第5話 勇者の武器
ポラリス・ステラ――シリウスたちと同じ未来からやって来た魔王と名乗る女性。
特徴的な翡翠色の瞳や名前からカイル・ステラと何かしらの関係があるのは明白であった。
彼女曰く、未来でシリウスたちには殺されたと思わせ、身を潜めていたが彼らの計画を知りこのまま隠れているだけでいいのかと思い行動を起こした。
過去の歴史を漁り計画を阻止するために、自身の瞳から得たこれまでの魔王の知識を元に戦いを始まった時代を突き詰め時空を超えてこの現代に来たと語る。
だが、ポラリスの行動がシリウスたちに見つかりこちらに来る前に妨害を受けてしまう。
何とか妨害や追手を撒き、遅れてこの時代にやって来るも運悪く再びシリウスたち五星勇者に見つかってしまい絶体絶命だったが、素性も知らない謎の人物に助けてもらったらしい。
そして身を潜めながら先祖の魔王カイルの元へと向かうも、シリウスたちの話から現勇者と中身が入れ替わっていると知り、勇者を探していた所であの場面に遭遇したのだった。
「と言うのが、私のこれまでの話ですおじいちゃん」
「あー色々とあるが、とりあえずおじいちゃんは止めてくれ」
「え、じゃなんて呼べば?」
「カイでいい。この体でカイルと呼ばれるのは嫌だからな」
「分かりました、カイさん」
ポラリスの話を聞くかぎり、未来で魔王だったかどうかは分からないが名前や特徴的な目から自分の子孫である可能性は高いと考えていた。
カイルの瞳はこの世界では珍しく、基本的には直系の子孫にしか継承されず、同時に断片的にだがこれまでの継承者の記憶を見ることが出来るのだ。
自らも母親やその前の代と言った者たちの記憶を断片的に見ている為、ポラリスにもカイルしか知りえない事を問いかけて確認し、返答に間違いなかったこともありポラリスが自身の子孫であると認めるのだった。
「にしても、よくシリウスたちの会話を盗み聞きして俺とアルゴが入れ替わっていると知れたな」
「はい、協力してくれた者もいまして……ですが、結局何も出来ずに申し訳ないです」
分かりやすく落ち込むポラリスにカイルが声を掛ける前に、ミレイが声を掛ける。
「いやいや、ポラリスちゃんが来てくれたから私たちは助かったんだし、落ち込む必要ないでしょ」
「ミレイさん」
「まぁ私はぶっちゃけ、変な事に巻き込まれた一般人だし、カイと変な取引するんじゃなかって今思い返して後悔してる」
「すいません、すいません、すいません」
「いや、ポラリスちゃんが謝る必要ないって」
そう言いながら、ミレイはカイルの方へ視線を向ける。
「何だよ、その視線は」
「ざっと聞くに、元をたどればあんたがさっさと勇者倒してれば全部丸く収まったんじゃないの?」
「はぁ~痛い所をつくな。そう簡単に倒せる相手じゃなかったんだよ」
「そこを何とかするのが魔王なんじゃないの?」
「魔王だからって万能じゃないんだよ。そもそも俺だってな、なりたくて魔王になったんじゃないんだよ! 事の成り行きで魔王の座にいて色々となんとかこなして来たんだよ」
「でも一番強いから魔王なんでしょ。ん? 今は勇者なんだっけ? なんにしろそういう事は早く言っておいてよ」
「俺は最初に魔王って言ったよな? あの状況だから信じがたかったかもだが」
「そこをもっと強く言ってくれないと」
「あのな~ミレイ」
口喧嘩が始まりそうになった所で、ポラリスが間に入って来て話を戻し、改めてこれからどうするかの話し合い始めた。
ミレイに関しては本人が言う様に巻き込まれただけだが、既にシリウスたちに目を付けられている為ここで別行動をした所で、見つかって殺される可能性は高い。
ポラリスは強力な味方だが、シリウスたちに単体で勝てる強さではないと自ら告白しているが、戦力としては数えられる状況であった。
そしてカイルは、身体的には勇者であり魔法も問題はないのだが、先程の戦闘で感じた急激な能力低下の原因が分からず、このままではさっきの二の舞になる可能性があると二人に提言した。
現状を整理しやるべき事を洗い出した結果、このまま一度身を潜めたのち、ポラリスを助けてくれた謎の人物を探し協力者を増やすべきだと答えを出した。
この体が勇者アルゴである以上、世間の印象やこれまでの行動から一般的な助けは求められない。
カイルの最終的な目的は、アルゴから元に入れ替わる方法を吐かせる事となった。
アルゴにないと告げられたが、シリウスたちの協力が裏にあると分かった以上、必ずその手段はあるはずとカイルは考えていた。
なんせ致命傷だった四天王たちを完全治癒出来る力や未来からの跳躍してこれる力にこの世界では作れない武具防具類を持つ未来人だからである。
