あとがき、のようなもの。AIに自作小説を読ませたら色々と考えてしまった件について

普段あとがきなどは、個人的なメモ書きは除き、ほとんど書かない派閥の人間なのですが、今回読んでいただいた小説を書くにあたって、一つ、興味深い現象が発生したので書き残しておきます。


私がこの小説を書いたのは、2023/02/17の深夜です。現実逃避をしていたら、いつの間にか出来ていました。他の締め切りに追われているときほど、部屋の片付けが進むって本当ですね。とりあえずその日はそれまでにして、寝ました。


翌日、2023/02/18の朝。もう一度読み直し、投稿しようと思った所で、私はふと思いつきました。


この小説を、AIに読ませたら、どんな答えが返ってくるのだろう?


もしかして、添削してくれたりするんだろうか?


今回、私が書いたこの小説は、2500文字しかありません。最近、できるだけ短く纏めるのにハマっており、必要ない描写を抜き、シーンを削り、ミニ四駆の肉抜きのようにゴリゴリとヤスリをかけ削ってきました。この短さなら、chatGPTの入力パラメータにギリギリ入力できるラインです。


内部的には精々1000文字程度しか認識できないという疑惑もありますけれども、少なくともエラーにはならない分量です。


早速、コピーして貼り付けました。chatGPTを利用しています。利用に当たり、特別な設定などは特にしていません。なお、初期稿だと会社名は「ボーン社」という名前になっています。気に入った名前ではありませんでしたが、時間もないので、後で置換するつもりで適当に入れました。


すると、AIはこう応えました。


「この文章は、架空の未来社会を舞台にした物語です。主人公のラグは、美しい線を引くことが得意で、それが評価されることで、ボーン社の試験を受けることができます。ボーン社は、存在することだけで尊敬を集めている企業であり、人々はその存在に信頼を寄せています。試験を受けたラグと別の子の物語が展開されますが、ここではストーリーを簡単に紹介しました。」


悪くない。要約としては正しいと思います。舞台が遠い未来であること、は直接記述しているわけではありませんが、いくつかの要素からは推測できます。ちゃんとそこがわかるのは偉い。続けます。私は気になる質問をぶつけてみました。


私「この話を改善するためには、どのような点を改めるべきでしょうか?」


AI「この話を改善するためには、以下の点を改めると良いでしょう。


目的を明確にする:この話の目的は何でしょうか?読者に何を伝えたいのでしょうか?明確な目的を持つことで、内容が統一され、読み手に伝わりやすくなります。


論理的な構成にする:話の流れが分かりやすいように、論理的な構成を組み立てましょう。導入、本論、結論など、一般的な文章構成を参考にすると良いでしょう。


読み手に適した表現を使う:読み手の背景や知識レベルに合わせた表現を使うことで、読み手に伝わりやすくなります。専門用語はできるだけ避け、わかりやすい言葉を使いましょう。


具体例を挙げる:抽象的な話では、読者に伝わりにくい部分があります。具体的な例を挙げることで、読者にイメージしやすくなります。


校正をする:文章の誤字脱字、文法ミスなどを修正し、読み手にとって読みやすい文章に仕上げましょう。


これらのポイントに気をつけることで、話の質が向上し、読み手に伝わりやすくなるでしょう。」


うーむ、望むものは手に入りませんでした。これじゃない。内容には触れず、一般論だけを返している感じです。人間でもこういう微妙にずれた答えをする人はいますが、まあ、現状のAIはこのレベルということでしょう。


しかし、「この話の目的は何でしょうか?読者に何を伝えたいのでしょうか?」と言う部分が気になります。AIはそもそもそれを認識、いや認識しているように振る舞えるのでしょうか?聞いてみることにしました。


私「ありがとう、君はこの話を読んでどんなテーマだと思った?」


AI「この話にはいくつかのテーマが含まれているように感じますが、主要なテーマとしては「冒険」と「自己成長」が挙げられます。主人公が新しい場所に旅をして、多くの挑戦や困難に直面しながら成長していくというストーリーは、冒険としての要素が強く感じられます。同時に、主人公が過去の自分自身や状況から脱却し、新しい自分になっていくという部分は、自己成長というテーマにもつながっています。」


う、うん……なんだろう。すごく居心地の悪さを感じます。本音を言うと、私はそういうつもりで書いてはいませんでした。だから、私からしてみれば「そんな話だっけ?」と思う内容です。でも、例えば人間でもこんな感じにぼんやりとした回答をしてしまう人はいるわけで、文章が破綻しているわけでもありません。

個人的な思いですが、感想は自由だと思うんですよ。書いたものが、思った通りに伝わらないのはよくあることですし、それがあるから面白いと私は思っています。だから望む答えが返ってこなかったからと言って、腐ったり、怒ったりするのは変な話だと思うんですよね。


