パラレル凛音
塔月リツコ
第1話 青年との出会い
「こういうことができちゃう人なんだ。」
私の名前は音。オトと読みます。
今日、2017年2月18日は私にとって人生の歯車が大きな音を立てて崩れ落ちていくのを目の当たりにした気の狂うような日。同時に実在しているのかもわからない運命の「あの人」に夢中で縋りつく選択をした、色彩のない日常と極彩色の艶やかな夢への耽溺に沈んでいくワタシを俯瞰する「私」との、奇妙な三人の共同生活の始まりの日でもあります。
私は今、誰もいない部屋で記憶のページを捲り続ける孤独な女です。
部屋には音楽と本と、映像を再生するためだけに存在しているテレビ。数パターンの食事をローテーションしながら日々を重ね、あとはノートパソコンとモバイル機器、少しの衣類と化粧品があるのみ。
スマートフォンに届くダイレクトメールや営業のような電話以外の着信音は鳴りをひそめ、家族との接触も避けて過ごし、客人もなく。滅多に鳴ることのないインターホンですら息を潜めてやり過ごすような女です。
友人、知人、家族や社会生活から隔てられた日常が、インターネット上では派手な言動に自己の存在意義を見出す空元気ばかりの哀れな女を助長し育て、生き生きとした色と光と涙と優しさは過去の追憶と哀しみと快楽によってのみ彩られているという、愚かな自己憐憫を愛して生きる不様な女を生み出しました。
全ては、あなたが私たちの自由を許してくれないから、なのです。
あなたから「生きろ」と言われたワタシは砂を噛み締め、ざらつく不快を心身で味わい生きてきました。
もし私が本当の意味で神に降伏し、懺悔によって赦しを乞うのであれば、私とワタシが見てきた全てをあなたに物語として提供し、このフィクションを通じて私があなたを愛しているという証をあなたが確かに受け取り、どうかあなたの確かな心の安らぎを私に見出して欲しいのです。
この瞬間、彼を「凛」と名付けさせて下さい。
この物語はあなたに捧げる凛と音の物語です。
パラレル凛音 塔月リツコ @ritsuko3-touzuki
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