第6話 協力者の正体

「そんなんじゃ、彼は死なないし戦闘不能にもならない」

「何故です?」


 そう言葉を交わすのは、カイルの姿をしたアルゴとレグルスであった。

 ここは、アルゴの部屋であり部屋の中央に映像でカイルたちとのベガの戦闘を映し出していた。


「シリウスから聞くかぎり、彼は特異体質持ちでもあるらしい」

「特異体質?」

「あぁ、魔法攻撃を受けると筋肉が活性化し鎧の様に体が硬く頑丈になって行くんだとさ。真の武器に固有能力もあって、更には特異体質持ちとは、もう彼らは人間でもないね」

「お前がそんな事を言うのか、アルゴ?」

「おや、様付けはどうした? 様付けは? それに今の俺はカイルだぞ」

「二人の時は偽者の魔王に様付けなどしない。それに姿がどうであれ、お前はアルゴだという事は私は知っているだ。お前に様を付ける義理などない、裏切り者が」

「君に言われたくないな。俺の話を信じて行動したのは君だろ、レグルス。彼も君が裏切ったと知って愕然としていたよ」


 するとレグルスは耐え切れずに、アルゴの胸に掴みかかる。


「貴様……」

「誰かに見られたらどうする? いいから離せ。俺らは協力関係だろ」


 レグルスは歯を食いしばりつつもアルゴから手を離した。

 アルゴは掴まれた箇所を軽く払う。


「俺は確かにシリウスたちと手を組んでいる。だが、お前とも協力関係を結んで契約通りに事は進めているから心配するな」

「ふざけるな! 全く状況が変わってないじゃないか。むしろ悪化している方だ。当初の話では、お前がシリウスたちを圧倒するという話しだったじゃないか」

「状況が変わってるんだよ。そんな直ぐに行動は無理。それにこの体にもやっと馴染んで来た所なんだからな」

「そういいつつお前は、着実と俺たちの魔族を乗っ取っていくつもりだろ。お前が私に協力その気がないのならこの場で殺す」

「ほぉ~魔王様の姿でもそれが出来るのか? それとも画面の向こうのあいつ等の所に行くか? まぁ行こうとした所で、俺が裏切り行為でシリウスたちに売って、お前はここで処分されて終わりだぞ。せっかく埋め込まれた『不必要なまでの正義の心』を取り除いてやったんだ、もう少し俺を信じろよ、シリウス」


 レグルスはアルゴを睨み続けているとアルゴは軽く肩をすくめた。


「目的は最初に言ったろ。奴らが邪魔なんだよ。未来から来たか知らないが、これは俺とお前ら魔族の戦争だ。それに部外者がいる事が俺はムカつくんだよ」

「……だが、最初に敵対をしたが敵の力に敵わず、一時協力関係を結んだんだろ」

「その通り! 俺があの剣を持ってしても殺せるのは一人もしくは、相打ちで終わると実感したんだよ。だから協力して、まずは敵を知る事にした」


 それからアルゴは、自身に『不必要なまでの正義の心』という物があると知る。

 それが力の一部であるとも判明し、体がそいつに支配されると思うと気に食わなかった。

 するとアルゴは、シリウスたちの魔法を盗みつつ独自に新たに魔法を創造し、体内でそれを封じることに成功した。とはいっても、感覚的に溢れ出す存在が分かっていたので、それを制限させたのであった。

 制御出来ている事については、シリウスたちにも気付かれていない。


 アルゴの目的はただ一つ、魔族と人間の戦争を邪魔されたくないだけであった。

 自身の欲望を満たす為だけに動いており、ようやく魔王との決戦を始められると思った矢先にシリウスたちが乱入して来たため、機嫌を損ね一時的に邪魔者を排除する事に目的が変わったのだ。

 その上で、シリウスたちの話や戦力を見てこれは一人で出来る事ではないと判断し、魔族側にも協力者を作る事にしその相手に魔王の右腕でもあるレグルスを選んだのであったのだ。


 だが、当初は敵対者であるアルゴの話をレグルスが聞く訳もなかった。するとアルゴは強引にレグルスと戦闘を行いその中で話を伝える。

 しかし、レグルスはそれでも話は信じなかったが、例の決戦の日を迎えアルゴの話が本当だと理解したのだった。

 それからアルゴと密会をし、協力関係を結びある先の話を聞いたうえで、アルゴを城へと手引きしていた。

 当初では入れ替わり後、隙が出来た勇者から順次二人で倒してくはずだったがアルゴはそれをせずにシリウスたちと協力し続け、魔王城を完全に乗っ取りはじめる。更には入れ替わったアルゴも一緒に抹殺しようとしている為レグルスは激怒していた。


