第51話 謎の音

 一方、リビングに居る彩音とさくらは2人だけの会話を繰り広げていた。


「えっ!? すごい! 世界大会で2位!?」


 とある記事をスマホで見ていた彩音。片手でスマホを持ち、もう片方の手の人差し指で画面をスクロールしながら記事に書かれた文章を読む。


 彩音が見ている記事は、今年行われた弓道による世界大会の記事だ。


 その記事にはランキング1位~3位までの人の写真が載せてあり、さくらの写真の下にはランキング2位と書かれてある。


 銀のメダルと、さくらが使っているであろうピンク色の弓が一緒に写ってある。


「10発中8発が中心に命中………1位の人は9発命中してるのね」

「はい。あともう1発中心に命中出来たら、同率1位だったのですが………少々緊張してしまいました」

「でもすごいよ! そもそも世界大会に出る事すら難しいのに、ランキング2位なんて!!」


 目を輝かせる彩音に、さくらはニコッと微笑んで見せる。


 さくらは高校時代に弓道部へ所属しており、高校2年の頃にはプロ並みの実力だと褒められるほどだったらしい。


 その後、高校を卒業してスカウトされていた弓道の施設で日々練習に励んだそうだ。


「ですが、この世の中にはさらに実力を持ったすごい方達が居ます。上には上が居ると言うように」

「まぁね~。簡単にトップ取れるなら誰も苦労しないしね」

「そうですね………あら? もうすぐで1時になってしまいますね」


 ふと時計を見たさくらがそう呟くと、つられて彩音も時計に視線を送る。


「わっ、本当じゃん。そろそろ寝ないと、明日の飛行機に寝坊しちゃうよ」

「彩音ちゃんは明日帰るのですか?」

「そだよー。もうだいぶお邪魔してるからね。そろそろ柚梪もお兄ちゃんと2人きりの生活に戻って、イチャイチャラブラブな時間を過ごしたいだろうし」


 クスッと笑った彩音は、すっとその場で立ち上がる。


「それじゃ、私は寝るとするかね」

「はい。おやすみなさい」

「さくらちゃんはまだ起きとくの?」

「いえ、私は雪ちゃんを抱っこしたままソファで寝ますので」

「え? 寝ずらくない?」

「大丈夫ですよ。お気になさらず」

「………そっか。おやすみ~」


 そう言った後、彩音はさくらに背を向けて廊下へと歩き始めた。


 彩音がリビングを出る時に、リビングの電気を常夜灯に切り替える。そして、スマホを片手に廊下から2階へと続く階段に足を乗せる。


 その時だった………


「あぁんっ………」

「………ふぇ?」


 彩音の耳はある小さな音を聞き取ったのだ。


 思わず足を止める彩音。しかし、突然聞こえたからか何の音かまでは分からなかった。


 彩音は階段に足を乗せまま目を閉じて、耳に意識を集中させる………。


「んっ………あっ、あんっ………」


 耳に意識を集中させた事により、彩音は正確に謎の音を聞き取る。そして、それが何の音なのかを理解すると小さくため息を吐く。


「もぉ………せめて私達が寝てからすればいいのに」


 腕を組んでほどよく膨らんだ胸を持ち上げる彩音。


 彩音が聞き取った音の正体は、柚梪の甘い声。その声が何を意味しているのか………答えは1つしかない。


「うぅ………2階に上がりずらくなってくるじゃん」


 万が一物音を立ててしまうと、2人を警戒させてしまう。柚梪もここしばらくは俺と2人きりじゃなかった事から、甘える時間が無かった事を彩音は理解している。


「営むのはいいけど………もう少し後にして欲しかったな………それに、私も結構眠たいし………さすがに廊下で寝るのは嫌だし」


 彩音は少し悩んだ後、極力音を立てないよう2階へ上がると決めた。


「頼むぞ~私の足! 音を立てるなぁ~………!」


 そして彩音は、1歩ずつ階段に足を乗せては慎重に登り始める。その姿はまさに泥棒のようだ。


 階段の電気をつけるとすぐにバレるので、スマホのライトを頼りに階段を登り続ける。そして、見事に音を立てずに登りきる事に成功したのだ。


 ほっと一安心する彩音は、ふと俺の寝室に視線を向けると、ほんのりと扉が開いている事に気がついた。


「私の耳が良くても、そりゃあ声が聞こえてくる訳だ」


 寝室がすぐ目の前にあるせいで、ギシギシと何かが軋む音と柚梪の甘い声が良く聞こえてしまう。


「あっ、あぁ………んんっ」


 柚梪の甘い声と何かが軋む音が耳に入ってくるたびに、彩音の心臓の鼓動が早くなる………。


 そして、彩音はつい頭の中で俺と柚梪が営んでいる様子を想像してしまうのだった。


「………………っ!? ちょっ、何考えてんの私っ………あぁもう、私まで変な気分になってきたし………っ」


 顔を赤らめる彩音は頭を左右に振る。


「でも、柚梪ちゃん………すごく気持ち良さそうだなぁ………」


 ボソッとそう呟く彩音は、顔を赤らめたまま自分の寝室へと向かって歩き始めた。もちろん、音を出さないよう慎重に。


 そして、彩音が使っている敷き布団の上に寝っ転がって布団を肩まで被る。そして、スマホで目覚ましをセットし、充電器を刺して眠りに入ろうとした。


「………兄妹じゃなかったら良かったのに」


 眠りに落ちる前、彩音は無意識にそう呟いていた。

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[結婚生活編]心を失い痩せ細った女の子を拾って世話をしたら、とんでもない美少女になって懐かれた件 雪椿.ユツキ @Setubaki_Yutuki

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