かわいいものたち

ささ

第1話 カブトムシ、カブオ

ある秋の日おばあちゃんが

「もらったからあげる」と言ってカブトムシをくれました。

うちの弟君の情操教育の為か色んなものを持ってこようとするおばあちゃん。

金魚に亀、鈴虫と誰かからもらうと持ってきます。しかし弟君は全く関心なし。

今回も興味ゼロです。


まあ水槽の中には土が入ってるだけでまだ卵だから…。

何がいるのか全然分かりません。


カブトムシの水槽は誰にも興味を持たれずに玄関にひっそりと存在してました。

春になり夏になり…。モソモソとカブトムシが出てきました。

息子は引き続きカブトムシに全く関心なしでした。安定の無関心。

何度か「ゼリーを変えてあげて」とお願いしましたが一度もやってくれませんでした。水槽を覗く事もありません。

悲しい。

しかし生き物は生かしてやらないと…と私だけ熱心にゼリーを変えてやりました。

まあカブトムシって手がかからないですよね。

やることないですね。


お盆が過ぎた頃5匹いたカブトムシが1匹、また1匹とお亡くなりになっていきました。

「カブトムシのお墓を作るんだけど一緒にやってくれない?」と息子に頼んでみましたが

「ううん、いい」とすげなく断られ1人でお墓を作りました。寂しい。


誰もいなくなった水槽の土をひっくり返したら…あらあら。

卵が出てきました。


仕方ない、黙って土を戻し玄関の隅に戻しました。

たまに霧吹きで水をやり言われた通りに腐葉土を入れ直してやりました。


本当は糞を外して腐葉土を足してやるといいと聞いたのですがめんどくさかったのでゴム手袋で5センチ分くらいをおっかなびっくりで土を取り、買ってきた腐葉土を乗せてました。


幼虫達は姿も見せず私も特に見たくもなく…。


ある日水槽に幼虫がこちらを向いて縦にピタリとくっついてました。白いイモムシ…左右に茶色の点々が見えます。

丸見えの姿で小さい手か足で餌を持ちもぐもぐと食べてます。もいーんとした存在感で丸々とした白い体に細くて小さな手足。警戒心ゼロで餌を食べながら手と足をさわさわと動かし続けてます。

思わず凝視しました。

ずっと一生懸命もぐもぐ食べてます。しばらくしてからまた見に行くと一心不乱にもぐもぐしてました。

機械的に土を替えていたけどこうやってずっと食べて大きくなってたんだなあ…なんだかとても可愛く思えてきました。

よし名前をつけよう。

お前はカブオかカブヨだ!


カブオかカブヨ(どちらかわからず笑)は2日ほど水槽にくっついてましたがそのうち移動していなくなりました。すぐに水槽は盛大に土が交換されました。

大きくなれよ!


見た時点で結構大きかったですが大盤振る舞いです。


夏になりカブトムシ達が出てきました。

「出てきたよ!」息子に報告すると息子はゲーム機から目を離さず「ふーん」と言いました。

悲しい。

カブオかカブヨはいるかな…水槽を覗き込むと…いたいた!ひときわ大きな雄のカブトムシが切り株に乗ろうとしていました。カブオ!出てこれたんだね!

しかしうん?と思う動きが。


彼が話せたら「どっこいしょ」と言ったに違いない、切り株に乗りたくて一生懸命に足を上げているのですが上手く登れないのです。

何回かチャレンジして諦めたカブオ。

身体の割に足が短いのか?どんくさいのか?それとも両方?観察してみると他のカブトムシに比べると1.2倍は大きい身体で立派なのですが動きがのろく足が短め?なのです。


とりあえずゼリーを置いてやりました。カブオの分は下に置こう。

他のカブトムシは切り株にセットされてるゼリーを食べてます。カブオは地面のゼリーを独り占めしてます。

まあ元気そうでよかった。


その後沢山出てきて総勢13匹!