「入れ替わりでここまで変化が出るとは思ってなかったんだよ。それにあいつも半年も寝続けるとか、考えられたか?」

「確かにそれには私も驚いたが」

「そうだろ。俺はお前を裏切ることない。まぁ、とりあえず話を戻そうか。あいつらは今、五星勇者のベガと戦闘している。シリウスにもこれはしっかりと連絡も入っているようだしな」

「未来の魔王という話も気になるが、状況的にカイル様に味方としているんだよな?」

「そうらしい。だが、シリウスたちからすれば全く敵にもならないと口にしていたな。たぶん、このままじゃあいつ等はベガに殺されるだろうな」

「っ……」


 するとアルゴがレグルスに近付き小声で話し掛ける。


「心配するな、相手は俺の体。しっかりと対抗出来る武器を残して来てある」

「もしかしてあの白い剣の事か?」

「なんだ分かってるじゃないか。なんせあれは、勇者たちの真の武器と言われる原型だぞ。上手く使いこなせれば勝ち筋も見えるはずだ。まぁ、あいつが使いこなせればだがな」

「話ではお前しか使えないという事だったが?」

「中身は違っても側は俺だ、全く無理と言う訳じゃない。現に、俺の剣への指示をあいつは振り切った。だから、あいつが剣を使いこなせる可能性はゼロじゃないし、上手く行けば俺たちが手を下さなくても五星勇者の一角は落ちる」

「貴様、もしかして初めから……」

「使えるかどうかも知らねぇんだ、最初から計画する訳ないだろ。でも偶然の産物としては最高の展開だろ?」


 アルゴはそう言って笑みを浮かべる。

 一方でレグルスは、映像に映るカイルを心配する表情をするのだった。


「(カイル様、どうかご無事に切り抜けて下さい)」


 そうレグルスが無事を祈っているのは真反対に、画面に映るカイルはボロボロとなり口元から血を垂らしていた。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「はぁー、はぁー、くっそ……何なんだよ、あいつの体は」


