メジロ、ウグイス、サクラ

 私はメジロという鳥が好きだ。どれだけ好きかと言うと、たくさんのぬいぐるみは勿論だが、指輪やイヤリングなどの装飾品まで、全てメジロで統一されている。まさに目白押しだ。また、あの黄緑色もいいのだ。

ただし、ウグイスは嫌いだ。


 お気に入りの黄緑色の服に身を包み、散歩をしていたときだ。

「ホーホケキョ」

 ウグイスが春を告げて鳴いた。

 私が声の方を見ると、枝に止まったそれを見て、言わずにはいられなかった。

「春告鳥さん、お知らせをありがとう。もう春だね」

「ホーホケキョ」

「でも、よくないと思うんだ。かわいい『目白めじろ』が『白』の字のせいで、色名に使うとのをいいことに、メジロ色をウグイス色だと、人々に思い込ませるなんて。お菓子のウグイス餅じゃなくて、メジロ餅だろ。君らは緑色というより、ほとんど茶色ではないか。春だけではなく、間違いでしたと告げて回ってはどうだね」

 ウグイスは鳴かなくなったと思うと、何処かへ飛び去ってしまった。


 しばらくすると、南側の、遠くの空から、何か大きな帯状のものが飛んで来るのが見えた。目を凝らして、よくよく見ると、それは前線の如く横に広がって飛ぶウグイスの大群だった。

 先の失礼な人間に復讐するため、仲間を連れてやって来たのだと、私は慌てて逃げた。何とか交通機関やタクシーを乗り継ぎ、ひたすら北へと向かった。ウグイスたちも休み休み来ているのか、追いつかれることは無く、数日間逃げ続けた私だったが、国の最北端の地まで追い詰められた。


 やがて、私は逃げ場を失うと、覚悟を決め、両親に最後の別れを告げようと、スマートフォンを取り出した。だが、連絡する余裕もなく、追いついてきたウグイスたちに囲まれてしまった。

群れの長だろうか、一羽が前に出て、私の顔とスマートフォンを順に見た。

「ホーホケキョ」

 その瞬間に、何千、何万羽のウグイスたちが、ぱっと飛び去った。


 私はしばらく呆けた後、手に握ったスマートフォンを見ると、アプリの通知が届いていた。何となくそれを開くと、今話題のニュース記事が映し出された。

「ええと、空を覆うウグイス、異常気象か。今年の桜前線は過去最速。初、北から南まで全国桜色、春告鳥がんばる…」

 ウグイスたちの映像がテレビやネットで流れ、それらが話題になったことで、本当のウグイス色が知れ渡った。

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