティに参加していたのでもちろん参加したわけだけれどね。

 で、リーダーさんたちと一緒にその依頼に参加したんだけれども、当然ダルドード盗賊団の戦力は過剰だったわ。結構な数の冒険者パーティが壊滅したのよね。死者多数で戦争状態だったわ。他のパーティの銅級冒険者は真っ先に死んだわね。あたしのパーティも前衛2人が重症で離脱。あたしとリーダーさん、魔法使いの3人でトロール2体を相手にすることになったわ。

 そもそも、オーガやオークの集団がいる危険な盗賊団のアジトに乗り込んでるわけだし。

 結局、あたしはトロール2体を倒したわ。残念だけれどリーダーさんは重傷を負ってしまったので、ボスのオーガとはあたしと魔法使いで挑むことになっちゃってね。まあ、ボスのオーガをあたしは死に物狂いでなんとか倒せたのよ。これが相当強くてね。確かあたしも左腕は骨折してたし、戦いの余波で服はボロボロになってたわ。鎧のおかげで胸はポロリとしなかったし、下はびりびりに敗れてホットパンツみたいになってたけど。

 それで、その血まみれでそんな姿のあたしを見て、誰かが言ったのよ。


『小型オーガだ』って!


 確かに、女の子の身体とは思えないくらい筋肉はすごいけど、そう言われたら傷つくじゃん?!

 で、後々『姫』がくっついて、あたしの二つ名が『小型オーガ姫』になったというわけ。


 そんな話をルヴィーサとアネッサに軽く話したら笑われたわ。


「いや失礼。『小型オーガ』とはそんな光るセンスのある人物がよくもまあその場にいたね! ふふふっ」

「そうね。ふふっ、『小型オーガだ』! ふふっ」

「めっちゃ笑うじゃん」


 あたしとしては恥ずかしい思い出でしかない。死闘の末の半裸だったし、左腕は骨折のせいで青く腫れてるし、切り傷だらけで血まみれだし、到底女の子として終わっている状態を見られるという散々な状態なのに。


「いやしかし、なるほど。それで『小型オーガ姫』と呼ばれるようになったわけだね」

「ま、そういう事ね。あれからみんなからからかわれて、居心地悪くなっちゃって。それになんか強制的に銀級に上げようとしてくるし……。それで、逃げるようにこの国に来たのよね~」

「しかし、やはりトロール2体を倒し、盗賊団首領のオーガまでも打倒すというのは、やはり人間をやめているのでは?」

「なんでよ!」


 なんで銅級にこだわっているのかと言うと、銀に上がっちゃうと自由に旅ができなくなるからだ。要するに、国からの囲い込み対象になってしまう。そうなってしまうと、例えば、その国の国籍を取らないといけなくなるし、根無し草ができなくなる。その上、旅をする場合は出国届やらいろいろな届け出を出したうえで、出国許可証を貰って出国する必要があるという、面倒くさいことになってしまう。これは、メリットとして説明されるけれども(実際、その国を拠点として活動するならば非常にメリットだけれども)、あたしの目的はお父さんを探し出すことだ。それに、どうせ銀に上がるなら、あたしの国でなりたい。あたしは別にあたしの国を捨てたわけではないのだ。

 とはいえ、あの国では銅級なのに囲い込みが始まりつつあったので、めんどくさくなって逃げたのは事実だけどね。王族との会食とか勘弁してほしい。おかげで夜逃げ同然に逃げないといけなかったので、そっちの方が記憶に残ってしまっている。


「あれ、でも銀級のパーティにいたんだろう?」

「パーティだと、金級以上になると囲い込みが始まると思うわ」

「そうなのか」


 ちなみに、何で知ってるかと言えば当然ながら説明を聞いたからだ。断るごとにどんどん上位の人と会うことになっていくし、他の銀級の先輩に聞いたら、「プリシラさんは特別だからね」と若干引き気味で言われたときには頭を抱えたわね。特別て何よ特別て。


「……確かに。プリシラは特別よね。肉体的な能力もそうだけれども、年齢も私の1コ上だし、それでその実力ならね」

「あ~た~し~は特別じゃなぁい~!」


 あたしの慟哭はむなしく響く。

 ほんと、あたしより特別なのはお父さんだと思う。

 ほとんどはお母さんから聞かされた話だけれども、お父さんの話はあたしの中で輝いている。だから、あたしもお父さんを見習って困っている人を助けるのだ。確かに今はお姉ちゃんを殺した最悪のトロール『サルマン』を追っているけれども、お父さんの足跡を追えば必ず困っている人を助けた跡が残っている。だから、ますます会ってみたいと思うし、サルマンとの決着を着けたならばいっしょにお母さんのところに帰りたいと思っている。だから、あたしはお父さんを探しているのだ。

 あたしがそう熱弁すると、なぜかドン引きしてる二人。なんで?


