第3話  リーナ・クレー

 アルフォードの母親アンジェラ・ブライアスは自分にも他人にも厳しい人間だ。

 それゆえに幼少の頃から孤立することも多く苦労が絶えなかった。しかし、彼女の信念が変わることはなく、それは美徳という形で今では多くの人に尊敬されている。

 そんな母親と対照的な思想を持つ子供がアルフォードだった。

 「魔法があれば苦労しないで生きていける」

 アルフォードが幼少の頃からよく使っていた言葉だ。

 その考えを彼女は決して否定することはなかった。それでも、その厳しさは変わらずアルフォードにとって母は怖い存在として子供心に刻まれていた。

 そんな母親と強く面影を重ねる彼女の名はリーナ・クレー。

 茶髪の髪を肩のあたりで短く整え、その瞳は深い青色に鋭く輝いており、彼女が見せる明るい印象とは逆に冷徹な一面を思わせる。

 そんなリーナだがくせ毛なのは隠せておらず、それが明るさと相まって雰囲気を和らげていた。 

 「とりあえず座ろうか」

 そう言って彼女は電車内の個室に入って行く。

 アルフォードもまた後を追ってリーナのあとに続いた。

 

 アルフォードにとって女性と二人きりという状況はなかなかどうして初めての体験だった。

 そもそも苦労なく怠惰に暮らしたいアルフォードにとって他人との繋がりは楔でしかなく、最低限の人間関係に抑えていた。

 それが天才とも呼ばれたアルフォードの孤立をさらに加速させ、初対面の相手、それも女性への対応を知らないまま魔法使いとなったのだ。

 そんなアルフォードがしどろもどろになっているのとは対極に、リーナは「ゆっくりくつろいで」という気遣いのもと早々に話を切り上げ読書に更けていた。

 ふとアルフォードの目にリーナが読む本の題名が目に入る。

 「湖畔の魔女」

 それは懐かしさを覚えるようでどこかで読んだことがあるようで、思い出せそうで思い出せない。

 「興味あるの?」

 頭を抱えていたアルフォードに独り言を聞きつけたリーナが反応した。

 その目は先ほどの冷徹を思わせる目ではなく、子供のように煌びやかな希望を見る目だった。

 悪い予感を感じながら、慎重に言葉を探し

 「興味があるというか、どこかで読んだことがあるというか。あんま覚えてないですけど……」

 アルフォードの返答にリーナは興奮を覚えながら

 「読んだことあるの?!」

 リーナの変貌ぷっりにアルフォードは内心焦りを覚えながら、すぐに訂正を入れるようとするが時はすでに遅し、同志を見つけたリーナはお構いなく自分の世界を広げていく。

 アルフォードは今さらながらに気づいた。

 (やばいこの人、小説オタクだ)

 そう小説オタク、それもかなりの重度の……。

 アルフォードはその後一時間に渡って、小説について熱い弁を聞くのであった。

 

  


  

 

  

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