第72話 嘘だと言ってくれ

は……?

今なんて?


「尾形唯と俺が同じ事務所の

メンバーって言いました?」


「畠山さんおかしなこと言って

どうしたんですか?

仕事で疲れてるんですよね」


「……え?

二人共何を言ってるんですか?」


三人全員の頭に疑問符が

浮かんでいる。


そして、畠山さんはじっくりと

俺達を見詰めて、

次第に顔を真っ青にした。


「ま、まさか……

二人は知らないってこと……

ないですよね?

さっき言ったこと……

リアルで一緒にいるってことは、

この前のコラボで

仲良くなったから……ですよね?」


頼むからそうであってくれ。

そんな願いが彼の顔から

ひしひしと伝わって来る。


「……よくわかんないですけど、

間違いなく畠山さんの考えていることは

違うと思います」


その直後、畠山さんは駅のど真ん中で


「すみませんでしたあああああ!」


土下座したのだった。


────────────────────


それから俺たちは畠山さんに

焼き肉屋に連れられた。


流石にこのままでは帰せないのと、

謝罪も含めてということで。


明日は休日だし、俺も唯も

一人暮らしだから帰りが遅くなっても

大丈夫だったので了承した。


「え……ええ……その……この度は誠に

申し訳ございません!

まさか、お二人がお互いに

同じ事務所だと知らずに、

リアルでただの友人だったなんて」


まあ……でも、そりゃリアルで

事務所のメンバーが一緒にいるの

見たらそう思うよな。


逆に、同じ事務所のメンバーが

お互いにVtuberだと知らずに、

リアルで知る合う方があり得ない。


「やってしまった……

これを知られたら……

私は……く、クビ……」


「大丈夫ですよ! 

俺らしか分かんないですし!

俺はチクるつもりはないんで」


もう明日この世が

終わるみたいな顔してる。


「そうだよな? 唯」


「え、あ、はい」


唯は呆然と答えた。


「……そう言って

もらえるとありがたいです。

ささ! 

二人も学校で疲れたでしょうし、

食べてください! 

これは決して口止め料とかではないんで」


「じゃあお言葉に甘えて

いただきます」


「……いただきます」


それからしばらく焼き肉を

楽しんでいたが、


「それで」


ずっと眉を歪めていた

唯が口を開いた。


「健児先輩って誰なんですか?」


その言葉に畠山さんの顔が凍り付く。


「……え? 

い、いや流石にこれ以上は」


「ですよね。

じゃあ健児先輩に聞きます。

教えてください」


「……」


いや、絶対気が付いてるだろ。

だって、男二人しかいないじゃん。

で、もう一人の伊更木さんは同期だから

多分リアルで顔合わせしてるだろうし。


「聞き方を変えます。

先輩ってオオカミンなんですか?」


不意に星野さんのことを思い出した。

そういえば、あのときも

オオカミンなのかって

問い詰められたな。


ここで嘘ついたところで

後でバレるだろうし、普通に言うか。


「そうだよ」


いつも身バレ防止のために

学校では声を高くして話していたが、

この言葉は通常の

オオカミンの声で言った。


「…………………嘘」


お化けでも見たかのように

目を皿にして、口をぽかんと開けた。


そして、ゆっくりと

オレンジジュースを口に流し込み、

俺の方をもう一度見た。


「い、今……いろいろな感情が

入り混じってます……」


「そ、そうか……」


「具体的には……

ずっと推してた相手が

目の前にいるっている

嬉しさと驚きと……

その相手の顔を

叩いてしまったっていう

後悔……それと……推しにお尻を

叩かれた恥ずかしさ……

あとは……

推しがこの人だったっていう

複雑な気持ちとかです」


「まあ……そんな感じの顔してる」


「顔を叩いた?

お尻を叩かれた?」


畠山さんが困惑した様子で俺を見る。


「うわ~…………

私……終わった……」


唯は頭を抱えて絶望した。


「ちなみに……畠山さん。

唯って二期生の誰ですか?」


「それは……本人に聞いてください」


「推しに気づかれてない……

嘘……あんなにぐいぐい

アピールしたのに」


ぐううと唸りながら唯は

苦悩していた。


アピールした?

そういえば……

畠山さん俺と唯が

コラボしたことあるって……


「ま、まさか東雲アリサじゃないよね?」


「そうですよ! アリサです!」


「う、う、嘘だろ……」


俺の可愛すぎる後輩、東雲アリサの

イメージが完全に崩壊した瞬間だった。

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隣の席のモデルは超人気Vtuber~まさかのその子の推しが俺だった件~ I.G @shinig

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