「ファザコン……」


 それの何があたしには悪いのかがわからない。別に恋愛対象として好きってわけでもないし。尊敬しているだけである。あたしの好みはマッチョで心身ともに強い人間ヒューマンの男性だからね! あたしをリードしてくれたらもっと嬉しい。


「お父さんを好きで何が悪いのよ!」

「……別に」

「?」


 ルヴィーサは口ごもる。父親との間に何かあるのだろうか?

 話してくれそうにない感じがしたので、話題を変えることにした。


「そう言えば、エルマンさんって何者なのかしら? 明らかに神父という割にはやばい雰囲気を持ってるわよね?」

「わたしも気になるところだ。ルヴィーサの答えられる範囲で構わないから教えてくれないかい?」

「そうね、エルマンはエヴォス教の中央聖堂協会のよ」

「異端……」

「もちろん、エヴォス教のっていうのは、エヴォス神の教えに背く行為をする自称エヴォス教徒の事を指すらしいわ」


 要するに、カルトの粛清という事なのだろうと、ルヴィーサは答えてくれた。本当にそれだけなのかは首をかしげたくなるけれども、そんな人がどうして旅をしているのかも気になる。

 その話題を続けようとしたところ、エルマンさんが声をかけてきた。


「そろそろ出発の時間だぞー」


 きっかり1時間の休憩だったので、残念ながら聞けずじまいだった。あたしはカイザーの背中に戻ることになる。股ズレ起こさないと良いけどなぁ。


 てか、今日のご飯はあんまり美味しいものを食べることができなかった。わざわざ盗賊連中の前で料理をふるまうのもどうかと思うし、そういうわけであたしたちは盗賊の食糧から適当なものをチョイスして食べてた。

 あたしはまあ、昨日作り置きしていたマッシュしたポテトと卵ドレッシングを混ぜたサラダがあるからね。それをパンにはさんで食べていた。うーん、味気ない。全然美味しかったんだけれどもね。


 夜の野営に関しては、カイザーがいるせいか危険な野生動物も魔物も近寄ってこないから、非常に安全に過ごせるという感じだった。昨日の夜の時点で盗賊の3人がカイザーによって潰されてたけど。

 ──────────────────────────────────────


 おはようございます。

 あたしは今日もカイザーの上で過ごしてます。

 朝ごはんにビスケットを食べながら、あたしはカイザーの上で空を眺めてました。


 というわけで、あたしたちは昼頃にようやくリデンサールに到着した。

 強行軍で進んでくれたみたいで、本来だったら明日の朝ごろに到着予定だったみたいだけれども、全員が全員緊張状態だったため(あたし以外)こういう感じになったぽい。

 ……あたしとカイザーのせいで緊張してたんじゃないかなぁって思う。カイザー、逃げ出した盗賊団の連中を目ざとく潰してたし。あのオーガはやはり幹部相当というか、ボスの男と組んで盗賊団を切り盛りしていたのだろう。そう考えると、あたしのことを『小型オーガ姫』って最初から知っていたのも納得である。


 さて、リデンサールであたしたちがやるべきことは、駐屯兵に盗賊団の引き渡しである。カイザーが何名か潰して殺してしまっているけれども、基本的に盗賊団は『生死を問わず』であるため、報奨金の受け渡しには特に問題ない。問題ないはずなのだけれど……。


