第二章 外界編

2-1. 外界の人

「こんな世界があるのか。」


ゴブリンから始まり、なんちゃらウルフ、オーク、オーガ。

見たことがない生き物の連続に、黒髪……ヴェンリオは珍しく興奮していた。


「これは……あの果実か?」


以前、毒蛇の連中が芯をエサにヴェンリオを釣った、あの。

木になっているこれが全てあの果実だというのなら、やはり外はとんでもない世界だ。飢えという言葉が存在しないことになる。


そうして壁の外を堪能していると、少し先の方から声が聞こえた。


『誰か!助けてくれ!』


ヴェンを出てから既に3時間が経過しようとしているが、森の中で人の声を聞いたのはこれが初だった。


『誰か!!!』


「ああ……人の住む場所が近いのか?」


『誰かァァ!!!』


考えてみると、この森は奥に進むにつれて怪物の力が強くなっていた。にも関わらず、最後に出会ったのはオーガではなく最も弱いゴブリンが数匹。


森の終わりが近く、再び人の住む地域に入る。ヴェンリオがそう予測するには十分な要素だ。


「誰か……あぁ、そこの人!助けてくれ!ゴブリンが追ってきてるんだ!脚をやられてっ、振り切ることができない!」


考えを巡らせていると、どうやら見つかってしまったらしい。

ヴェンリオは悩むことなく口を開く。


「知らん。自力でどうにかしろ。」

「え……?ちょっ……!」


それだけ言って、這って動く男の横を通り過ぎる。ヴェンで育った者に、助け合いなんて精神は存在しない。


「待ってくれ!か、金ならある!」


その一言にピタリと足が止まる。


「て、手持ちは少しだが、宿に戻れば!もっと渡すこともできる!」


「ほう?まずは手持ちから寄越してみろ。」


男は布袋を放り投げた。キャッチすると、確かに多少の重みを感じる。


「確かに金のようだ。」


価値の低い銅貨が多いが、1枚銀貨もある。

ゴブリンにやられる程度の男から、この場でこれ以上搾り取ることは難しいだろう。


服の中、靴の中、あるいは体の中。金を隠せる場所など無数にあるが、今はいい。


ゴブリンが男の元に飛び出してきた。


金は取ったので放っておいてもいいが、大した手間でもないので助けてやることにする。


「伏せていろ。」


今更ゴブリンごときに遅れはとらない。

シャシュッと剣を振る音だけが聞こえると、ゴブリンの首は飛んでいた。


「すげえ……」

「今のだけか?」

「あ、ああ。助かったよ、強いんだな。」

「さぁな。それより、宿に戻ったら金を寄越すという話……忘れるなよ。」


用は済んだとさっさと歩く。だが、男はそれを慌てて止めた。


「ちょ、ちょっと待ってくれ!置いていくのか!?」

「ゴブリンなら殺してやっただろう。」

「だけどこの足だ。1人じゃ帰れない。連れて行ってくれよ…このままじゃ死んじまう!」


ヴェンリオは、はあ、と溜息を吐く。


「仕方ない。有り金全てで手を打とう。」


死んでは金の回収もできない。邪魔になったら殺すと決め、嫌々同行を受け入れる。


男は安心してホッと一息つくが、もう一つ譲れないことがある。


「言っておくが、お前の運び方は俺が決めるぞ。」

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