2-2. 街並み
「ち、ちぎれる!ちぎれるぅ!!」
男を街まで連れて歩くことになってからしばらくの間、ヴェンリオは男の足を持ち、地面を引きずるようにして歩いていた。
「喚くな。ちぎれるわけがないだろ。」
ヴェンリオが掴んでいるのは、ゴブリンにやられた方の足ではない。男の大袈裟な叫びには耳を貸さず、ただ前を見据えて歩き続ける。
「それより、この方向で合ってるんだろうな?」
「あ、あぁ!そのまま進めばすぐに道が見えるはずだ!だから引きずらないでくれ……!」
男の悲痛な声に構うことなく、ヴェンリオは黙々と歩き続ける。すると男の言った通り、舗装された道に辿り着いた。
「どっちだ?」
「み、右!あっちだ!」
「分かった。」
ここまで長く人と行動を共にするのはこれが初めてだ。ヴェンでは食べるために一人で動き続けていたので、両足のない老人リオともここまでの会話はなかった。
「ところで、お前はいくつなんだ? 強いんだろうけど、その見た目で一人旅って、正気じゃないだろ?」
「知らん。12か13か14か……15だ。」
「……思ったより絞れてねぇな。まあ、12だと思うぜ。小せぇし。」
ヴェンリオは男が最後に小声でつぶやいた言葉に気づかないふりをし、ただ前を見据えて歩き続ける。言われなくとも、男の体格から自分の小ささは理解していた。しかしヴェンで生き延びてこれたのはその小ささがあってこそだと、気にすることはなかった。
道は徐々に舗装された部分と分かれ道が増え、少しずつ人々の姿も見かけるようになった。男を引きずっているせいで多少注目を集めたが、男が怪我をしていることは明白で、ヴェンリオの体格ではそう運ぶしかないだろうと納得もされていた。
やがて街の門が見えてくる。ヴェンよりも精巧に作られた高い門は、頑丈な鎧を身に纏い、腰に剣を差した門番が守っていた。
街に入るには列に並び、門番のチェックを受ける必要があるらしい。男に言われた通り順番を待っていると、すぐにヴェンリオの番が来た。
「ん? パサロか?」
門番はヴェンリオが引きずっている男を見て、そう尋ねた。男の名前はパサロらしい。ヴェンリオは今、初めてその名前を知った。
「ああ…失敗したんだ。この少年に助けてもらったんだ。通してくれ。」
「分かった。少年、名前は?」
「ヴェンリオ。」
「ヴェン……リオ? まあいい。マーデルには何の用で来た?」
門番はパサロをじっと見た後、冷徹な眼差しをヴェンリオに向けた。街を守る責務があるのだろう、少し違和感を感じるその鋭い視線を受け流しながら、ヴェンリオは冷静に答えた。
「偶然だ。歩いていたら辿り着いただけだ。」 「偶然? そんなことが…… 身分証は?」
「そんなものはない。それよりこいつの足がゴブリンにやられてな。さっさと治療しないと、死ぬかもしれん。急いでいるから通せ。」
門番は少し黙って考えた後、頷いた。
「そうか。じゃあ行け。だが、治療が終わったらどこかで身分証を手に入れて、もう一度ここに来い。お前みたいな奴は、すぐに何かしでかしそうだからな。」
「そうか。覚えていたらそうしよう。」
門番の言葉を軽く流すと、ヴェンリオはパサロの足を引きずりながら街の中へ踏み入れた。そして目の前に広がる光景に驚く。高い石造りの建物が立ち並び、道沿いには屋台が並び、賑やかな声が響いていた。
道端では人々が歩き、商人が自分の店を開けている。夜が近づいているにも関わらず、街の中は活気に満ちていた。
「すごいな……」
今日何度目かの感嘆の声を漏らす。
ヴェンでは想像もできなかった世界だ。
道のど真ん中で足が止まる。
「な、なぁ…どうした?」
「……ああ、なんでもない。行くぞ。」
パサロの弱々しい声で目的を思い出すと、再び歩き始めた。
とりあえず、こいつから金を回収しようか。
亡者祭典 -かつての弱者、スキル強奪者の逆襲- 宇佐部 @usb_01
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