転生最弱冒険者が突然世界の終焉を託されました

翠川おちゃ

第1話 火災から少女を助けた

人はみんな、異世界に行きたいと一度は思ったことがあるはずだ。例えば、異世界で勇者になりたいとか、異世界で賢者になりたいだとか、異世界で聖女になりたいだとか、様々な事が有るはずだ。


だがそんな非日常的な事は絶対に起きない。自分が行きたいと思っていてもこの現実は、そんな世の秩序に反した事は絶対に起きない。


そんな現実を認めたくない高校一年の俺は、家を出て聖嶺せいれい学園まで歩いて居た。


(はあ、にしても……異世界行きたいなあ……。異世界って案外、魔法陣とか書けば行けそうなんだけどな)


俺がそう思っていると、いつもの学園に向かう途中に見掛ける家から怪しげな黒色の煙が昇っていた。


何だあの黒い煙……まさか!?


俺の脳裏に絶対に考えたくない考えが過ぎった。


火事なのか……いや、そんな事は、きっと……きっと違う……サンマを焼いてるだけだ。そうに違いない。


そう思いながら走って煙が出てる家に向かうとそこの家の窓からは黒煙が昇っていた。


「どうして……」


俺がそんなに言葉を漏らすと隣で泣いている女性の泣き叫んでる声が耳に入った。


「まだ中に娘が! 美希が!」


中に子供!? 一緒に出れて来なかったのか……!? どうすれば助けられる俺に出来る事は、無いのか。


どうすれば……どうすれば助けられるんだ!


脳裏で叫んでいると、娘の母親の隣で近所の人らしき人が言った。


「これだけ火が燃え上がってたらもう……」


それを聞いた途端母親は、膝から崩れ落ち泣き叫んでいた。


それを見た俺は、咄嗟に火の中に突っ込んでいた。それを見た近所のおじさんらしき人の「行くな! ぼうず」と言う静止の声が聞こえたが俺は、無視をして燃え盛る炎の家に突っ込んで行った。


家の中は、黒煙と炎で視界には何も見えなかった。ただこの体を炙られる感覚だけが俺に伝わってきた。


熱い。熱すぎる。身体が今にも焦げそうだ。……でもあの人の娘さんは、もっと苦しい空間に居るんだ。助けに行かないと。だからここで倒れるなんてダメだ。


「美希ちゃん! おーい!」


俺が娘の名前を呼ぶと燃え盛る炎の奥から微かに声が聞こえた。


「美希ちゃん! そこに居るのか!? 今助けに行くからな!」


俺はそう言い、声がした方に口を抑えながら向かった。


向かった先は、とても人が居るとは思えない程に炎が燃え上がっており黒煙が充満していた。だがその真ん中で泣きじゃくる少女が――立っていた。


「美希ちゃんか!? もう大丈夫だから! このハンカチを口に付けて」


俺は、ポケットから出したハンカチを美希に口に付けるように言った。


「うん。でもお兄ちゃんは……」


「俺は、大丈夫だから! お母さんの所に行こう」


俺はそう言い、美希を抱っこして出口に向かった。


良かった……救えてよかった……これで安心だ。早くこの燃え盛る炎から出て美希をお母さんの所に合わせて二人とも安心させるんだ。


そう思いながら炎を避けて進んでいると、上から家の瓦礫が落ちて来た。


どうして……何でだよ……あと少しなのに……どうして俺は……少女一人も救えないのか!


「お兄ちゃん!」


「気にするな! 早くお母さんの所に!」


「でも……」


「早く!」


俺がそう強く言うと少女は、泣きながら「誰か読んでくるから!」と叫んで出口の方に走っていった。


ある意味……少女一人救えたのかな……ああ、これ本当にヤバいな……体が焼ける様に熱い……息が苦しい……視界が……一酸化炭素吸いすぎな……。


徐々に視界が薄れて行って俺の脳裏にこれまでの人生の過去が過ぎった。


これが走馬灯って奴か……。最後に本当に見るんだな……まあ、最後に少女一人救えたなら神様も少しは、来世をいい人生にしてくれるだろ。


俺が意識が朦朧としてる中そんな事を考えているとうっすらと視界に誰かが写って叫んでいた。


「大丈夫か! 少年! 今助けやるから耐えてくれよ! 外に運ぶぞ!」


救助が来たのか……でも、もう無理そうだ……意識が薄れて声も遠くなって来た。最後に思い残しは、あの少女が俺が死んだのを自分のせいだと思わない事を願うばかりだ……。


でも来世は……もっとファンタジーな異世界に転生したいな……。

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転生最弱冒険者が突然世界の終焉を託されました 翠川おちゃ @sankumaasi

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