「えぇ?! もしかしてザッスカル盗賊団の全員ですか?!」


 駐屯兵の居る場所に全員を連行したところ、困惑されてしまう。


「ああ、全員だ。あと、捕まっていた人もいるから確認してほしい」

「わ、わかりました!」


 あたしはエルマンさんに任せてはいるものの、盗賊団が逃げ出さないように同席している。

 受付をしていた兵士さんは慌てて他の兵士さんを呼び、騒然となった。全員が連行され、収容が終わるまで結構時間がかかったかな。


「え?! ザッスカルも倒したんですか?!」

「ああ、残念ながら生きてはいないが……」

「いや、もう一人のボスであるガーゲルも連行してきているんで信じない人はいないですって……」


 兵士さん、困惑しているなぁ。まあ、ダルドード盗賊団に比べれば全然小規模だけれども、そこそこ大きな盗賊団を一つの冒険者パーティで潰してしまったようなものだから、そうなるのかな? そう考えると、あたしって結構大変なことをしてしまったかもしれない。今更だけどまずいなと言う実感が出てきた。


「と、とにかく、報奨金を出すとしても、お金の準備や計算に時間がかかります。数日待ってもらって構いませんか?」

「プリシラお嬢さん、問題ないか?」


 エルマンさんにそう振られるけど、別に遺跡の調査なんて時期を決めているわけでもないので、あたしとしては問題なかった。なのでそう答えた。お金って重要だしね。


「問題ないわ」

「数日ならば問題ない」

「あ、ありがとうございます! 今回は盗賊団の壊滅へのご協力ありがとうございました!」


 というわけで、今日は報奨金を貰えずに駐屯所を後にすることになった。これでようやく、あたしたちは羽を休めることができるわけだ。

 ……このパーティ結成してからまだ6日しかたってないわよね?


「プリシラお嬢さんは、これからどうするんだ?」


 エルマンさんにそう聞かれて、あたしは考える。少しの間だけ冒険者は休業かなぁ。


「そうね、一度冒険者酒場に顔を出して、《旅人達》を登録してから、食べ歩きでもしようかなって思うわ。あと、リデンサールってドワーフの街だし、どうせならあたしの剣の様子も見ておきたいわね」

「そうか。ならここで一旦解散だな。俺は教会に用事がある」

「わかったわ! それじゃあ後でね!」

「ああ、またあとでな」


 というわけで、エルマンさんとも別れてあたしは冒険者酒場に向かう。

 それにしても、歩いているだけでもドワーフとよくすれ違う。ラングバルは人間ヒューマンの街で、ドワーフは鍛冶屋ぐらいしか見かけなかったけれども、リデンサールはドワーフの街だ。それぐらいドワーフとすれ違う。もちろん、人間ヒューマンもいるけれどもね。そして、鍛冶屋以外にも様々な店がある。工業地帯というイメージだろうか。そこら中からハンマーや蒸気が排出される音が聞こえる。


 というわけで、冒険者酒場に到着した。

 ただ、冒険者酒場は騒然としている。


「ザッスカル盗賊団が壊滅したらしい」

「マジかよ。討伐以来って出てたか?」

「出てはいたが、まだ募集中だったはずだ」

「壊滅したなら、その依頼は中止だろうな」


 うーん、どうやらあたしは他の冒険者の食い扶持を一つ潰してしまったらしい。そこは少し申し訳が無いところだけれども、あたしとしても仲間や荷物が盗られてしまったので、仕方がないことであった。


「どうやら、『小型オーガ姫』がかかわってるらしいぜ」

「アーリーソン村でも活躍したらしいしな」


 あたしの耳にそんな声が聞こえてきた。気にしてる二つ名なせいで耳聡くなってしまったみたいだ。

 とにかく、気にしても仕方がない。あたしは《旅人達》の登録を済ませるべくカウンターの人に話しかける。


「あの、こちらで冒険者の登録をしておきたいんですけど」

「ああ、どうしたんだいお嬢ちゃん」

「パーティ登録をしたいんだけど、大丈夫かしら?」


 あたしが銅のパーティ用のタグを見せると、少し驚いた顔をした。


「……お嬢ちゃん冒険者だったんだ。わかった。少し待ってなさい」


 そう言うと、パーティ登録の準備をする。こうしないとこの街で依頼を受けることができないのだ。個人で登録するならば、冒険者のタグが必要になるけれども、今回はパーティで動いているのでパーティ用のタグで登録を行う。


