第50話 その気にさせる

「いぇぇい!! 私の勝ちー!」

「くそっ! 卑怯者が………俺とさくらがやり合っている間に超広範囲攻撃とか」

「漁夫も作戦の内よ」

「なら今度は、2対1にしますか? もちろん、彩音ちゃんが1人で」

「それ採用。彩音ボコボコにしたろ」

「ちょっとぉ!?」


 皆パジャマ姿で寝る準備満々の状態で、就寝時間までスマホゲームの対戦で遊び尽くしていた。


 俺・彩音・さくらの3人で対戦をして、柚梪は温かいココアの入ったコップを両手に俺のスマホ画面を眺める。


 柚梪にも一回プレイさせてみたが、上手く操作が出来ずに断念。よって観戦するだけとなってしまった。


 そうして遊び続けていると、時刻は23時へとなる。


「おっと、もう23時か。そろそろ寝るとするかね」

「えぇ~………もうそんな時間? もっとゲームしようよぉ~」

「ゲームするのは構わんが、さくらとやるか1人でやってくれ。俺は明日仕事なんだよ」

「ちぇ~………」


 スマホの電源を切ってソファから立ち上がる俺に、彩音は頬を膨らませて不満そうな表情を浮かべる。


「そう言えば、雪は?」

「雪ちゃんなら、私の隣で寝てますよ」

「あらま………テーブルで全然見えなかったわ」


 どうりで雪の姿が見当たらないと思っていた。俺から見えない位置でさくらに寄り添って寝ていたらしい。


「困ったな………連れて上がろうと思ってたんだけど」

「なら、雪ちゃんは私が見ておきましょうか? 嬉しい事に、私の事を信頼してくれてるみたいですし」

「いいのか?」

「はい。突然泊まりに来ておいて、お布団を出して貰うのは迷惑ですから、私はソファで寝ますよ」


 雪の面倒を見てくれるのはありがたいが、さすがにソファで寝かせる訳にはいかない。


「気にしなくていいですよ。予備の布団ならもう1つありますし………」

「気にかけてくださり、ありがとうございます。ですが、私はソファでいいですよ。柚梪さん」

「まぁ、さくらちゃんもそう言ってる事だし、ここは素直に甘えとけばいいんじゃない? なんなら私も一緒に居るし」


 俺と柚梪からしたら申し訳なさでいっぱいなのだが、彩音とさくらの気遣いを無駄にしたくない。よって俺は、2人に雪を任せる事に決める。


「じゃあ、頼んでいいか?」

「はい。承りました♪」

「りょーかい」

「ありがとな。おやすみ」


 俺はそう2人に告げると、柚梪と一緒にリビングを出て2階の寝室へと向かった。


☆☆☆


 窓から差し込む月明かりがほんのり寝室を照らす。その中、俺と柚梪は布団をかぶりベットの上で寝転がる。


 仰向けになって目を閉じる俺。実際は全く寝ていないのだが、柚梪から見れば普通に寝ようとしているように見える。


「龍夜さん?」

「………ん?」


 柚梪に呼ばれた俺はそっと返事をする。


「あの………しないんですか?」

「まだ2人が起きてるだろ?」

「………そうですけど」


 何か物欲しそうな声を出す柚梪。そんな柚梪の心情はとっくに分かっているのだが、彩音とさくらが起きてる以上、下手に動けない。


「もうしたいのか?」

「い、いえ………そう言う訳では」

「全く、素直じゃないな。分かってるんだぞ。お昼と言い夜といい、俺の気を引こうとしている事くらい」

「な、何の事でしょうか………」


 ほんのりと顔を赤らめる柚梪は、どうにか内心で思っている事を隠そうとする。


「とぼけても無駄だ。本当は、夜にするのを楽しみにしてたんだろ? いや、期待していたと言った方が正しいか」

「……………」


 すると、柚梪は俺の手をギュッと両手で握りながら、恥ずかしいそうに口を開く。


「だって………雪を妊娠してから1度もしてませんし………雪が産まれてからほとんど雪に構っていて、ちょっとスキンシップが足りないって思っちゃったりしてて………今日の夜にしようって言われて嬉しくて」


 柚梪はつい流れに乗って色々と喋ってしまう中、恥ずかしさのあまり涙目になっていた。だが俺は、さらに追い込むかのように柚梪をからかう。


「ふーん。柚梪も立派な大人なんだし、自分の娘に嫉妬するなんて………可愛いやつめ」

「……………っ」


 柚梪が俺の手を握る力がより強くなる。そして、俺は柚梪と向き合いボソッと告げる。


「そんじゃ、するか。可愛い声が聞けないのは残念だが………って、うわっ!?」


 俺が最後まで話終わる前に、いきなり柚梪が俺を押し仰向けにさせ、そのまま俺に乗りかかり馬乗り状態にされてしまう。


 そして柚梪は、パジャマのボタンを上3つ開けて、胸を堂々と見せつけてきたのだ。


「ゆ、柚梪………急にどうした」


 突然の事で戸惑う俺は、柚梪の豊満な胸の谷間に思わず顔を赤らめてしまう。


「龍夜さんが悪いんですよ」

「………え?」


 柚梪は涙目のまま顔を赤くしてそう言い放つ。


「私をその気にさせた上に、たくさん焦らしたんですから」

「柚梪、ちょっと落ち着け………」

「嫌です。彩音ちゃんとさくらさんが起きてようが関係ありません。声を極力抑えればいいだけですから」


 そして柚梪は、肩からそっとパジャマを脱ぎ始めた。だんだんと肌をさらけ出す柚梪に、俺は心臓の鼓動が早くなる。


「覚悟してくださいね。いつもは龍夜さんのペースに乗せられっぱなしですが、今回はそう行きません。私が満足するまで………付き合ってもらいますからっ」

「一応明日、仕事なんだけど………」

「知りません。余計な事は考えないで………今は、今だけは………私の事だけを考えてくださいよ」


 俺の中にある何かを奮い立たせるようなその言葉に、俺にも火がつく。


「なら、満足するまで愛してやる。柚梪の方こそ………覚悟するんだな」


 そして俺は馬乗り状態から柚梪を強引に抱きよせ、逆に俺が柚梪を押し倒す。それから俺と柚梪は、余計な事は考えず、ただひたすらお互いに求め合い始めるのだった。

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