第7話 勇者と魔王の新たな始まり
カイルは白い槍となった事に驚きつつも、そのまま残っている力全て振り絞って、ベガ目掛け白い槍を投げ抜く。
ベガもそれに気付き、応戦する様に槍を振りかぶり同じく投げ抜いた。
「槍に変化出来たからとどうだというんだ! オレ様の槍に勝ると思ってるのか? 武器ごと貫いて終わりにしてる!」
その直後、互いに放った槍がぶつかり合うと、カイルが放った槍がベガの槍を真っ二つに裂きベガに向かって行くも、ベガは瞬時に高速移動で避ける。
しかし、放った槍は方向を換えベガを追跡し背後からベガの背筋に槍が突き刺さるのだった。
「ばか、なっ……」
そのままベガは宙から落下し、地面に強く激突する。
カイルも体勢を崩しながら不恰好に着地しベガの元へと近付いて行くと、ベガは完全に意識を失った状態であった。
背筋に突き刺さっていた槍にカイルが手を触れると、形状が剣へと戻ると同時に魔力の放出も一切感じずただの白い剣へとなっていた。
直後、白い剣は失った魔力を補てんしようとカイルから枯渇寸前の魔力を吸収し始める。咄嗟にカイルは白い剣を遠くへと投げ捨てる。
「ふざけんな……力を貸してくれた事には感謝するが、こっちがもうぶっ倒れそうな時に吸うんじゃねぇよ。それとこれとじゃ話が別だっての」
その場で尻もちをつくように座り込み、カイルはポラリスとミレイの方に視線を向けた。
ポラリスは魔法で止血をした後、ミレイの近くに寄り無傷である事を確認するとカイルに向けて少しぎこちない笑顔で片手で丸のマークを作る。
ミレイは目を真っ赤にして、ボロボロのポラリスを心配した表情で応急処置の手伝いをしながら泣き始めてしまう。
「(二人共無事でなによりだ。本当にギリギリだった、白い剣が力を貸してくれたお陰だが、この先こんな奴らを相手にしないといけないと思うと、この先思いやられるな)」
そんな事を考えていると、周囲を覆っていた結界が徐々に解除されて行き完全に結界がなくなる。
今すぐにでもここで仰向けになってぶっ倒れてしまいたいと思ったカイルだったが、この状況をシリウスたちが知らないわけがないと考える。
せめて身を隠せる場所に移動すべきだと既に限界近い身体に鞭を打って立ち上がり、ポラリスたちの方へと向かい始めた時だった。
背後に空間の歪みが発生し、シリウスたちがこの世界に現れた時と類似したゲートが出現する。そしてそこからシリウスが現れる。
「っ!?」
異様な雰囲気にカイルは瞬時に察知し振り返るが、とうに体は限界を迎えておりその場で体勢を崩し、片膝をついてしまう。
しかしシリウスは襲ってくる事無く、カイルたちの方をチラッと見た後足元で倒れているベガの方へと視線を向ける。
そして見下す様に見つめた後ベガを軽々と掴み上げると、開いているゲートへと投げ込んだ。
「情けない……」
黙ったままカイルはシリウスを警戒し続けていると、シリウスは再びこちらに視線を向ける。
「今回は命令無視かつ任務失敗したベガを回収に来ただけだ。この場で俺がお前たちを片付けられればいいが、今はそれが出来なくてとても残念だよ」
「それはありがたいね。運がようやく味方してくれたかな」
「今回勝てたのは偶然だ。調子に乗って俺たちを倒せると思うなよ。いや、調子に乗って向かって来てくれる方が手間が省けるな。さっきの発言は撤回する。いつでもかかって来いカイル、そして弱者のポラリス」
そう言い残し、シリウスが背を向けゲートへと消えていく所でカイルは声を掛けた。
「シリウス、俺とアルゴの体を入れ替えたのはお前か?」
すると、シリウスは足を止めた。
カイルはまさか足を止めるとは思っておらず少し驚く。
「自分自身にでも会ってもう一度訊くんだな」
シリウスはそう告げるとゲートへ消えて行くとゲートも瞬時に消えてしまう。
「(自分自身に訊け、か……やっぱり、アルゴの奴が何か隠してるの? それとも答える気がないからそう答えた可能性もあるか?)」
答えの分からない事を考えていると、シリウスの言葉から追手はもう来ないと勝手に判断してしまうと緊張の糸が切れたようにその場に倒れてしまう。
「とりあえず、今はもう……何も……出来ない……」
そこでカイルの意識は一度途切れてしまう。
次に目が覚めるとそこはまた薄暗い所であったが、そこは部屋などではなく洞窟の中であった。
周囲には小さく辺りを照らす魔法が施されていた。
「あ、起きた?」
「っ……ミレイ?」
「ポラリスちゃん、カイ起きたよ~」
体を起こすとミレイの声を聞いたポラリスが洞窟の奥から姿を現す。
「良かった~カイさん、何処か身体に違和感とかあります?」
「ないわけじゃないが、そこまで気にはならない。治癒魔法をかけてくれたんだろ?」
「はい。すいません、私そこまで治癒魔法得意じゃないので、応急処置としては痛みを和らげる程度しか。ミレイさんも手伝ってくれたんです」
「いや十分だ、ありがとうポラリス。それにミレイも」
ポラリスは少し照れていたが、ミレイは恥ずかしくなったのかそっぽを向いていた。
その後、簡単に意識を失った後の経緯と現状の二人から訊き始める。
ポラリスとミレイがカイルを運び、ポラリスが元々アジトとして使っていた洞窟へ移動し現在は身を潜めていた。