微かな望みをかけて同じ未来から来たポラリスにも訊ねたが、人の意識のみを入れ替える方法や魔法自体は聞いた事がないと言われてしまった。
この先の未来でも魔法は未だ未知な物として扱われ続けており、新たな魔法が見つかり続けているので、存在している可能性はゼロではないとも告げられた。
「さて、ポラリスの協力者を探さなければいけないが、何処にいるか知らないんだよな?」
「はい。詳しく相手の事を知らなくて、急に現れて何度か協力してくれただけなので。もしかしたら、ふらっと現れる可能性はあるかもです」
「あ~話の腰を折って悪いんだけど、一応私は巻き込まれた身だからしっかりと守って欲しいとは言っておく」
「それは約束する」
「うっ、やっぱり勇者の顔で言われると違和感があるわね」
「悪かったな、冷酷無残な勇者の顔で」
「そう言えばカイ、あの持っていた白い剣どうしたの? 見当たらないけど、あれ貴方の武器でしょ?」
「あー逃げる時に少しでも軽くなればって思って捨てた」
「「捨てた!?」」
同時に驚く二人の声にカイルは軽く両手で耳を塞いだ。
捨てたとは言ったが、また必要になったら飛んで手元に来るのではないかと考えていたからであった。
もし来なくても、別に戦えない訳ではないのでそこまで重要に考えていなかった。
そもそもカイル自身があの剣がどういう物か理解していなかった。
しかし、アルゴとこれまで戦闘した経験や一度使用した経験から、あれは使用者が必要だと思った際に剣の方から何処にあろうがやって来る物なんではないかと推測していた。
カイルは邪魔だと口では言っていたが、自分の推測を確認するためにあえて剣を捨てたとい側面もあった。
だがあえてそれを二人に丁寧に説明はせず、適当な理由で納得させるのだった。
「とりえず俺の話は終わり。さっさと移動しよう、もしこんな所で追手に見つかっ――」
「見つかったらどうするんだ?」
「っ!?」
そう言って俺たちの目の前に頭上から降りて現れたのは、ベガであった。
カイルは瞬時に戦う事ではせず、逃げるを第一優先にしベガに対し目くらましの爆発魔法と風魔法、更には足元を崩す魔法を使用しミレイの手を取りポラリスと共に逃げ始める。
その意図にポラリスも直ぐに気付き、殿を務める様に俺たちの後ろに周りベガが追撃してこない様に爆発魔法を放ち続けていた。
途中でカイルはミレイを両手でお姫様抱っこし、脚に風魔法を纏わせ一気に距離をとり、ポラリスも離れる事無くついて来る。
「(あいつはシリウスと一緒に来た未来勇者の一人。まだ俺が知らない力を必ず隠し持っているはずだ。それに今はミレイもいるし、勝つ算段も立てれてない。だから、今は逃げ切る事だけを考えろ俺!)」
がむしゃらに森林地帯を突き進んでいると、運悪く草原地帯に飛び出てしまう。
「しまっ!」
すぐさま方向転換し、もう一度森林地帯へと入り込み別方向へと逃げようとするも、何か見えない壁に阻まれ森林地帯へ入る事が出来なかった。
見えない壁をカイルはすぐに蹴るが、びくともしなかった。
「くそ! 何なんだ、これ!」
するとポラリスが見えない壁に手を当てて小さく呟いた。
「これは、未来で勇者たちがよく使っていた結界です」
「結界?」
「はい。獲物を逃さない為に、一定範囲を密封状態にするんです。解除は不可能、内側から破壊も不可。唯一の方法は結界展開者である、勇者を倒す事のみです」
「おい、それじゃ……」
そこへ森林地帯から勢いよく出て来て見えない壁を通り抜け、ベガが再び姿を現した。
「酷い事するじゃないか? お前らのお陰でオレ様の勇者の服が、ボロボロじゃないか」
ベガは剣を鞘から抜き、カイルらに向けると紫色に光り出し形状が変わり槍へと変化した。
「カイさん、あれは未来の勇者の力の一つです。勇者の武器は代々引き継がれ、その形は所有者に合った形状になります。基本は初代勇者、この時代の勇者が所持していた剣の形状をしているのです」
「あの白い剣か」
「さぁ~て、誰から殺されたい? それくらいの自由はやるよ」
そう告げベガは肩を回しながら、狂気じみた笑顔を見せる。
結界に捕らえられ逃げる事は不可能。戦えるのはカイルとポラリスのみ。
相手の力は未だ未知数、ポラリスからある程度の情報を訊きながら作戦を立てて行くしかないと思考し始める。
幸い相手はこちらを下に見て、すぐに襲っては来る様子はなかった。
相手の様子を見ながら、カイルは足元にちょうど転がっていた石を見えない壁の方へと蹴った。すると石は見えない壁に弾かれずに通り抜けて行った。
