救いの在処
とうま(お茶にごし)
第1話 正しきものにも罪はある
――ここは天界。 人智を超えた神や神に比類するほど人に崇められた者たちが集う楽園。
この場所では、如何に人に認められ崇められているかでそのものの価値を問われる。
「いやぁ…やはり三大宗教の教祖様!人々からの信仰心が違う!力が溢れておられますね!」
3人の天界人の元にワラワラと人が集まってくる。
「いやいや、全てはわが子らの愛ゆえ…救いを求める心ゆえです。だから私も望むのです。ただ、子らに救いあれ…と」
十字を切り男は信じるものに救いを望む
「その通りです。アッサラーム・アライクム…我らにとって信仰心はただの救い…力とは救いを与えるための道標にすぎません」
その男は力強い眼差しで世界を見下ろし、平安を望む
「そう、力とは平等への礎です。信仰心とは我らでさえ平等であるための基礎なのです」
その男は合掌し、平等を説く。
「いやー!さすが!三大宗教の教祖様ともなると言うことが違う!それほどの威厳も納得でございます!他の天界人とは器が違う!」
今日も天界では今も世界で多く信仰されている3人の天界人を囲ってセミナーの様なものが開かれていた。
天界には生まれつき神のものも居れば人から神になったものも多くいる。 人の身でありながら一定のラインを超えた慈悲と愛、そして信仰のあったものだ。
そして、ここにも一人の天界人――人間から天界人になった者が
「……あいつら、裏ではバチバチやり合ってたよな?」
大勢の天界人に囲まれ教えを広める教祖達。 それを遠目で見つめるなんとも天界人とは言えない酷い身なりの男が1人。 そして服装や出で立ちは完璧に天界人なのにどこか不穏な空気を漂わす女が1人
「そうですね、考えが違う人間ってのはどうしてもぶつかるものですから」
男は教祖達に皮肉紛いの言葉を投げかけ女はそれを仕方ないと擁護する
「…まぁ、それはそうなんだろうけどよ?今の世の中、ああいう連中のせいもあって考えが違う人間ってのはやっぱ生き辛いよなぁ」
「それはそうでございますね、自分やあなたもある意味そういうあぶれ者達の信仰心によって天界に来たようなものですから」
女はクスクスと笑いながら自身が天界に来る前――つまり人間だった頃の記憶を辿る。
彼女は前世では娼婦をやっていた。 それも巷では名の知れた悪女とまで言われるほどに。 彼女は貧乏で貧しくはあったが、人に見向きもされない男達の癒しであれるこの仕事を誇っていた。
たとえ、それが世間から認められない情愛であろうと…しかし、そこから彼女は客達からの抱えきれないほどの依存を受けてしまう。彼女はそれでも応えようとした。
彼女は身を粉にして客に応えた、腰は痛み体はボロボロ…もう1人では歩けぬほどになり最後はベッドで男達に囲まれて生涯を閉じた。
「自分の情愛は彼らを縛ってしまったのでしょうか…」
自分の優しさが人の人生を縛り付け未だに信仰を受け続ける自分の身に彼女は罪悪感を感じていたのだ。
「んー…言いたいことは分からなくもねぇよ?ただ、別にあんたは自分がその時出来ることをしてただけじゃねぇのか?気にすんなよ、今は信じてるやつらにお前の力で背を押してやればいい」
ケラケラと笑いながら男は応え、彼女はその無責任な様子からため息を着くが信仰者達を想いながら祈りを捧げる。
花の咲き乱れる美しい天界が彼女の祈りに応えたかのような優しいそよ風を招き揺れる木々や草花の美しさはまさに彼女こそ聖女だと訴えているかのようだった。
「……そういえばあなた、暫く前に下界に降りてませんでした?」
祈りを終え立ち上がると思い出したかのように女は尋ねる。
「ああ、行ったよ。 少し面白いやつがいたんでね」
天界人は基本天界での張り合いに忙しいためあまり下界に出向いたりはしない。だが、この男はあまり張り合いには興味がないようでよく下界を見下ろしているのだ。
「面白いやつ?何か特別なものを感じたのです?」
「いーや?ごく普通の男だよ。 ただ、下界に絶望して目的もなく彷徨ってたから興味が湧いたんだよ。」
この世界は確かに色んな悩みを持った人間がいる。その中で見るとその男の悩みなんてちっぽけなものだろう。しかし、天界人でありながら男は見逃さない。というよりは気が向いたと言った方が正しいのだろう。
「…また、興味本位ですね、たった1人を救うことに意味はあるのですか?それならもっと大勢を救う方が得策かと思うのですが」
「…ま、おまえにはまだ分からんかもしれねぇなぁ。 俺は救いたくてやってるんじゃねぇのよ」
――救いたくてやってない、彼女にとっては辛い言葉だ。 救うために生きた彼女にはそれがどれだけ尊いものかが分かるからだろう。女は涙を一雫流したがすぐ笑顔になり
「さすがです、あなたが今やろうとしてることを私に見守らせてくださいね」
彼女は男に希望を求めそう応えた。
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