第16話 survival of the fittest――強者必尊――
獣人の国『ストレグア』――
その国の住人の多くは人と獣がまじりあった姿であり、限りなく獣に近い種族から人と大差ない姿の種族が部族単位で済んでいる国である。一見まとまりがなさそうではあり、それぞれの部族による掟以外は法らしい法は存在しない。ただし、絶対の不文律だけは存在する
『強者必尊』――
弱肉強食。強者は常に正しく、全てが尊く、許される。その法の下に国家は運営される。もちろん細かい仕組みはあるが、この国では例え何が起ころうとも被害者が、弱さが悪なのである。
故にこの国の裁判は決闘裁判。裁判所という名の闘技台の上での一対一での決闘。一対一なら後は自由。反則も存在しない。それがこの国の裁判であり、国民の娯楽でもある。
その闘技台の上にて人族の男がふてぶてしく、対戦相手の青年を見下ろしていた。
「HEY。オレちゃん様に挑むとかYO。てめぇは弱すぎてナッシングすぎるだろHAHAHA」
男の名は、クーガー・G・エイブラム。アメリカはニューヨークのブルックリンの貧民街育ちの黒人である。
「ぐっ、彼女、アンナを返せ!!! 【ゾアントロビー】」
青年の姿が狼男へと変わると、爪を立てて腕を大きく振るう。速度はかなりのものではある。
「ヒュ~早い早いNE。け・ど、直線的すぎだZE」
その攻撃を上体を地面と水平になるほど反らし避けると、その態勢のまま顎をカチ上げ、そのまま上体を起こしてストレートパンチを叩き込む。
「ガフッ」
頭部が吹き飛ばされるが、生命力とタフネスが特徴の狼男は直ぐに態勢を立て直すと少し距離をとる。
「く、くそ」
「HEY! HEY! どうしたどうした。ワーウルフ!」
獰猛な笑みを浮かべると軽快なフットワークで距離を詰めると風を切るような音を立てながら軽く拳を乱打する。この場に、もし、ボクシングに詳しい人物がいれば解っただろうが、クーガーが放ったのはジャブ。それもフリッカージャブと呼ばれる鞭のように変則的な軌道を描くジャブの乱打である。
身体に馴染んだ戦闘スタイル。それもそのはず、クーガーは元ボクシングミドル級世界チャンピオンでありながら対戦相手への故意に殺害を繰り返しボクシング界を追放され、裏社会の地下闘技場のファイターとなった男。それがクーガー・“ジェノサイド”・エイブラムである。その戦闘スタイルは天性の身体能力と相手の弱点に対する野生の勘。そして、なによりも天才的なセンスにより無敗の鬼才。性格は獰猛であり短絡的で好色。とくに他人の女を奪い取ることが好きで好きでたまらず、その女を守ろうとするものを蹂躙することが最大の楽しみであり、現世でもマフィアのボスから愛人を寝取り、その組織を壊滅させたことすらある化け物である。
つまるところ、この闘技台の上で繰り広げられている蹂躙劇においてクーガーは一切のスキル的な恩恵をほとんど受けていない。もちろんレベルなとの身体的な強化受けてはいるが、少なくとも使用しているのは身に着けていた戦闘技術。何気ないストレートパンチに見えて、その実、コークスクリューブローなどの高等技術を気兼ねなく自然と繰り出され圧倒していく。さらに最悪ともいえるのがその戦闘センスである。なにせ、練習をして身に着けたのでなく、ただ見ただけで覚えたテクニックを我流でアレンジを加える才能によって、投げ技、関節技、キックといった総合格闘技なども取り入れたその戦闘スタイルに隙はなく、タフさと再生力が取り柄の狼男はもはやただのサンドバッグへとなり果てて、折れた骨は直ぐに再生されるが更に折られ歪に再生されていきもはや不気味なオブジェへとなり果て、口からは不気味な嗚咽だけを漏らしていた。
「あぁ、ところでYO。お前が取り戻そうとしたのどの子だYO?」
そういって手を広げ自分の背後で応援をするチアリーダー姿の美人・美少女の一団を見せつける。
「FUUU。もう意識はないNE。ならKILLしてやるYO」
嘲笑いながら、トドメと言わんばかりに頭部にラッシュを畳み込みやがて頭部がグチャグチャに潰れ仰向けへと倒れこと切れた。
その死体を踏みつけながらクーガーは高らかに宣言する。
「HEY! 文句ある奴はいるかぁぁぁい? いるならリングに上がりNA!」
そのパフォーマンスに会場は沸く。強者は尊重されるこの国では相手を蹂躙することステータスなのである。
「文句はありませんが、是非手合わせをお願いしたいですね」
そんな闘技場の中心にいつの間にかフードつきのマントを身に纏った小柄な人物がたっていた。
「それならYO! 素顔をみせNA!」
放たれたするどいジャブがフードを貫くがそこに実態はなく。背中にそっと何かが当てられる感触が伝わった瞬間。クーガーは前へと全力で跳んだ。
「Shit! なにする気だてめぇ」
振り返ったクーガーの目に映ったのは艶やかな着物姿の美少女がたっていた。
「勘のよいかたですね。あと0.1秒ありましたら寸勁が決まりましたのに。残念残念」
コロコロと笑いながら、仕切り直しと言わんばかりに、構えをとる花月マキであった。
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