近所に配り同級生に配り実家にも配り…でなんとか2組までに減らせました。


もらってくれた同級生の子に聞いたら「カブトムシはもらうものか捕まえるもの」だそうで…

うちは田舎なのでスイカの食べ残りを玄関に置いておくと朝にカブトムシがついているんだそうで…知らなかったです。いや天塩にかけて育てたうちのカブトムシは可愛い!流れのカブトムシとは違う!なんて思ってました。

とんだ親バカです。


2組4匹カップルならこの水槽の大きさで最適だな、と思っていたらまたしても問題が。

カブオと雄1匹と雌2匹。1組すぐにカップルになりましたがカブオは雌に振られたらしく夜になるとカップルが仲良くしている横で1匹で「キューキュー…」と鳴いてました。


「お前振られちゃったの?」つい聞いちゃいました。カブオはそうなんです!と言わんばかりにキューキューと鳴いて訴えてきます。

ずっと鳴いてるカブオがあまりに不憫で…お母さんがなんとかしてやる!と使命感に燃えた私は次の日用事の前にホームセンターに行きました。

目的はカブオのお嫁さん探し!です。


ペット売り場に行きその場にいたお兄ちゃんに

「カブトムシの雌を1匹下さい」と言うと

「好きなの取って下さい」と大きな虫かごを指差されました。

「掴めないので取って下さい」

と言うと驚かれました。そうなんです、今まで掴んだことがないんです。


お兄ちゃんはどれどれと虫かごを覗き網にくっ付いてるカブトムシを引っ張りました。しかしぴったりくっついていてはがれません。

「あの、隣のでいいです」と言うとスキルを疑われたと思ったのかお兄ちゃんは何故かムキになり

「いや、これがいいと思います」と言いながらカブトムシをひどく引っ張ってしばらく無言で格闘した後、網からはがしました。


足がもげなくて良かったと思いつつ、こんなに頑固そうなメスで大丈夫かな?と不安になりましたが小さなケーキの箱のようなケースに入れてもらい急いで次の用事へ。


とにかくカブオのヨメを手に入れました。


メインは皮膚科の診察です。仕事がこれ以上抜けれなくて予約から診察までの待ち時間にホームセンターに行ったのでした。

私はカサカサと音のする箱を持ち、病院に入りました。

炎天下の車の中では煮えてしまうと考えましてバッグの中にそっと入れました。


待合室は騒がしく目立たなかった箱も診察が始まり静かな部屋の中では「カサカサ、カサカサ」と思った以上に目立ちます。


先生も看護師さんも不審そうに私のバックをチラ見してます。

「調子はどうですか?」「カサカサ」

「大分いいです」「カサカサガサガサ」

「じゃこのまま同じ薬でいきますね」

「カサカサ」

「はい……ありがとうございます」

変な汗が出ます。

結局最後まで私は黙ってました。


カブトムシを持ってきたなんて変な患者ですし…もうなんて言い訳したらいいのかわかんなかったです。

バッグから変な音がしてる時点で変な患者ですけどね。


ともかく無事に帰り急いで水槽にヨメを入れようとしましたが今度は箱にへばりついて出てきません。

私はため息をついて箱を破くと水槽に入る大きさにして突っ込んで仕事に戻りました。

しかし!帰ってきた時は普通にしていたヨメは夜になるとさっさと土に潜って寝てしまいました。

またまた独りぼっちでキューキュー鳴くカブオ。苦労して買ってきたのにとがっかりな私。


相性が合わなかったのかカブオが近づくと逃げるヨメ。そんな事を繰り返して3日後。ヨメが急逝しました。


ゼリーを変えようと水槽を覗くとヨメが八つ墓村状態で足を上に向けて土に刺さった状態で息絶えてました。なんでこうなったのかさっぱりわかりませんがカブオはまた独りぼっちになってしまいました。

仕方ない、また塾の送迎の合間をぬってホームセンターへ向かいました。


今度はお兄ちゃんに大人しくゼリーを食べてるカブトムシを指さして「これを下さい」とお願いしました。


大人しいメスはゴケ(後家)ちゃんと名づけました。

穏やかな性格らしくカブオと仲良くしてくれてその日からカブオの夜鳴きはおさまりました。


カブトムシにも性格があり相性もあるんですね。


時間はあっという間に経ちお盆が過ぎ1匹ずつ亡くなっていき…とうとうカブオも息をひきとりました。

生きてる間はほとんど触らなかったカブオを手のひらのティッシュの上に乗せて包みました。思ったより軽い身体でした。

今年の夏はカブオのおかげで賑やかだったよ。ありがとうね。

そう声かけして土の中に埋めました。


その後は「水槽が臭い」とクレームが夫からつき水槽は外に出されてしまいました。

あっという間にアリの餌食になり家のカブトムシは絶滅しました。


もうカブトムシを飼うことはないと思いますがホームセンターでカブトムシを見るとカブオを思い出します。

懐かしい思い出です。











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