サヨとあの子

 お金という存在が憎くて仕方がありません。


 何故ご飯を食べるのにお金がかかるのでしょう?

 何故生きていくだけなのにお金が必要になるのでしょう?

 なんもかんも政治が悪いのでしょうか?


 私の名前はサヨ。しがないコンビニ店員です。

 常にお財布はぺらぺらで廃棄になったお弁当で飢えを凌いでいるフリーターです。


 私は今、酷く困っています。

 何故ならお金がないからです。


 大学を卒業し、フリーターになってはや6年。

 遂に先月、実家を追い出され、一人暮らしが始まりました。


 私のようなダメなイキモノは、家賃を満足に払うことすら出来ません。

 稼いだお金はいったいどこに消えているのでしょうか?


 ……分かりません。


 コンビニで懸命に働いてはいますが、労働は辛く、苦しく、給料は安く、あまりに惨いものです。

 それでもコンビニで働くことは良いこともあります。


 例えば、オーナーの善意で廃棄になったお弁当が食べられること。

 食費が浮きます。


 例えば、お給料がもらえること。

 言わずもがなですね。


 例えば、若い子たちからエネルギーをもらえること。

 学校が近いので。



 ほら、今日も常連の学生さんがやってきました。

 この子はとても不思議な子。

 というか正直怖いまである子です。


 「お願いします」


 ほら、今日もいつものアイスキャンディです。

 夏でも冬でもアイスキャンディ。

 この子は毎朝必ずアイスキャンディを買っていきます。

 

 恐ろしいのはここからです。


 包装を破って、アイスキャンディを素手で掴み。

 棒を引き抜く。



 ぉ〜……クレイジー。


 ほら、手がベトベトになってしまっています。

 一体何の意味があるのでしょうか?

 金運が上がるおまじないなんでしょうか?

 私もやるべきでしょうか?

 

 「ふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふん!!!!!!!!!!」


 いや怖いです。


 あの子はアイスキャンディの棒を引き抜いたあと、決まって近くの電柱にしがみついて奇声をあげます。


 でも、その後は決まってスッキリした顔をしている気がするのです。

 もしかしたら、ああしてあの子は不安や鬱屈とした気持ちを吹き飛ばしているのかもしれません。


 この歳になっても、学生の女の子から学ぶことがあります。

 今度、私もやってみようかと思います。


 あの子に習って。

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仮設的仮説 @kasetsu_sm

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