 遠くで完全に座り込んでしまっているポラリスを目を向ける。

 左肩にはベガが先程放った槍が突き刺さっていた。

 また右肩には槍が突き刺さった跡があり、そこから出血していたが俯きながら肩で息をしているのが分かり小さく安堵する。

 だが状況は最悪であった。


 大爆発の後、ベガは無傷ではなかったが平然と大爆発の中から現れた。

 更には、筋肉が大きくなったのか体付きが大きくなり攻撃しても鎧の様に硬く頑丈となり、それ以来こちらの攻撃が全く効かず一方的に攻められていた。

 ミレイはポラリスが張った防御結界の中でうずくまりながら震えており、ポラリスもそれだけは解除しまいと傷だらけでも維持し続けていた。

 カイルはもう最後の手段として、白い剣での物理攻撃を選択し白い剣を念じて呼び始める。


「(魔法攻撃も武術も効果なしとなると、もう可能性がある武器での攻撃しかあいつへダメージを与える方法はない)」


 念を送り白い剣がやって来るのをカイルは待っていたが、一向に来る気配はなかった。


「(どうしてだ!? どうして来ない!?)」

「何だ? これから殺されるのが怖くなったのか? 大丈夫だ、安心しろ。痛みは途中から感じなくなるかよ」


 直後ベガの拳が俺の腹部に叩き込まれ、ミシミシと音が聞こえた後俺はベガに殴り飛ばされ結界に強く打ち付けられた。


「がはぁっ……」


 そのままうつ伏せに地面へと倒れ、全く体に力が入らず呼吸もしづらい状態となる。


「おい、早く起きろ~勇者さんよ~」

「ぐうぅぅ……」


 力を入れようとしても直ぐに力が抜けてしまい、立ち上がる事が出来なかった。


「んぅ? おいおい、もう終わりかよ」

「がはっ、がはっ……」

「あぁ~あ、仕方ねぇ。じゃ残しておいたデザートでも、先にやっちまおうかな」

「っ!?」


 ベガはそう告げると狂気じみた笑顔をイリナの方へと向けて、ゆっくりと迫って行く。


「ま、までぇ……」


 行かせまいとカイルは声を出すが、かすれた声はベガに届かず止まる事はなかった。


「(ダメだ、このままじゃミレイが……俺が巻き込んでしまっただけのミレイは必ず守ると約束したんだ! 行かせるかー!)」


 気力で立ち上がるも、一歩歩くだけで激痛が身体に走る。

 が、それでもカイルは歩き続け途中から走り出し、ベガの前に立ち塞がった。


「ミレイは最後にする約束だろうが……俺はまだ、まだやれるぞ!」

「立ってるのがやっとのお前に何が出来るんだ?」

「俺は平和な世界を創るのが夢だ」

「はぁ?」

「目の前で傷つく奴を放って置けない、馬鹿野郎だ。でも、それでもこんな俺に賛同してついて来てくれる奴らがいるんだよ」


 ベガはカイルの言葉に首を傾げ、見下し続ける。

 カイルはそこで小さく息を吸って吐いた。


「俺は魔王カイル! 俺の夢を壊そうとする奴は、誰だろうと容赦しない! お前が勇者なら、魔王の俺にやられるのが運命がお似合いだよ!」

「はっ! 威勢だけはいいじゃねぇか! それじゃ、お望み通り殴り殺してやるよ!」


 その時だった、頭上から結界を通り抜け白い剣が目の前に突き刺さる。

 ベガは驚くも放たれた左拳は止まらない。

 しかし、カイルはすぐさま目の前の剣を握り締めると白く光り出す。

 カイルは迫るベガの左拳をかわし、突き出された左腕目掛けて勢いよく剣を振り上げると、ベガの腕が斬り飛ぶ。


「うぅっがぁぁああ! う、腕がー!」


 ベガは後ずさりすると、転が激痛を耐えていた。

 そんな姿を見つつ、カイルは白く光っている剣に目を向けてある事に気付く。


 この光、俺の魔力か? ……もしかして、この剣俺の魔力を食っていたのか?

 これまでは気付かなかったが、微妙に魔力を吸われいる感覚があるな。

 だとすると身体能力や魔法能力が低下したのも納得だ。

 推測だが、光っている時は溜め込んだ魔力放出状態で、通常は魔力を所持者から吸い取る剣というところか。なんつう武器を持ってたんだよ、あの勇者。


 白い剣の嫌な性能に驚いていると、ベガが応急処置を終え、ゆらりと立ち上がるとカイルに対し物凄い殺意を放つ。


「貴様ー! よくも腕を! もう、お前はここで肉塊にしてやる! 命令なんて知るかぁ!」


 するとベガの周囲から異様な魔力が放たれると、体に星座の様なマークが浮き上がるとそれが瞳の中へと吸い込まれて行く。

 そして手元にポラリスに放った槍を呼び戻すと、軽く宙に浮くのだった。

 それを見た瞬間、カイルはこれはベガの固有能力だと直感的に理解し、剣を構えるが一度瞬きした直後ベガは視界から消えていた。


「なっ」

「どこを見ている?」


 ベガの声が背後から聞こえ、振り返るも既にそこにはベガが槍を突きだしていた。

 咄嗟に剣で防ぐが押し負けてしまいそのまま後方へと吹き飛ばされてしまう。

 飛ばされた先で再び顔を上げると、またそこにはベガの姿がなかった。

 

「(どう言う事だ!? またいない)」


 すると周囲が一瞬暗くなり、真上に視線を向けるとベガが頭上から迫って来ていたが、カイルはすぐさま飛び避けた。


「よく避けた……が」


 そう告げた直後、ベガは再び地面に突き刺した槍を引き抜き姿を消す。

 そしてカイルの背後へと一瞬で回る。


「これで終わりだ!」


 背後から槍を突きだして来たベガに対し、カイルは強引に体を捻じりつつ白い剣の魔力放出の威力を使い、自身と槍の間に剣を滑り込ませ攻撃を寸前で受け止める。

 これにはベガも目を見開く。


「お前の固有能力、高速移動だろ?」

「っ!?」

「その顔、図星だな。タネが分かればそこまで怖いもんじゃないな」

「なんだと!」


 ベガは激高し槍を力強く押し付けて来るが、途中で槍ごと姿を再び消し、真横に現れる。

 カイルはすぐさま振り向いて対応するも、瞬間にまた高速移動され背後に回られてしまう。だが、白い剣の魔力放出をカイルは地面に放ち体を宙へと浮かしその攻撃をかわす。


「何!?」


 宙から一気に白い剣の魔力放出させベガ目掛けて剣を振るうも、ベガは高速移動で別方向の宙へと逃げる。

 剣を振るった後、地面には大きな斬撃の跡が刻まれる。


「(何だあの威力は!? あんなもの受けきれないぞ……アルゴの奴は、何故こいつに剣の使用を許してるんだぁ!)」


 その時カイルはベガの槍を見てある事を考えていた。

 勇者の真の武器は元をたどれば、この白い剣だと思い出す。

 なら、この白い剣にもベガの剣が槍に変化した様に、似た能力や加護といったものが秘められているのではないかと考え、カイルは白い剣を見つめ強く意識し始める。


 ベガの高速移動は想像より早く、先程の攻撃を避けられ続けられて、白い剣の魔力が切れてしまった時点で敗北になってしまう。

 その為、必ずベガに必中させ戦闘不能にしなければならなかった。

 例えるならば、ベガの使用している槍の様に。


「(お前にはその力が秘められているんじゃないのか? 持っているなら俺に使わせてくれ! 奴を倒すため、皆を護るためにはお前の力が必要なんだ!)」


 すると白い剣が今まで以上に強く光り出し、徐々に形状が変わって行き白い槍に変化するのだった。

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