第2話 罪なき罪と理想の世界
「……また、不祥事か…」
彼の名は小南 我綉。 とある地方都知事である彼には最近、悩みがあった。
元々、 父の家が名のある領主で地民からの評判も良かった小南家がそのまま代々この地方の都知事を務めてきた訳だが、 先々代…つまり祖父の代からとある不祥事がひた隠しにされていた。 パワハラである。
元々、 あまり騒がれていなかったパワハラが昨今では大問題として捉えられていたのだ。
「私は…何もしていないでは無いか…!」
実際、 パワハラをしていたのは父の代までだ。時間外労働に始まり、 飲酒の強要…暴力の隠匿など多岐にわたる。 そのしわ寄せが内部からの告発により表面問題として浮き彫りになってしまったのだ。
「…こんなのは、 私の責任ではないではないかっ! どうしてこうなってしまったんだ…!」
溢れ出す怒りで手元にあった灰皿を地面に叩きつけようとしたその瞬間、 何者かに腕をつかまれ止められた。
「…! なんだ貴様…は…?」
怒りの矛先を腕を掴んだものに変更しようとした時、 その異様な光景に頭が混乱してしまった。 なんと自分の腕を掴むその男は宙ぶらりんになりながら小南の手を掴んでいたのだ。
「お、 びっくりしたかあ?」
飄々とした態度でカラカラ笑うその男の姿を前に呆気に取られてしまった。
「おー、 だーいぶ混乱してんなぁ。 さてはおまえ〜真面目くんだなぁ?」
男の質問にやっと我に返った小南は半狂乱状態で質問をする。
「だ、 だ、 だだ、 だ、 誰だ! 君は! こ、 この、 この部屋はゆ、 由緒ある、 わ、 我が一族の者、 お、 及び関係者以外立ち入り禁止だぞ!」
あまりにも滑稽な恫喝兼質問に男はさらにケタケタと笑う。
「…あんた、なかなか面白いやつだなぁ。 いいだろう! 教えてやるとも! よく考えたら前は名乗るタイミング逃して名乗れてなかったからね〜!」
男はふわふわと浮きながら小南の周りを3周ほどすると名乗り始めた。
「俺は、天界人のエルト・チャカーポ! 人にもしもの世界を見せたり与えたりなんやかんやして導くものなり!!」
小南はエルトの変な踊りと自己紹介に圧倒され押し黙ってしまった。
「……自己紹介に関してはこれからもまだまだ要練習だな。 まぁ、 つまりだ! あんたに別の世界へ行く機会を与えようと思ったわけよ」
「別の世界…? えっと…例えば、 本の中や、 昔の世界に行けるというのか?」
「そりゃもちろん。 あんたの想像する限りの世界が今目の前に広がってるというわけだよ!」
小南はエルトの言葉を聞き訳が分からず少し冷静になった。
「そんなわけなかろう! 私は今忙しいのだ! 酔っ払いに割く時間はない! どうにかして事態の収集に当たらなければ…!」
そう言ってまた机に向かい頭を抱えてかんがえだした。
そして、 何も思いつかないまま3日の時が流れてしまった。
「…なぁ、 いつまでうんうん言ってるつもりだよ〜。 そんな頭抱えてても問題は解決しないぜ〜。」
3日間の間ずっとつきまとっていたエルトに小南はついに痺れをきらしてしまう。
「うるっっっっさいなぁ! 飯の時も風呂の時も便所の時も寝る時まで付きまといよって! 迷惑千万にもほどがある! そこまで別の世界を見せたいのか? ああいいさ! 見てやるとも! どうせなら不祥事がなかった世界でも見せてもらおうか! 今の悩みがない世界だ! それが終わったらさっさと帰ってくれ…!」
息を切らしながら小南はエルトに詰め寄ったがエルトはさわやかに…いや、少し邪悪を秘めた笑顔を見せ応えた。
「…ああ、いいよ?今の悩みがない世界だね?見せてやるとも」
エルトが腕を捻ると小南の視界はぐにゃりと曲がり全体的にピンクがかかったような幻想的な景色が広がりそのまま気を失ってしまった。
「…ここは?」
目を覚ますと自分は起立しており見慣れた机に見慣れた天井がそこには広がっていた。しかしひとつだけ変わった点が…今はなくしてしまったものが…目の前の議長席に座る父の姿がそこにはあった。
救いの在処 とうま(お茶にごし) @icinici1po
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