第4話 邂逅

「あいつ等よ。あいつ等が一か月前に来て、村を不当に占拠してるのよ!」

「一か月前!? 本当か?」

「今でもあの日の事は覚えているわよ」


 カイルはミレイの一か月前という話自体があり得ないと驚いていた。

 何故ならば、シリウスたちが来たのが三週間前であったからだ。それより前に居るという事は、シリウスたちが呼んでいるのとは別者なのかと考え始めてしまう。


「とりあえず、カイの力で早く追い払ってよ」

「……分かった。あいつ等には俺も訊きたい事がある。全員捕らえるからミレイはそこで待っててくれ」


 そしてカイルはその場から勇者見習いが村全体に何人いるかを把握する探知魔法を展開し、場所と人数を把握した。

 人数は四人であり、全員村の中心部にいると分かった。

 まだこちらには気付いてないため、逃がさず全員を捕らえる為にカイルは全員を意識を宙に意識を向けさせることを決める。

 そこから一気に村へと駆けると同時に、村の中心部の宙に向けて魔力の塊を放つ。


 魔力の塊が中心部に到達すると大きく花火の様に音を立てて破裂する。

 勇者見習いたちは一斉に宙へと視線を向け、カイルはその間に俊足で村の中心部に辿り着くと、勇者見習いたちの足場を魔法で崩しそのまま周囲の地面を操り四全員を完全捕縛した。

 勇者見習いたちは何が起きたのかすぐに理解出来ずにいたが、こちらの姿を認識すると名前を叫ばれる。


「っ!? 勇者アルゴ!」

「貴様、どこから現れた!」

「はいはい、その通り勇者ですよ。で、訊きたいんだけどお前らここで何してるだ? 魔王軍とか名乗って理不尽な事をしてるそうじゃないか」


 威圧的な問いかけに拘束されている勇者見習いたちは、屈する事無く答えて来る。


「うるさい! 俺たちはお前の脅威から村を守っていたんだ! 当然の対価だ、こんな魔族と人間のハーフだらけの村を守ってやってるんだ!」

「種族がどうとか関係ねぇよ。何魔王軍の名を使って悪さをしてるんだよ?」

「黙れ勇者が! 世界の害悪そのものが、俺たちの事を言える立場かよ!」

「確かにこの姿で何を言っても仕方ないか。じゃ質問を変えよう。誰の指示でこんな事している? お前らはシリウスたちが連れて来た勇者見習いだろ? あの勇者たちの指示か?」


 そう勇者見習いたちに問いかけると、何故か背後から答えが返って来た。


「それは違いますよ、勇者アルゴ」

「っ!?」


 振り返るとそこに居たのは、シリウスとベガそして魔王カイルであった。

 目の前に自分自身がいる事に驚いてしまうが、願ってもない機会にカイルはここで全部ハッキリさせようと意気込む。


「彼らにそのような指示を出したのは、カイル様です。貴方をおびき出す為にね」

「何だと?」

「この半年間てめぇが姿現さねぇから、カイル様も苦渋の決断を下したんだよ!」

「半年だと!? 三週間じゃなくて、半年!?」

「何故貴方そこで驚くのか不明ですが、こうしてやっと姿を現したのです。今日この場で貴方を抹殺します」


 そう告げるとシリウスとベガが武器を取り出し今にも襲い掛かって来そうになるが、それを魔王カイルが止めた。


「カイル様、何故止めるのです?」

「半年ぶりの再開なんだ。少し俺にも話をさせて欲しんだ」

「……分かりました」


 シリウスとベガは魔王カイルの言葉を素直に聞き、少し後ろへと下がる。


「半年ぶりだな、勇者アルゴ」

「俺の中じゃ三週間ぶりだけどな。そもそもお前は誰で、俺の姿で何をやってるんだ?」

「半年も姿を隠しておかしくなったか? 俺は魔王カイル。お前が半年前に殺しに来たんだろ、忘れたのか?」


 直後突然念話で相手が話し掛けて来た。


『やっと目を覚ましたのか。姿を現さないから、死んだと思っていたよ魔王カイル』

『お前、やっぱり勇者アルゴか』

『あぁその通りだ。お前のいう三週間前、お前の部屋に忍び込んだのも俺だ』

『俺に何をしたんだ?』

『もう分かっているだろ? 入れ替わったんだよ。あの日からお前は俺で、俺がお前になったんだよ。戻る方法はもうない。このままお前が、勇者アルゴとしてこいつらに殺されてくれ』

