マインドコントロールのバリエーション

 愛知県庁舎上空で、深夜に原因がわからない強い光が観測されて以来、中京圏全域の人工芝がものすごく水気を帯びて常時雨上がりのような状態になっていて、翌朝、三重県の、サッカー部の高校生たちは、高校の一面人工芝のグラウンドが、晴れているにも関わらずびしょ濡れになっていたので、意外性を感じたが、その意外性は、細かくいえば、歯ブラシを口に入れた瞬間、ブラシ部分のあまりの硬さに驚いてすぐに出すと、ほとんど針のようなブラシが、血まみれになっていて、呆然としていると、どこからか小学生の男の子がやってきて、それ、フェイクブラシですよ、と敬語で教えてくれる、といったようなもので、ところで、これらの高校生は、すべて、携帯の着信音を、ミシュランの視察がやってきて、一流料理人がエプロンを締め直すときの音、に設定しているのだが、その高校生たちは、黒い屋根の家に住んでおり、それは、もとより黒だったわけではなく、焼け焦げて変色しているだけで、それは、昨晩の発光がもたらした影響だったが、それだけの熱を伴っていながら、なぜ影響が屋根だけに及び、人々が無事だったのかは、これは、全くの謎だった。しかし、その謎を解決するために立ち上がった五人の若者がおり、そのうちの五番目に足が速い者は、百メートル走のタイムが平均よりも三秒ほど短く、そのことからも、その五人の若者全員が、驚くほど足が速い、ということが、容易に推察できるだろう。サッカー部の高校生たちは、グラウンドの外に、見知らぬ老夫がずっと立っているのを発見し、一人の高校生が近寄っていって、声をかけたが、反応せず、見ると、老夫は数独の雑誌を読んでおり、高校生は、雑誌を覗き込んだが、数独は、最初からいくつかのマスに数字が書いてあるものだが、その数独には、数字がひとつもなく、代わりに〈流行りの邦楽が嫌いすぎて、店内放送で邦楽が流れだすたびに天井付近のスピーカーを睨みつけている女の眼光の鋭さ〉と書かれており、一マスの面積に、それだけの文字量が書かれているため、一見、真っ黒に塗りつぶされているだけのようにしか見えず、老夫は、数独において前例のないその黒さを前にして、立ったまま気を失ったのだということを、高校生は理解して、グラウンドに戻り、サッカーの練習をはじめながら、ふと、自分の成績で将来、志望の大学に進学できるのだろうかと、少し不安になるが、結果的には、高校生が受けた入学試験は、用紙の左側にパックマン、右側にミートボールの画像が印刷され、その下に〈CHOOSE PAC-MAN!!〉と書かれていて、パックマンを囲えば正解という、一問だけの、非常に簡単なものだったため、難なく合格したのだったが、しかし高校卒業を控えた三月末、高校生は東南アジアの路地裏で、アディダスの三本線の入った木刀で脳天をぶん殴られて死んだので、大学に進学することはかなわなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

水菜・送電・回し蹴り 三谷 @9234803

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