もしかしたら、私の書き方が悪くて、人間が読んでも何が言いたいのかわからない場合だってあるわけじゃないですか、だから、「AIのやつ、全然読み取れていないじゃん」と怒る気にもなれません。ただし、この受け答えを見る限り、現時点では、AIに小説を読ませて、感想を聞いたり、添削をしてもらうのは難しそうです。


もちろん、誤解しないでほしいのですが、chatGPTに意識があるわけではありません。まあ、意識の定義にもよりますが、現時点では大規模な学習データの集合体に過ぎません。「これはきっとこういう話なんだ」という意図を機械が理解する、もしくは理解したように振る舞うためには、もっと時間がかかるでしょうという話です。


その後、せっかくなのでAIと少しお話をして、作中に出てくる会社名のアイディアを出してもらいました。こういう単発系のネーミングだと、AIの速度はなかなかのものです。なかなかいい回答が上がってきたので、それをちょっと改変して小説の中に取り入れました。


その時、ふと、もう一つ思いついたことがありました。


「内容は理解できていないみたいだが、要約はなかなか良かったぞ。じゃあ、このAIにタイトルをつけてもらったらどうだろう?」


AIに「さっき読んでもらった小説けれど……」と話を振ると、「すみませんがログを持っていないのでもう一度入力してください」と言われました。

そこで、もう一度コピペして入力したんですが、


そこで異変がおきました。


一体何が起こったのか、わかりません。たまたまパラメータの一つが変わったのか、それとも、なにかしらの誤解をAIがしたのか、まあ、何が原因か解りませんが、プロンプトが突然英語に切り替わりました。そして、猛烈なスピードで以下の文章を書いたのです。


「This is a story about a boy named Rag, who is praised for his ability to draw straight and beautiful lines. One day, the village leader and a Bone company executive notice Rag's talent and encourage him to take a test to join the Bone company. The Bone company, known for just existing, is respected by the people for its mysterious power to supply all necessary items easily. Rag is excited about the prospect of joining the company and envisions a bright future.


At the Bone company, Rag sees the executives seated in a row and imagines himself joining them. Another child around Rag's age is also there, and the test is about to begin. The other child bows his head and draws a curved line on the paper. Suddenly, the executives disappear, and Rag finds himself in a different world. There, he sees a giant hand holding a pencil and realizes that he is inside the pencil.


Rag meets a wise old man, who tells him that the Bone company is evil and uses people's abilities for their own purposes. The old man urges Rag to draw a circle, which is a symbol of the unity of all things. Rag draws the circle, and the old man tells him that he has freed the trapped spirits of the people who had been used by the Bone company. Rag wakes up, and the executives congratulate him on passing the test.


However, Rag has a new perspective on life, and he realizes that he must use his talent for the greater good. He chooses to become an artist and draws circles to bring people together. His circles become famous, and people from all over the world come to see them. Rag's parents and friends are proud of him, and he is happy with his new life.


The story highlights the importance of using one's talents for the benefit of others and not being swayed by the lure of power and prestige. It also emphasizes the value of unity and the power of art to bring people together.」(原文ママ)


上記の文章をDeepLに入れて翻訳したのがこちら。


「まっすぐで美しい線を描くことができると褒められた少年ラグの物語。ある日、村長とボーン社の幹部がラグの才能に気づき、ボーン社に入るための試験を受けるように勧める。存在するだけで有名なボーン社は、必要なものを簡単に供給できる不思議な力を持ち、人々から尊敬を集めている。ラグは入社を心待ちにし、明るい未来を思い描く。


ボーン社で、ラグは重役たちが並んで座っているのを見て、自分がその中に入っていくことを想像する。もう一人、ラグと同じ年頃の子供もいて、試験が始まろうとしている。もう一人の子供は頭を下げ、紙に曲線を描いている。突然、幹部たちが消え、ラグは別世界にいることに気づく。そこで彼は、鉛筆を持つ巨大な手を見て、自分が鉛筆の中にいることに気づく。


ラグが出会った賢者の老人は、ボーン社が悪で、人々の能力を利用していることを告げる。老人はRagに、万物の統合の象徴である円を描くように促す。Ragが円を描くと、老人はBone社に利用された人々の閉じ込められた魂を解放したことを告げる。ラグが目を覚ますと、幹部たちがテストに合格したことを祝福してくれる。


しかし、ラグには新たな人生観が生まれ、自分の才能をより大きな利益のために使わなければならないことに気づく。そして、画家になることを選び、人と人をつなぐ円を描く。彼の描く円は有名になり、世界中から人々が集まってくるようになる。両親や友人たちはラグを誇りに思い、ラグも新しい生活に満足する。


この物語は、自分の才能を他人のために使うこと、権力や名声の魅力に振り回されないことの大切さを強調している。また、団結の大切さや、人々を結びつける芸術の力も強調されています。」


驚きました。AIは私の入力をもとにして、

全く知らないキャラクターが登場し、全く知らないテーマが出現しています。

そんなこと、頼んでいないのに。


何よりも私を驚かせたのが、その話の着眼点が面白かったことです。


私は「線」の話を書きました。しかしAIは「円」の話を書いてきたのです。しかもちゃんと筋が通っている。私のものとは全然違うテーマになっていますが、テーマを踏まえた起承転結だってしっかりしている。


一瞬、悔しさを覚えました。


気がついたら私は、一生懸命にAIのあらを探そうとしていました。まったく愚かな行為です。AIと争うなんて時間の無駄です。関数や大量のデータセット相手に争っても意味はありません。その時間でアニメを見ていたほうが満足度が高い。


ただ、そうとは言っても止められない。


心の中の自分が言います。

「AIがいいアイディアを出したって? いや、違う。AIは考えていない。大量のデータセットを元に、それっぽく振る舞っているだけさ。ここにあるのは世の中の大多数が考えるありがちな展開のパッチワークだ。

AIの出力したストーリーをしっかりと見てみろ。月並みで平凡じゃあないか。テーマだってどこかで聞いたようなものの真似にすぎない」


そうかもしれません。ただ、月並みで平凡か……は人によって意見が別れるところですし、「月並みで平凡で何が悪い? 大多数の平均を取れば自然とこういう話になるんだ。皆が求めているものがこれなんだ。お前は負け惜しみを言っているだけだ」と言われると反論しにくい。


また別の、自分がいいます。

「そんなこと気にするなよ。お前が書きたかったのは最初のアイディアじゃないか。それがお前のオリジナリティだ。だからお前はそれを書くべきなんだ。誰になんと言われようと」


悩みました。これは難しい疑問です。どうやら私は、今後、多くの人間がやがてぶつかっていく壁に衝突してしまったようです。つまり、こういうことです。


「AIが自分よりいいアイディアを出してきた時、僕らはどうすれば良いのだろう?」


残念ながらこの疑問に対して私は答えを持ち合わせていません。


元々、私がこの話を書こうと思ったのは、手書きの履歴書が話題になっていたからです。私は、手書きの履歴書なんてバカバカしいと思っています。例えば、綺麗な線をフリーハンドで書ける能力があったとして、それが会社で役に立つでしょうか?いいえ、綺麗な線を引きたければ、定規を使うべきなのです。むしろ仕事をする以上、定規を使うべきなのです。だから、文字が汚ければ、フォントを使うべきなんです。コンピュータというテクノロジーを使うべきなんです。むしろ仕事をする以上、それこそが求められる能力ではないのでしょうか。


定規というテクノロジーを否定して、人間の優位性を誇っても、手書きの素晴らしさを熱く語っても、結局それって、苦労したほうが偉い、自分の脳細胞と経験で勝負したほうが偉いという呪術的発想でしか無い。


アイディアだって、同じことです。一つのアイディアがあったとして、それがタンパク質とブドウ糖によって生み出されたものか、シリコンチップと電力で生み出されたものかなんて区別は本来馬鹿らしい。アイディアはアイディアだし、誰が作っても、機械が作っても、こうして画面に表示される文字列はだの情報でしかない。


AIという定規を手に入れた時、それで綺麗な線が引けるなら、我々はそれを受け入れるべきでしょうか?


私は受け入れるべきだろう。と思います。だからそういう話を書いた。でも、実際に定規を渡されると、私はそれを捨てて勝手にフリーハンドで好き勝手な線を書き出したくなる。やれやれ、自分で書いておきながら、なんとも厄介な存在ですね、人間ってやつは。


結局、私は初期のまま、一部の誤字を直すだけにとどめて、そのまま投稿することにしました。定規を使うも、使わないも、自分で決める。そう考えたからです。自分は好きな場所に綺麗な線を引きたいのであって、決められた場所に、線を引きたいわけじゃあないのです。


今日の私はそうやって自分を納得させました。でも、いつまでこの考えを持っているかはわかりません。いつの日か、私も手書き履歴書に拘る老人のように、人間が書いたテキストに拘り、世の中から取り残されていったりするのでしょうか?


それとも、趣味でスノーボードを滑る人がいるように、子供の頃のそり遊びのようにただ、滑ることが楽しくて、何度も何度も斜面を駆け上がっていったあの日のように、機械にアイディアで勝てない時代が来ても、こうしてキーボードを叩いて頭の中を外に出す行為は娯楽として残っていくのでしょうか。


どうなっていくのか、とても気になります。


最後に、一つ、AIに聞きそびれたことがありました。いきなり、予想外の答えが帰ってきたので混乱していましたが、そういえば私は最初、「タイトルを付けてもらう」ことを目的としてAIに入力したのでした。それを思い出して、私はプロンプトに入力しました。


「このお話にタイトルを付けるとしたら、何?」


AIは応えました。


「このお話のタイトルは「自然との共存」がふさわしいかもしれません。」


自然というのは、僕らのことでしょうかね。AI君。

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線が一本あったとさ 太刀川るい @R_tachigawa

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