『ふざけるな! 戻る手段がないだと。俺になり変わって、何考えてやがる!』

『そんなの決まってるだろ。訳の分からない勇者たちの手から逃れる為だよ。さすがに俺もあんな奴ら相手にしたくねぇからな』

『……まるで何度かやり合ったような言い方だな』

『鋭いね~魔王カイル。そうさ、俺はあの日以前にシリウスたちと出会っている。そして手を組んだんだ、邪魔なお前を排除する為にな』


 そこで念話が途切れる。


「っ、どう言う事だアルゴ! それじゃあの日、シリウスたちがあの場に現れると分かっていたのか!」


 するとシリウスとベガが魔王カイルの姿をしているアルゴを睨む様に視線を送る。


「悪い、つい口が滑ってな」

「はぁ~バラしてしまったのなら仕方ないですね」

「何だよ、演技までしてたのに台無しじゃねぇかアルゴ」

「お前ら……最初からアルゴとぐるだったのか!」


 カイルの問いかけにシリウスはため息をついて、呆れたように口を開いた。


「えぇその通りですよ、カイル様。あぁでも誤解しないで下さい、お話した未来の事は嘘偽りは一切ありませんから」

「それじゃ、何故アルゴと手を組む? お前らは『不必要なまでの正義の心』を宿した勇者を倒しに来たんじゃないのか?」

「全く持ってその通りです。ですが、それは私たちに『不必要なまでの正義の心』が芽生える前のお話です」


 シリウスのその言葉でカイルの嫌な感覚が全身を駆け巡った。


「そうです! 私たちは『不必要なまでの正義の心』のお陰で、正義を執行している最中なのです! 我々勇者にとって唯一の汚点である、魔王への敗北そして衰退。それを正す為に、私たちは未来からやって来たのです」

「……そうだとしたら、入れ替わる意味なんてないはずだ。真っ正面からお前らが来れば、すぐに終わった事だろうが」

「確かにカイル様の言う通りです。ですがアルゴに言われたのですよ、単に魔王カイルを滅ぼした所で、我々勇者の汚点は消えるが魔王軍は止まらない。やるならば魔王軍を乗っ取って魔族を一気に片付ける方が、未来を先倒しに出来て意味があっていいだろと」


 その言葉にカイルは絶句する。


「カイル様とアルゴを入れ替えたのは、魔王軍を乗っ取るためです。そして現在はほぼ完全に私たちが乗っ取っていまし、貴方のご友人たちも既に『不必要なまでの正義の心』に侵されていますよ」

「!?」

「よく考えて見ろ、どうしてあの日俺がお前の部屋まで侵入出来たと思う? 手引きをしてもらったんだよ、お前が一番信頼しているレグルスにな。レグルスもあの時既に『不必要なまでの正義の心』に侵され始めていたんだよ」


 カイルは頭を抱えながら、一歩一歩下がって行く。

 嘘だ……そんな訳ない、ありえない。


「もうネタバラシもしたので十分でしょう。さっさと魔王カイルの意識を殺しますよベガ」

「おう。やっと出番か?」


 そんなタイミングに運悪く現れたのは、ミレイであった。


「カイ。何、これどういう状況?」

「ミレイ!?」

「カイ? おいあの人間、そこの勇者の正体がカイルって知ってるんじゃないのか? シリウスどうするよ?」

「はぁ~面倒ですね。疑惑がある以上共に片付けて、勇者がやった事にしておけば皆信じるでしょう。私たちは助けに来たが一歩遅かったという事で」

「了~解~」


 するとベガが勢いよくミレイへと突っ込む。

 カイルは咄嗟にミレイの名を叫び「逃げろ!」と口にするが、ミレイはよく分からず足がすくんでしまい動けずにいた。

 だが、そんなことおかまいなくベガは剣を突き立て、ミレイの胸目掛けて突きだす。


「やめろー!」


 ミレイに対しカイルが手を伸ばした時だった、何処からともなく白い剣がミレイの目の前に突き刺さりベガの攻撃を防ぐのだった。

 まさかの出来事にカイル以外の全員が驚きの表情を見せる。

 その間にカイルはミレイの元へと駆け込み、突き刺さった白い剣を引き抜きミレイを護るように構えた。


「どう言う事ですか、アルゴ。あれは中身が入れ替わっても貴方にしか使えないのではなかったのですか?」

「おいオレ様、あの剣の事聞いてねぇぞ」

「そのはずなのだが、俺にも分からない」


 するとアルゴが俺に向けて手を向けて来ると、白い剣がアルゴの方へと引っ張られそうになるがカイルは意地でも離さない力強くに剣を握る。

 暫くすると白い剣がアルゴの方へと引っ張られる事がなくなる。


「カイ、どうなってるのよ」

「俺が訊きてぇよ。でも、あいつ等は俺の敵で、お前も殺そうとした。それが事実だ」


 シリウスたちからの殺意を感じカイルはミレイと共にじりじりと下がり始める。

 直後、シリウスとベガが武器を手にして突っ込んで来る。

 カイルはミレイに遠くへ逃げる様に伝え、白い剣で対応し、魔法で二人を吹き飛ばす。しかし、シリウスたちを完全に押しのける事は出来ず、防戦一方となってしまい体力が消耗していく一方であった。


