第49話 なんか違う
お昼以降から柚梪の様子が少し変だった。
彩音とさくらが買い物から帰ってきた後、皆で普通に食事をしていた時の事。
「雪ちゃん、あ~ん………やぁ~ん♡ 可愛い~♡」
彩音は雪にご飯を食べさせ、スプーンに乗ったご飯を雪が食べてくれるとすごく幸せそうに喜ぶ。そして、さくらは黙々と柚梪の作った手料理を食べ、とても凛々しい。
そして俺も、柚梪が作った手料理を美味しく食べつつも、彩音と雪の様子を見る。
しかし、柚梪は最初全く手を動かさずただスプーンをじっと眺めているだけだった。一向に食べようとしない柚梪が心配になった俺は、「どうした? 具合でも悪いのか?」と聞くが………
「あ、いえ………なんでもないです。ちょっと、ボーッとしてて」
「………そうか。疲れたなら休めよ?」
「はい」
俺がそう気にかけると、柚梪はやっとご飯を食べ出す。少し疲れているのだろうと思っていたが、ここからさらに様子がおかしくなる………。
お昼ご飯を食べ終わった後、俺・彩音・さくらの3人でスマホのゲームアプリをダウンロードして遊んでいた。
「うわっ!? なんこれ!? あのCPU強過ぎなんだけど!?」
「でも、強い方がやり応えがあるじゃないですか」
「確かにな。けど、彩音の言う通りこのCPU強いな………」
「私からしたらまだまだ弱い方ですよ。でもさすが龍夜君。もうコツを掴み始めてきてるじゃないですか」
「そうかい?」
スマホでゲームはあまりやらない俺と彩音にとって、指使いと言い集中力といい、体を動かしてないにも関わらずすぐ疲労がこみ上げてくる。
そんな中でも俺は気づいていた。食器を洗う柚梪が俺の事をチラチラと見てくると言う事を。
「悪い、一旦やめるわ」
俺はそう2人に言うと、スマホを閉じてソファから立ち上がり柚梪の所へと向かう。
もしかしたら、手伝って欲しいけど皆と遊んでいるから無理に声をかけられなかったのかもしれない。
「手伝うよ」
「え? いえ………別に遊んでいても………」
柚梪の隣に立って一緒に食器を洗い始める俺。一瞬柚梪が何かを言おうとするが、隣で手伝ってくれる俺を横目で見ると黙り込んだ。
俺はあえて何も言わず、黙々と食器を片付ける。すると、柚梪が濡れた手なのにも関わらず、珍しく揉み上げをそっと片手で持ち上げ、耳の後ろに引っ掻ける仕草をして見せる。
耳に伸びた髪を引っ掻ける事で、柚梪の横顔に首、そして耳がよりはっきりと見えるようになり、可愛いらしい柚梪から大人っぽくなった柚梪になったように感じる。
そもそも、料理をする時や食器を洗う時などは、いつも髪を結んでポニーテールにしているのだが、そう言えば今日は髪を下ろしたままだ。
「珍しいな。髪を結んでないなんて」
「………実は、いつも愛用しているヘアゴムが無くなってしまって」
「………そうなのか。それこそ珍しいじゃないか」
「………」
柚梪が愛用しているヘアゴム………それは、だいぶ前だが俺がプレゼントとして買ってきた物だ。
全てに対して物を大切に扱い、管理する柚梪が物を無くすとは………それも、俺がプレゼントしたヘアゴムを。
「けど、今の柚梪も最高にいいな」
「………え?」
「なんか、いつもの柚梪は変わらず可愛いままだけど、今の柚梪は………なんか立派な女性って感じ」
「立派な女性………」
柚梪は少し照れくさそうにしながら、食器を洗う手をとめない。
「………いい夫婦ですね」
「当たり前よ! なんたって、あのお兄ちゃんが認めた女性だからね!」
仲良く食器洗いをする俺と柚梪を遠目に見ていた彩音とさくらが微笑む。
そして今度は夜の事だ。
全員がお風呂に入り、最後の柚梪がパジャマ姿でリビングへと戻ってくるのだが………
「上がりました」
「おう、上がってきたか………って、柚梪!?」
「は、はい?」
「おやおや………柚梪ちゃんってば大胆」
リビングに戻ってきた柚梪は、パジャマのボタンを上から3つ開けており、柚梪の綺麗な胸の谷間が堂々と露出しているのだ。
「柚梪、どうした? いつもしっかりと一番上までボタンしてるのに………なんで今日に限って外してるんだ!?」
「あ、あれ………? おかしいですね………忘れてたみたいで」
柚梪は確かに自分の着ているパジャマのボタンが3つ外れている事に気がつく。しかし、すぐにボタンをとめようとはしなかった。
いつもなら顔を赤くしてすぐに行動へと移す。でも今回に限っては行動へ移すまでに時間がかかりすぎている。
「柚梪。こっち来て」
「はい………?」
俺の指示に柚梪はゆっくりと俺の所へ歩み寄ってくる。そして、柚梪を隣に座らせると俺は柚梪のパジャマのボタンをとめ始めた。
「たくっ、2人きりの時ならまだしも………彩音に加えてさくらも居るんだから。見ている俺が恥ずかしいわ」
「す、すみません………ちょっとのぼせちゃったのかもしれないです」
のぼせたって言うが、20分も入っていなかったはずだが………。
「柚梪らしくねぇな。あんな胸が露出してたら、慌ててボタンをとめるだろうに………まるでわざとやってるみたいだ」
「そ、そんな………わざとだなんて」
柚梪は額から汗かお湯の残りか知らないが、1つの水滴が流れ落ちた。
「柚梪、大丈夫か? なんか少し変だぞ?」
「そ、そうですか………? 私は至って普通ですよ………?」
柚梪はニコッと微笑んでみせるが、なんかいつもと違う。作り笑いと言うか………何か隠してるみたいな………そんな気がするんだ。
まぁ、ただの気のせいかもしれないけど。
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