ねむり姫は夢を叶えられるか?

夕日ゆうや

ねむり姫と、その兄。

 家のねむり姫はエビフライが大好物だ。

「今日はエビフライよ~」

 母さんがそう言うとねむり姫こと朱夏しゅかが寝ぼけ眼をくしくしと擦りながら目を覚ます。

「いい匂い……」

 食べては寝るを繰り替えている朱夏は美味しそうにエビフライを食べる。尻尾まで食べるのは彼女の特徴だ。

 大人しくマイペース。何ごとにも動じない姿勢がある一方、好きなことには熱心にのめり込む。

 そんな朱夏は今年で高校一年になる。高校のコミュニティに参加できるのか? と不安を抱くが、朱夏なら大丈夫だろう。という安心感がどこかある。

 身内びいきかもしれないが、ねむり姫と言われるくらい朱夏の顔立ちは整っているし、努力は怠っていない。


 次の日の放課後。

 俺はクラスの碧人あおと沙慈さじ大輝だいきが寄ってくる。

「よぉ。お前の妹、可愛いらしいじゃん」

「おれらに紹介してくれよ」

「独り占めはずるいなー」

「お前らみたいな軽い奴とは会わせない」

「ち。これだからお坊ちゃんは」

 そう言って帰っていく同級生。

「しかし、ホントに美人だよなぁ。朱夏ちゃん」

「お前もそれか……。唯一の友達だと思っていたのに、残念だ」

「分かった。すまん」

 雷飛らいとはしょぼくれて頭を下げる。

「まあ、いいさ。雷飛は陰キャだし、その度胸はないだろ?」

「お説ごもっとも」

「お兄ちゃん」

 朱夏が俺の教室にやってくる。周りの人間が、男女構わず、みな目を向けている。

「帰ろ?」

「ああ。今行く」

 俺は鞄を手にして朱夏の傍に寄り添う。

 最後に雷飛に手を振る。

 下駄箱で少し分かれ、校門に向かって歩きだす。

「ありがと。お兄ちゃん」

「ん。なんだ?」

「なんでもなーい」

 気色一面と言った様子の朱夏。

 まあ、俺が悪い虫を追っ払っているのは周知の事実か。

 クスッと笑うと朱夏のあとをおう。

「まあ、俺たち義理の兄妹だしな」

「え。なに?」

「なんでもない」

 この関係は誰にも知られるものか。

 俺と朱夏だけの秘密だ。

 いつか、必ず。

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