「(くそ、二体一という状況もあるが、魔法の威力や身体能力の低下が異様だ。何だこれ……何とかこの白い剣で彼らの攻撃を防げてはいるが、このままじゃ)」


 その時だった、空中からシリウスたちとカイルの間を引き離す様にレーザーの様な魔法が放たれ、シリウスとベガが一旦後退する。


「誰だ!」


 カイルも同じ様に魔法を放ってきた方へと視線を向けると、そこにはフードを被った人物はが宙に浮いていた。

 その人物は、そのままカイルの前へと降りて来てシリウスたちに片手を向けると、二人を吹き飛ばす衝撃波を一瞬で放った。


「お前は……」


 そうカイルが問いかけた次の瞬間、フードを被った人物はカイルを軽々と抱え上がると、その場で振り返り逃げるように走り出す。途中でミレイも捕まえると脚に風を纏わせ、一気にその場から離脱する。

 残っていたアルゴが追撃して来る事はなく、その場でただただ見届けているだけであった。


「どうするシリウス? オレ様ならまだ追えるぞ」

「そうですね。せっかく見つけたのですから、追ってもらえますか? それにさっきのフードの人物は、もしかしたらあいつかもしれませんので、確認でき次第連絡をください」

「あぁ、任せとけ。連絡入れた後は、オレ様がヤッてもいいか?」

「いいですが、もしそうだと判明したらどちらも殺さないで下さいね」

「それくらいの手加減余裕だよ。オレ様も、五星勇者の一人だぞ。これまでのオレ様の実力分かっているだろ? 心配すんなよ、しっかり任務はこなすからよ!」


 そう言い残し、ベガはフードを被った人物が逃げて行った方へと走り出す。

 シリウスはその後ろ姿を見て、小さく呟いた。


「五等星の分際で一等星の俺に口答えするなよ……俺の指示には「はい」って答えていればいいんだよお前は」

「お~怖い事を言うね、シリウス」

「アルゴ、てめぇも勝手にカイルにバラしてるんじゃねぇぞ。計画が台無しだろうが」

「お前もその後話してただろうが。どうせ知られた所で、今のあいつには何も出来やしねぇだろ。遅かれ早かれ知られる事じゃないか、誰がバラそうが問題ないだろ?」


 アルゴの言葉にシリウスは舌打ちをすると、捕らえられた勇者見習いへと近付く。


「カイルごときに捕まえるとは、お前ら何してるんだよ?」

「ひっ、シリウス様……こ、これは」

「あー言い訳はいい。城でカノープスの奴に、きっちりと改造してもらうからその時にでもあいつに言え」


 するとシリウスは片腕を突きだし、勇者見習いの真上の空間を歪ませゲートを創り出すと、そのまま手を振り下ろし勇者見習いたちをゲートに飲み込ませた。

 そのままゲートの向きを自分の方へと向けると、シリウスはそこへと入って姿を消す。アルゴもその後を付いて行き姿を消すと、ゲートは徐々に縮小し最後には消えてしまうのだった。

 その後カイルたちは、村からかなり離れた森林地帯に運ばれて、少し開けた場所でゆっくりと下ろされた。


「お二人ともご無事ですか?」


 フードを被った人物から女性の声が聞こえ、二人も抱えて走っていたいた事にカイルは驚く。だが、女性でも強い身体強化魔法を使えば二人くらい運ぶのは可能なのかもしれないと考える。


「もー何、分けわかんないんだけど? ねぇ、カイ」

「俺にも分からん。だけど、このフードの彼女が俺たちを救ってくれたのは確かだ。あのままじゃ、俺は押されて殺されて、君も殺されただろう」

「うっ……助けて貰ったのは感謝するけど、このフードの人はカイの知り合い?」


 ミレイの問いかけにカイルは軽く首を振る。

 すると、目の前の人物がフードを脱ぐ。

 その下の顔は翡翠色の瞳が特徴的でミディアムな髪型をしていた女性であった。


「いや~ギリギリ間に合って良かったです。一応追手も完全に撒いたので、今は安全ですし、少しこの辺で休みましょうか」

「そうしたいが、その前に君は誰なんだい? アルゴの知り合い? それともアルゴの仲間か?」

「いえいえ! あの勇者の仲間の訳ないじゃないですか! あいつ等は敵じゃないですか」

「敵?」

「あ、すいません。名乗った方が早いですよね」


 すると彼女は軽く咳払いをする。


「では改めて、私の名前はポラリス・ステラ。未来で勇者シリウスたちと戦っていた魔王です、おじいちゃん」

「……はぁ?」 

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