追手の気配もなかったが、全員の状態からこれ以上の移動は出来ない為、暫くここで身体を癒すべきだと判断していた。
ある程度生活できる程度には道具も整っており、食料もまだあり暫くは拠点として使える様にしてくれていた。
カイルは二人の意見に反対はなく賛成し、そのまま軽く今後の事を相談し始める。
「それでどうするのこれから? またあんなのに襲われたら、今回みたいに行かないんでしょ。てか、出来ればああいうのは避けたいのが率直な意見なんだけど」
「そうだな、俺もミレイの意見には賛成だ。でもいずれはアルゴ、元の俺の姿をした奴に会って元に戻る方法を問いたださないといけない」
「カイさんもしそうするにしても、このままの戦力じゃそんな事は無理ですよ。協力者に手伝ってもらったり、私たちが強くならないと。五星勇者との対立は避けられないですし」
ポラリスの意見は最もだった。
今回のベガとの戦闘で勇者一人でも高い戦闘能力を保持しており、このままアルゴの元に向かったところで殺されるだけであると身を持って理解していた。
本当なら今すぐにでもアルゴに問いただして、元の身体に戻りたい所だがカイルはその気持ちをグッと抑え込む。
「自身の戦力を上げるのには時間が必要だ。だが、協力者を得るのはポラリスに協力してくれた相手の手掛かりを掴めればこちらの戦力アップだ」
「でもポラリスちゃんに協力してくれた人は、何処にいるか、そもそもどんな人かも分からないんでしょ」
「ええ、私はその人の居場所も名前も顔も全然知りません」
「それだとむやみに探しても時間の無駄だし、下手したら敵に見つかる可能性が増えるだけじゃない?」
「それじゃ、協力者になってくれそうな奴の所に行くのはどうだ?」
カイルの提案に二人は同時にカイルの方へと視線を向ける。
「誰か心当たりがあるのカイ?」
「旧魔王城ってのがあってな。そこに傍観者と呼ばれる人がいるんだが、物凄く強い。誰の派閥にも属さず、ただ王座に座り達観し続けている人だ。上手く交渉すれば協力者になってくれるかもしれない」
「え、聞くからに絶対にダメそうなんだけど、協力者になってくれる可能性ある?」
「本音をいうと限りなく低い」
傍観者と呼ばれるその人物は、昔魔族を取り仕切っており武闘派として有名だった。一度カイルは魔王となる前にその者へ会いに行き、共に魔族世界を引っ張ってもらえないかと交渉した事があったが、冷たくあしらわれていたのだった。
何故傍観者を決め込んでしまったのか、真逆な性格になってしまったのは何故か。
カイルはそこの理由が判明すれば、交渉の余地はあるのではないかと微かな希望を抱いていた。
「(あの人の抱える何かを解決もしくは、メリットを提示出来ればこちらの協力者になってもらえると考えて行くしかない)」
「ちなみに、他の協力者の当ては?」
「いない。そもそもこの勇者に協力しようと思う奴はいないだろ」
「たしかに」
ミレイは迷うことなく納得し、ポラリスは苦笑いを浮かべる。
結局、他にも案を出し合ったが一番は協力者を作ることとなり、その中でも強い傍観者の元へと向かい交渉する事に決めるのだった。
「はぁ~何か話疲れた。ポラリスちゃん、ご飯って何があるんだっけ?」
「今持って来ますね」
「あ~私も行く。カイはさっさと寝て、身体治してよね。このチームの最高戦力はあんたなんだからさ」
そう一方的に告げたミレイは、ポラリスの背中を押しながら洞窟の奥へと向かって行った。
カイルはそれを見送ってゆっくりと横になる。
ひとまずのこれからの方向性は決まったものの、厳しい立場である事に変わりはなかった。本当に協力者を得られるのか、次に五星勇者らと出くわした際に戦って勝てるのか、入れ替わった身体は本当に元に戻るのだろうか……そう考えだしたら、切りがなかった。
「ふーダメダメ。考え過ぎも良くない。今やるべきはこのボロボロの身体を完全に癒すことだろ俺。その後はあの白い剣の使用特訓に、傍観者であるあの人の交渉材料蒐集、ポラリスとの情報共有でシリウスらの事を知る。遠くの問題を見てる暇はない程、目の前には課題が山積みだぞ」
意識をそう切り替えてカイルはゆっくりと瞳を閉じ、眠りに落ちて行くのだった。
――そして三週間後。
カイルとポラリスの体調が全快し、魔族領土の最南端に存在する旧魔王場へと向けて出発する最終確認をし始める。
「食料よし、変装よし、各種道具関係、そして白い剣もよし。準備万端」
「こっちも大丈夫ですカイさん」
「私は既に準備出来てるわよ」
「よし、それじゃ行くか旧魔王城!」
意気込んだカイルの発言に、二人は「おー!」と声を出し三人は洞窟を出発するのだった。
「(アルゴ、シリウスお前らがどれだけ強大な敵だとしても、俺は魔王と名乗った男だ。お前ら勇者の好きには絶対にさせない! そして必ず俺は、失ったものを全て取り戻してやる!)」
そう心に決め込み、カイルは新たな道を一から歩み始める。
――これは、勇者の身体で魔王の意思を持つカイルが、魔王の身体で勇者の意思を持つアルゴと未来から来た勇者たちの討伐を決意した物語。
そして、
冷酷無残な勇者を抹殺するために魔王を助けに来たのは、未来の勇者たちだった 属-金閣 @syunnkasyuutou
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