第2話 声


「おい、そこの坊や、」


ぎょっした。

僕のばねは10センチメートル右方に飛び跳ねて途切れた。

後ろに人がいる!誰かが呼んでいる!


先の自分の狂乱ぶりを他人に見られた、

恥辱に顔を赤らめ、恐怖に顔を青ざめ、

まるで一房の葡萄のようになりながら、

おそるおそる後ろを振り向く。

???

人影は見当たらない。

幻聴か?

隔他的狂乱を極めたがゆえの幻聴か?

いや、聞こえたぞ、しかと。


「おい、そこのぼうや!」


一刹那に心臓がどくりと大唾を飲む。

今度は別(!)の場所から聞こえた。

また身体を震撼させながら、ゆっくりと振り向く。


誰もいない。

ただ永遠に広がる暗闇が、美しき無音の歌声を響かせているのみ。


「オイ、ソコノボウヤ、」


もはや、葡萄の極値を超えた。

僕は銀河のようになった。

その奇怪なる声を放って逃げるという選択肢はない、

ただただ気になって。


「オイ、ソコノボウヤ!」


その声は、目の前の茂みの奥深くからやってくるようだ。

ゆっくりとしゃがみこんだ。(最初、うっかり尻もちをついてしまった。)

アルコールランプを右手に掲げて、

草々を静かに左手で押し分けて。

前を見る。

黄色の真珠のような美しき目が、しかし、鋭く、こちらを見ていた。



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享狂の朝 鱈場蟹 蠢徊 @Urotsuki_mushi

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