「そのパーティ用のタグを渡してもらえるかな?」

「あ、はい」


 タグを渡してしばらくすると、受付の人がタグを返してくれた。


「はいよ、これでこの店に《旅人隊》が登録されたよ」

「ありがとう!」

「これから依頼を受けるかい?」

「うんん、さっき着いたばっかりだし、今日はもう休むつもり。仲間が宿を取ってくれているしね」

「そうかい」


 というわけで、《旅人達》を冒険者酒場に登録したし、あたしはさっそく鍛冶屋を探しに街をうろつくことにした。リデンサールは初めて来た街でもあるし、冒険者酒場までの道はそうではないけれども、一見すると入り組んでるように見える。土地勘があっても迷いそうな感じなので、あたしは声をかけて、おすすめの鍛冶屋を聞いてみることにした。何人かに聞いてみると、どうやら偏屈なドワーフがやっている鍛冶屋が、少し入り組んだところに合って、そこがこの街一番ともうわさされている工房だと教えてもらったので、早速グレートソードを背中に背負い行ってみることにした。


「……なんだ貴様」


 わぁお、いきなりすごい感じだった。


「貴様のようなおん……女か?」


 そして、あたしの背中に背負っているグレートソードを見て、目をかっぴろげていた。それにしても「女か?」は失礼でしょう?!


「……いやすまん、さすがに失礼が過ぎたわい。まさかそんな無骨な剣を軽々と背負ってくるとは思わなんだ」


 あたしの顔に不機嫌が出てしまったのか、偏屈そうなドワーフの職人が謝ってくる。


「で、儂に何の用だ?」


 なんだか、話を聞いてくれそうな感じになったので、あたしはさっそく本題を切り出してみる。


「あたしの剣の調子を見てもらおうと思って来たの」

「…………これを?」


 あたしはうなづく。なんで唖然とあたしを見ているのかわからないけれども、武器の調子を見てもらうのは大事だ。師匠から譲り受けた剣ではあるけれども、使いこなせるようになって1年である。1年で何度か激しい戦いをしてきたのもあって、ちゃんと使えるかどうかをプロの目で見てほしかったのだ。


「……ふむ、まあ、見るだけなら構わん」

「やったぁ!」


 あたしはさっそく、剣を見てもらうために鑑定料を支払う。

 そして、ドワーフのお爺さん……ガンテツさんにグレートソードを渡そうとしたけれども、結局持ち切れなかったので支えることにした。あ、ガンテツさんの名前は聞き込みをしている時に知ったわ。


「……」


 プロの目でしっかりと観察されるグレートソード。まるであたし自身を見られているかのようで、ちょっと恥ずかしかった。


「よほど激しい戦いをしていたようじゃな。少々刃が欠けている。だが、ちゃんと砥げば問題ないだろう」

「お、良かったわ! 結構激しく打ち合うことがあったから、とこかひしゃげてないかと不安だったの。よかったぁ」

「しかし、余程の技ものじゃな。どこでこんな剣を手に入れたんじゃ?」

「うーん、師匠からもらったものだからわからないわね」

「師匠? 名前は?」

「ゼイガー・ライギボルドよ」

「ゼイガー……? 聞いたことないな」


 それはそうだ。師匠は冒険者としての名声を求めてなかった。己の正義を貫くために、人々を助ける人だった。


「だが、そうだな。この剣、他の鍛冶屋では面倒見ることはむつかしいだろう。何かあれば儂に相談すると良い」

「え、本当に?!」

「ああ、儂はこの剣が気に入った。この剣が宿す信念がいたく気に入ったのだ。だから、何かあれば儂に見せるがいい。この剣ならば格安で引き受けよう」


 そこまで名工らしいガンテツさんを唸らせる剣だったなんて思っても見なかった。というわけで、あたしはせっかくなので剣を砥いでもらうことにした。

 とはいっても、この剣はかなりの重量があって、あたしが動かさないといけない場面もあって砥ぎの作業が終わるまであたしもつきっきりになっちゃったわけだけれどね。

 ただ、ガンテツさんの研ぎの作業は見ていてすごかった。グレートソードは重すぎるから、砥石の方を動かすんだけれども、凄腕の鍛冶師だという事がそれだけでわかっちゃうくらいすごかった。

 食べ歩きは残念ながら明日しようかなって思う。

 今日の晩御飯は、牛ステーキでした。昨日が味気なかった分、しっかりがっつりと肉を堪能させていただきましたよという感じね。

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