仮設的仮説

@kasetsu_sm

電柱を引き抜きたい

 それは道を歩けば何処にでもある。

 外に出れば必ず目にしている。

 あまりにも日常的すぎて見ているのに意識はしていないアレ。


 電柱。


 今から私、アレを引き抜きに行きます。


 どのくらい埋まっているんだろう?

 1メートル?2メートル?もっと?

 もしかして、地球の裏側まで貫通していたり?

 気になって気になって仕方がない。


 でも今からその疑問もスッキリ解消される。

 何故なら私はこれからソレを引き抜きに行くのだから。

 そう思うと、日々の憂鬱も晴れるようだ!


 引き抜く電柱はもう決まっている。

 学校へ向かう途中にある学生御用達のコンビニ。

 その側にある怪しい電話番号の書いてあるチラシが貼ってある電柱だ!


 弾む足取りで私はコンビニにやってきた。

 まずは棒付きのアイスキャンディをなけなしのお小遣いで買う。


 袋を開けて、取っ手の棒を握ったら、手が汚れるのも構わずアイスを握る。

 手がひんやり冷たくなったら一気に。


 「ふん!」

 

 引き抜く!


 ずるり、と棒がアイスから抜ける。

 予行演習、というわけだ。


 アイスに埋まっていたのは多分5センチくらい。

 私は落胆した。

 今日のアイスはあんまり深くに棒が刺さっていなかった。

 いつも通りの深さでいつも通り。

 まあ、これはいいのだ。知っていることだから。

 このアイスはこのくらい棒が埋まっている。

 そういうものだから。


 でも電柱は引き抜いたことがない。

 だから電柱を引き抜いてみたい。

 そして今から引き抜くのだ。


 私はアイスを口に放り込んで、冷たく、甘く汚れた手を舐めると目的の電柱の前に立った。

 いつも通り、怪しいチラシも貼ってある。

 間違いなくあの電柱だ!


 今はコイツがどんな高身長イケメンよりも高身長で輝いて見える。

 私は大きく息を吸って電柱に組み付く。

 優しく、それでいて大胆に。

 

 さあ、

 行くぞ。



 「ふん!」 



 「ふん!」





 「ふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふん!!!!!!!!!!」





 私は恨めしく電柱を見つめる。

 この電柱は毎朝、私の制服を汚す。


 今日も電柱は抜けなかった。

 だから私は電柱に言うのだ。


 「学校、行ってきます!」


 そう笑顔で。

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