その情報からこの結界は全てを弾く訳でもなく、ベガが何もせずにこの空間に入り込めたという事から、外部から入る際には制限はないが内部からだと術者が指定した存在だけ出れないのではないかと考える。
「ポラリス、なるべくベガに関する情報を教えてくれ。こうなった以上、戦闘は避けられない。俺とお前であいつを倒すしかない」
「はい、カイさん」
ベガ――シリウスと同じ五星勇者の一人とされ、それ以外にカノープス、アークツルス、リギルが存在している。
五星勇者は固有の武器を持ち、武器の真の姿はほとんど見せる事無く初代勇者の武器である剣の形をしている。
更に勇者たちには、固有能力が存在しておりそれは人知を超えた力と呼ばれているが、使用時の代償も存在すると噂されている。
「ベガの真の武器が槍なのは分かった。それを見せたって事は、ここで俺たちを確実に撃つという表れだろう。それと、一番警戒するのは固有能力ってやつか。ちなみに見た事は?」
「すいません、固有能力自体は私も見られていません。その前にシリウスに致命傷を受けてまして」
「そうか。あの武器だけでも厄介なんだろ?」
「はい、勇者の加護が元から武器に秘められており確かベガの槍には、必中の加護があったはずです」
「名前からして物凄く厄介そうな物だな」
と、作戦会議をしているとベガが退屈し始めたのか声を掛けて来た。
「まだ決まらねぇのか? 決まんねぇならまとめて殺す!」
その直後、ベガは勢いよく地面を蹴りカイルの方へと突撃して来た。
咄嗟にポラリスにミレイを守る様に指示をし、カイルはベガの攻撃を防ぐ為に前へと走り出し拳に魔力を込めた。
突っ込んで来るベガに対し、カイルは槍の軌道を逸らし殴り掛かろうとするが、ベガは寸前の所で槍を投げ飛ばして来たのだった。
予想外の行動だったが、カイルは迫る槍を真横から殴り飛ばす。そのまま踏み込んでベガに殴り掛かると同時に爆発魔法を仕掛ける。
だが、そこに殴り飛ばしたはずの槍が、カイル目掛けて軌道を変えて飛んで来たのだった。
「っ!?」
寸前の所でかわすも、槍は頬を擦って行きそこから血が流れる。
「オレ様が何の考えもなく特攻するわけないだろうが!」
槍の予想外の攻撃に体勢を崩してしまったカイルの腹部目掛けベガはアッパー気味に拳を叩き込むと宙へと殴り飛ばす。
ポラリスはそこですかさず風魔法でベガを吹き飛ばそうとするも、再びあらぬ方向から槍が向かって来て魔法を妨害されてしまう。
ベガはカイルを無視し、ポラリスに接近し防御結界で護るミレイと離すように蹴り飛ばす。そしてベガは先にミレイを攻撃するかと思われたが、ミレイは無視し宙にいるカイルの方へと飛び上がって来た。
「あの人間は最後にいたぶる様だ。だから、まずはお前らがオレ様を満たすいいサンドバックになりやがれ!」
宙でベガに捕まれると、真反対への地面目掛けて投げ飛ばされる。だが、カイルは氷魔法をベガに向かって放ちながら地面に叩きつけられる。
氷魔法はベガに直撃するも、さほどのダメージもない様子であった。
すると真下からポラリスがベガ目掛けてレーザーの様な光魔法を放つと、さすがにベガは受けきれないと思い咄嗟に空中で避けて地面へと降りて来る。
ポラリスはすかさずに風と氷魔法を混ぜ合わした広範囲魔法を宙に放ち、遅れて地面から槍を突きだす魔法を着地点へと放つ。
それに対してベガは手元に槍を呼び戻し、ポラリス目掛けて勢いよく投げ飛ばす。
槍は魔法に流される事無く一直線にポラリス目掛けて飛んで行く。
ポラリスは咄嗟に回避行動をとるも完全に避ける事が出来ずに、左肩に槍が突き刺さる。
「ぐぅっ!」
一方でベガもポラリスの魔法をそのまま受けるも、地面から槍が突き出て来る魔法だけは着地点を予定地より後方にし、勢いよく地面を踏み込み地形を一部変化させる事で軌道をずらし回避する。
ポラリスは刺さった槍を抜こうとするが深く刺さり抜けずにいたが、ベガが槍を呼び戻し行き勢いよく左肩から抜けて行き全身に激痛が走る。
その様子にベガは笑顔を浮かべて槍が戻って来るのを待っていると、カイルが真横から一瞬で距離を詰めベガの顔目掛けて拳を振り抜くと同時に爆発魔法を起こし、吹き飛ばす。
それでは終わらせずに、カイルは氷槍を魔法で創り出しつつ内部に爆発魔法を込めた無数の槍を放ちつつ、更に雷魔法をポラリスを真似しレーザーの様に最後に放った。
直後、ベガが吹き飛んで行った方から大爆発が起こりその風圧をカイルやポラリスが襲う。
カイルは容赦なく相手を戦闘不能にさせるつもりで、今出せる最高出力の連続魔法を放ち今の大爆発で勝負はついたと確信するのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます