第9話 飼い犬

 「で、キアちゃんSecretaryで働くことになったの?」


 マルキアがオフィスに帰ると、待ちきれないとばかりにソフィが抱きついた。


 「うん……でも、あの感じだと、完全に首輪つけられてる奴隷みたい。なんというか、あれ、脅迫だよ。」


 その声に疲れが滲み出る。


 AIのアルドルが事件発生からずっと状況を説明して(垂れ流して)いたから、マルキアが直接説明せずとも、状況は理解していた。


 「まあ、でも、足がかりにはなるんじゃないかな。」


 ソフィの言葉に不承不承頷いた。

 

 「じゃあ、マルキアはもう、目的達成ちゅーこと?ずるいなぁ。」


 うだうだと人がダメになるしかなくなってしまうクッションにだらーっと寝そべりながらそういった。


 「そうもいかないんだよ、志鶴しづる。アレはあの人の飼い犬になれっていう命令。つまり、ちゃんと社員ってわけじゃなくて、あの人の子飼いになるだけ。だからね。私含めここのみんなにある程度便宜が図れるように働きかけはするけど、それで目的達成ってことにはならないよ。」


 「便宜?賄賂でも渡そうってこと?」


 志鶴が尋ねると、マルキアは首を振って否定した。


 「私たちの資金じゃとてもじゃないけど、賄賂にならないよ。そんな端金、いらないと思うし。便宜っていうのは、そうだね、試験受ける機会みたいなのを得られたらと思う。ここ、結構厳しくてさ、ツテなしで入社するには色々面倒なしがらみが多い。確かに広く有能な人材を募っている実力主義の会社だけど、ツテとかなしで入る人は基本スカウトだから。」


 端末を操作しながら、楽な服装にチェンジしていく。


 「あれ、大我は?」


 ふとマルキアが尋ねると、ソフィが答えた。


 「공유ゴンユーの配信だって。時差があるから昼間っから。」


 (공유ゴンユー……この世界でのトップシェア動画プラットホーム、地球でいう●ouTube的なもの、まあ、色々……ホント色々機能が追加されているけど、この世界で最もシンプルで万人受けするタイプの動画サイト。)


 ソフィは心の中で言った。


 (誰に解説してんだろ?)


 気にしたら負けです。


 「そっか。他は、まあ、仕事に出てんのかな?私はシャワー浴びてくるけど、問題ないね?」


 マルキアは、脱衣所に移動すると、鍵をかけて、ある機械に端末を置いた。


 「分離開始。」


 そう言うと、衣服が粒子となって、箱に収まっていてき、機械の中で激しく粒子が動き始めた。


 繊維粒子を操作する端末を特定の機械に置くと、その粒子が集まり、さらに、機械の中でゴミや汗などと粒子を分離することができる。

 つまり、いつでも新品の服を着ることができるのである。


 水も洗剤も不要なので、とても環境に良く、特に酸素や水が限られた宇宙圏で重宝される。


 開発したのは(株)VRM。

 特許も取得済みでとても勢いのある素材の会社である。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

AIハンドラーの家出 泡沫 @Utakata_Stories

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