第43話 そして巡る

 トコピとリステアが、感慨深く会話をしていた。そして、また会話を続けた。


「我々の知りたかったことや因縁めいたことも、ようやく終わったってことか」

「そうだね、やっと解決できたのかな」


 思い出したかのようにリステアがセンター長に聞いた。


「あのさ、センター長。僻地転移って、よくある転移と違うの?」

「別に転移よ。行き先が僻地だから、大体の魔物が行きたがらないだけ。ただね、通常、肌とか外身に貼るじゃない?それをアシィドは口の中、内身に貼っちゃったでしょ。その違いは見たかったかなぁ」


 僻地に飛ばされた古龍がどうなったのか?


 時間の概念が無くなった僻地は、薄暗く、広大な地下空間で、溶岩や魔物同士の小競り合いで見られる魔法や物理攻撃の衝撃が簡易照明代わりに扱われる。弱魔物は喰われ、狡猾か潜み続ける、もしくは圧倒的な強さを兼ね備えたものだけが、生存できる。


 古龍はどうであろうか。


 ずばぬけた知能があり、ずる賢さも備え、他の攻撃を受け付けない強靭な体があり、桁外れな破壊力。通常なら、この僻地でも他を圧倒する蹂躙も可能だろう。しかし、アシィドに僻地転移を貼り付けられたのは口の中。僻地に飛ばされる最中、次元移動しながら硬い体が軟化し、口からめくれ上がり、体の外側と内側が入れ替わった状態で、僻地に落下した。古龍当人は何が起きたか状況がつかめない。

 落下した衝撃音に魔物が群がる。


「なんだ?むき出しの肉塊があるぞ」

「食っていいのか?」

「試してみろよ」

「うわっ、硬いな。老体だぞこれ」

「煮込んじゃう?」

「マグマ煮込みか。また忘れちゃうんじゃないの?」

「煮込み時間忘れて、面倒くさくなっただろ」

「ほれほれ、転がしてマグマに一直線~」


 古龍の肉塊は、身動きがとれないままマグマに沈められ、じわじわと火が入り、そのまま朽ちていった。


 再び、第26階層の墓地。


「では、我々も地上に帰還するとしようか」


 ラドヤが皆に促し、順番に転移用紙を体に当て、地上に飛んでいった。

 レイラが転移しようとした時、センター長が声をかける。


「ホント、子供さん能力高いんだから、ウチと契約してっ!」

「だから、産んでないって」

「それは未来の話。んふっ」


 うんざりした表情で、レイラは転移した。

 その後、センター長は、皆が転移するまで残り見届けた。


「さてさて、どうしようかしら~」


 センター長は、第30階層に戻ってきた。


「そうそう、コレ。面白い武器だわ~、灰になるのよね。あ~、あるじゃないの。結構耐久性あるわぁ」


 センター長が手にしたのは、クラウン兄弟が使っていた大鎌の杖と設計仕様書。パラパラと設計仕様書をめくり、熟読しだす。


「ん~、これって階層主を決めるけど、変更できない仕様。でも、それって冒険者がいる種族に対してのことでしょうねぇ」


 設計仕様書を一旦閉じ、少し高く掲げた。


「あ、うん。うう゛ん。このダンジョン主は、アタシ、センター長に変更された」


 何も起きない。


「あれ、魔物だと上書きできんじゃないのかしら?」


 ダンジョン自体が揺れだした。そして、センター長の体が、激しく光を放った。


「ほっほぉ~、分かるわぁ~、手にとるように。まだ行ってない階層の構造も分かる。これは、アタシの時代来ちゃうわね。手直ししなきゃ」



 地上では、転移後、無事を確認しあっていた。何日も探しまわっていたイモウは、レイラが転移したことを確認すると抱きつき離れなかった。その光景を見て、安堵感に包まれ、大いに笑いあった。

 しばらくして、冒険者たちは王室に招かれた。事情聴取かと身構えるものもいたが、ラギン討伐に対して王室からの感謝を表した食事会だった。全ての冒険者が訪れたわけではなく、冒険者を引退した者、辞めた者、改めて修行をし直すといった、それぞれの目的に動き出している。


 それから長い時間が経った。


 イモウとレイラの間には、子供が生まれ、母親の強く血統が強く現れたことで優れた素質を持った存在。それに気付いているレイラは、センター長がスカウトに来ないか警戒している。

 リステアはパラジと結婚し、子を授かった。その子は、サンピラー魔法学園に通っている。


 穏やかな日は流れ、あのダンジョン探索依頼もギルド内では忘れ去られていた。


 ある大雨の日、濁流が山肌を削り、大岩が流れ落ちた。その結果、大穴が開いたことが周囲の話題となった。


「おい、聞いたか!あの大穴がよ、ダンジョンの入口の可能性があるんだって。ギルドにダンジョン探索の募集がかかってんだ。王室からの報酬もある特例依頼なんだって。一儲けできんぞ、コレは!」


 酒場で盛り上がっている冒険者の横で、100歳は超えているであろう老人たちが話しかけた。


「そこの若い衆、行くなとは言わんが覚悟せぇよ。あの周辺には古龍がおってな、生半可なことでは太刀打ちできん。あれは何年前になるのかの~、ピレン、ゼピンいつだったか?」

「あ~、いつかの~」

「エリス近衛隊長が若かったからな~。モスモスは、ご執心だったな」

「昔は可愛かったんじゃ。今はキレイになられた。今は文通友達」

「何しとんじゃ~」


 冒険者は、静かに席を移動した。


 ギルドには、多くの人が集まっている。


「担当のルコットです。今回集まって頂いたのは、先日発見された大穴の調査。王室からも依頼がかかる程の内容なので、大変危険が伴う内容だと思って構いません。では、先遣隊として調査したトコピに説明を変わります」

「トコピと申します。今回の大穴は、第1階層から中層以下で遭遇するモンスターが多数出現しており、先遣隊に死傷者が出ている。なので先遣隊は、途中で調査を中断せざるを得なかった。それから、数日後王室に文書が届いた。その写しを読み聞かせたいと思う」


『このダンジョンは、すでに完成されていた階層を改に設計をし直した改築リフォーム迷宮ダンジョンになっております。設計仕様書は、我が手にある。古参のようには、いかないわよ。センター長より』



おわり



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月極迷宮主2(マンスリーダンジョンマスター2) まるま堂本舗 @marumadou_honpo

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