第10話 衝撃の事実はCMの後で

「というわけで、あたしたちによるあたしたちのパーティーのための会議を始めます」

「了解です」

「はい」


 レイスの言っていた店にやってきた俺たちは、予想以上に広かった店内の端にある丸机を囲うように席に着いた。

 そして、水を運んできた店員さんに、チサトのおすすめの料理をいくつか注文し、今に至る。

 余談ではあるが、チサトが頼んだ料理の大半は料理名自体は分かるのだが、材料の名前は全く聞いたこのないものだった。


「まず、やっぱりあたしが気になるのは紘のことなんだよね」

「細井さんについては私も詳しい説明を聞きたいですね」

「レイスもまだだったの!?」

「ええ。今日会ったばかりですので、軽い話は聞きましたが、詳しいところはまだですね」

「え? いろいろツッコミたいところはあるんだけど、あたしらって全員今日初対面?」

「そうなりますね」

「えー! 初対面なのにもうこんなに仲良くなれるもんなんだね!」


 両手に華を夢見る男子諸君には心して聞いてもらいたい。

 確かに女の子に挟まれるというのは夢がある。

 右にも左にもいるのは、むさ苦しい男ではなく、かわいらしい女の子だ。

 そして、その女の子とヘラヘラニチャニチャしながら至福のひと時を楽しむ幻想。

 もちろんのことながら、本当に幻想であることをここに強く言っておきたい。

 両手にある華は華たちで楽しんでいるので、自分は会話に必要ないのである。

 むしろ邪魔。いわば障害物である。天の川と言ってもよいかもしれない。

 その場において、二人が会話を楽しむにあたり、互いの姿を見えないように隠す障害物でしかないのだ。

 その点今は丸テーブルに座っているので、俺は救われている方だろうが、会話にほとんど参加できていないのが現状だ。

 男子諸君にはこの現実を粛々とこの事実を――――


「さぁ紘! 君のことをあたしたちに教えてくれ!」

「わかった。ちょっと長くなるかもしれないけど、聞いてくれ」


 すまない、男子諸君よ。

 俺はここらへんで会話に参加させてもらおう。


「はっ! 俺は何の茶番をしてたんだ……?」

「細井さん? どうかしたのですか?」

「い、いや、なんでもない」


 頭の中で見知らぬ男たちを諭したり、マウントを取ってたりしてました。

 なんて言えるわけもなく、俺は大人しくレイスと会うまでの経緯を詳しく二人に説明した。

 突如としてパソコンの画面にレイスの姿が映し出されたことや、よくわからないおじいさんの声が聞こえてきて、おそらくそのじいさんによってここに飛ばされてきたこと。


「……これで全部言ったはずだ」

「なんというか、悲惨だね」

「私を助けに来たはずなのに、私に助けられてますし」


 同情の目で俺のことを見てくる、仲間であるはずの二人。


「いやだってさ? 小さい女の子がよくわかんないモンスターと戦うような世界だとは思わないじゃん?」

「誰が小さい女の子ですか、誰が」

「ごべんなふぁい。あやまふから頬をふねふぁないで」


 わざわざ机から身を乗り出してまでして頬をつねってきたレイスは、おとなしく席についてくれたものの、頬を小さく膨らませた不満顔のまま。


「まったく、デリカシーのない人ですね」

「別に変な意味で言ったわけじゃないんだけどなぁ」

「紘が悪いのはいいとしても、レイスは何歳なの?」

「私ですか? 私は16ですね」

「嘘っ! じゅ、じゅうろく!?」

「チサトさんまで!」


 チサトの急な裏切りによってレイスの悲痛な叫びが響く。

 もう口に出すのはやめておくが、レイスを見て16歳だと判断する人はほとんどいないだろうな。


「ところで、さ」


 そんな時、唐突にさっきとはまるで違う声でチサトが話を切り出す。


「あたしと会った時もニホンとやらについて訊いてきたけど、結局紘はニホンに帰りたいの? まだここに来て一日も過ごしてないのに」


 朗らかさの消えたチサト声は明らかに、俺に圧をかけていた。

 嘘や調子のいいことを適当に言わずに本当のことを言え、という圧を。


「別に……すぐに帰りたいとかそういうわけじゃない。ただ、何かあったときのためにも帰る方法を探しておきたいな、って思っただけだよ」


 実際のところ、これは本音である。

 せっかく来ることができた異世界だから、できれば滞在したいが、ここに骨を埋めるほどかと言われると、そうでもない。


「そう……良かった。慣れないモンスターにも会って、不良に絡まれて、たったの一日でこの世界や街を嫌いになられたら、悲しいからね」

「まぁ私がいる限りこの世界を嫌いになることはないでしょうね!」

「14歳はもう寝る時間だよ」

「16歳です!」


 チサトのいじりを訂正し、拗ねた顔でそっぽを向くレイスを見ていると、思わずぷっと吹き出してしまった。

 それにつられたのか、チサトも同じように笑いだす。

 一方でレイスはチサトにまで笑われたこともあり、机を二、三ほど叩いて、再度口を開く。


「もういいです! せっかく細井さんがお話を聞かせてくれたので、私は自分の欠点についてでも話しましょうかね」

「魔法の射程だろ?」

「敵に届かなくても、近くで撃てばいいんだよ」

「え!?」


 俺が知っているのは当然のことだが、チサトまで知っているという事実に対する驚きが顔にも声にも表れて隠せないレイス。


「な、な、な、なぜチサトさんまでそのことを知っているのですか……?」


 そう尋ねる声も震えているぐらいレイスから動揺がひしひしと伝わってくる。


「ほら、あたしが声をかけたのは公園でしょ?」

「……はい」

「魔法の練習? 遠目からじゃよくわからなかったんだけど、とりあえず魔法を撃ってるのは見えるわけよ」

「…………はい」

「そしたら少し離れただけのところにいる紘にすら届い――――」

「あぁぁぁぁぁぁぁぁ! そこまでで結構です!」


 すでに死体状態のレイスに構わず言葉の弾丸を確実に撃ち込んでいくチサトは、傍目から見ても、明らかに悪魔だった。

 その悪魔は何事もなかったかのように両手を組んで、新たな話題へと移っていく。


「ここまであたしはレイスを『これでもか』ってくらいいじってきたわけなんだけど」

「もう瀕死状態なんですが」

「まだライフが一残ってるからそれは大丈夫だとは思うんだけど、次はあたしの話をしたいの」

「チサトの話?」

「うん。何にもできない紘や射程が足りないレイスと同じようなものがあたしにもあるってこと」


 チサトは本当に何事もないかのように言ってのける。

 しかし、今まで魂が飛びかけていたレイスは急に生き返り、前のめりの体勢で聞く準備をすぐさま整えた。

 それはさすがに単純すぎるだろ。


「大丈夫です! 馬鹿になんてしません! しませんから、早く教えて下さい!」

「まぁ、それは明日簡単なクエストを受けるときのお楽しみってことにしておこうかな」

「ぬぁぁぁぁ!」

「落ち着けレイス!」


 暴れまわろうとするレイスを押さえつけるので精いっぱいの俺と、それを見て笑っているチサト。


 俺たち三人は次の日、互いの実力を知ることとなる。

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できない俺に、できない仲間が寄ってくる! 高坂あおい @kousakaao

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