第17話 Butterflies dance, butterflies explode――蝶は舞い、蝶は爆ぜる――

 闘技台の上では、奇妙としかいえない光景が繰り広げられていた。なにせお互いの攻撃が一切当たらず、空を切る音だけが響いている状況が既に10分以上は続いているのである。


 ただ、避け方はクーガーはオーバーアクションで避けるのに対してマキは紙一重で避けて魅せる。


「ヒュー。いいじゃないかYO!」


 派手なモーションによる多面的な攻撃。ボクシング主体といっても、クーガーは元々、ストリートファイターであり、単純に、ボクシングのリングで戦える技術だけを覚えたタイプであり、その引き出しの多さは純粋なボクサーとはわけが違う。


 だが、マキにとってはそれは些末なことに過ぎず、退屈に当たり前のように躱しながら、徐々に詰めていき、その拳が、蹴りが確実にクーガーに当たるようになっていった。


「最初は曲芸みたいで面白かったですが、この程度ですか……底も見えてしまいました。とっても残念です」

「舐めるなYO」


 繰り出されたアッパーカットがマキの腹部へと当たった。当たったはずなのに手ごたえが一切ない。まるでティッシュペーパーでも殴ったかのような感触が拳に伝わる。


「この技は『浮霞うきがすみ』という古武術の技なんです。重さを消すなんて面白いでしょ?」


 そう言いながら、クーガーの拳へとつま先で立ってみせる。


「おいおい、どんなトリックだYO。重さがないなんてSA」


 ハイキックを放つも風に舞う木の葉の様にふわふわりとその身が舞う。


「けど、甘いZE」


 影が覆いつくすようにマキへと襲い掛かってくる。


「これまた無粋な真似をしますね」


 襲い掛かってく来たのは先ほどまでクーガーを応援していたチアリーダーたち。


「おいおい、勘違いするなYO? オレのクラスはテイマー調教師。能力を使っても問題はないだRO?」


 ニヤニヤと笑いながらマキを見つめる。しかし、マキは心底、残念そうにため息をつく。


「はぁ……興が削がれました。下らなくて退屈すぎる手段ですね」


 鋭い爪を伸ばしてきた豹のような獣人の少女の手を掴むと勢いを利用して地面へと投げる反動を利用して高く高く跳びあがる。


「『音を置き去りにして貫くモノよ。貫けगोली भृङ्गःバレットビートル』」

 

 指鉄砲の先に展開された魔法陣からされたカブト虫のような甲虫が落下した豹のような獣人の少女を貫く、さらに追い打ちへと三発の甲虫が召喚し絶命させる。


「よくもぉぉぉぉお」


 兎のような獣人の少女はナイフで背後から襲い掛かるが……


「『毒血を湛えし、百の足。這いずれ這いずれ。विषकवचशतपदः毒鎧百足』」


 百足がマキの体を守るようにとぐろを巻くとその節へとナイフが刺さり毒血が飛び散り兎の獣人の少女が毒に侵されのたうち回る。


「空を泳ぐ雄大なるもの、その身を広く広く、風の道をいくもの。我が声を聴き門を開いて来たれ来たれ『आकाश मन्ता रश्मिスカイマンタ』」


 巨大なマンタが現れると優雅に空を泳ぎ始める。その尾をマキは掴む。


「それでは失礼させてもらいますね。今度はもう少し遊びましょう。『舞えよ舞えよ焔の子、刹那を赤く輝く儚きもの、瞬きの子、火の華は咲き乱れ、火の香が立ち上る。火の子よ火の子よ。舞えよ舞えよ炎の舞を!अग्नि भृङ्गःファイアバタフライ


 置き土産にと夥しい数の赤い蝶を召喚してあたりを一面を覆いつくしていき、その蝶を見た瞬間、獣人たちは慌てて蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う。


「こんな蝶がなんだってんだYO」


 無造作にクーガーは蝶を叩き落とす。


「い、いけません。ご主人!?」


 サイのような角を持つ大柄な女性が慌てる。


「Ann? なんだ?」


 叩き落とされた蝶は爆発し、更に舞い散った鱗粉が連鎖爆発を起こし爆炎が広がり続ける。


「あらあら、派手な花火ですね。たまやー、かぎやーと言うべきでしょうか? お見送りに花火を見せてくださるとは感無量です。それでは次の国にいきましょう。確か軍事国家のコソヴァールという国でしたね」


 本当に興味を失ったのか、爆発が続く闘技台に背を向け優雅に次の地へと飛び立つのであった。



 爆発が続くこと5分。爆炎が晴れるとそこは瓦礫と、破壊の跡だけがのこり闘技台の上には人影が一つだけあった。


「Fuuu、派手な爆発じゃねぇかYO」


 そういってクーガーは丸焦げになった死骸を投げ捨てる。


「HA、近くに丁度いい盾があってよかったZE」


 あたりを見回し、破壊の痕跡をみて口角を歪める。


「あのジャパニーズ、マキとか言ってたNA? 面白れぇ女だ。次はぶっ潰す! それじゃ使える駒を調教しねぇといけねぇよNA」


 そういってパチンと指を鳴らすと、大蛇が這い寄ってくる。


「なんか強そうなのが欲しいZE。なぁ、グラトニー」


 それに応える様に、大蛇が丸のみにするとそのまま森へと這いずっていくのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

「私、異世界を破壊します」~破壊神と一緒にできるかな~ @785

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