第69話 血が手を引く
「それなら高い所からもう一回落ちるしかないじゃないの?」
「マジで?」
確かにそれを試すのが一番楽だとは思うが、今の俺は再生する力が落ちてる状態だ。もし前と同じように高い場所から落ちてもちゃんと再生するかどうかわからない。
「う~ん、それなら……あっ!」
「何?」
河川敷からお互いの家に帰るため住宅街をゆっくりと歩いていく。全力で走ったせいで美香の歩くスピードはかなり遅くなっている。
「小学校の頃のアルバムとか無いの?卒業アルバムみたいな」
「!?……それだ!」
「……びっくりした~」
普段出さないような音量で声を上げてしまったため、ちょっと喉がひりつく。しかし、今のは名案だ。小学校の頃の写真ならいくつか残っているはずだ。
「ありがとう。帰ったら探してみる」
「まったく」
「じゃあな」
「じゃあね」
別れ際に見た彼女の顔は呆れたような、やれやれと言わんばかりの表情だった。ただ、口元には確かに昔の笑顔が戻っていた。
「誰だ?」
部屋の本棚を漁っていると小学校の頃の卒業アルバムが出て来た。小学校に入学した時の写真から6年生の時のクラスの集合写真までいろいろな写真があった。
「クッソ……誰が誰だか分かんねぇ」
写真を見れば思い出すと思ったが、写真を見ても誰が誰だか分からない。写真を見るとその時の風景は思い出せるがこんな人居たのかという疑問が尽きない。
「女子を重点的に……」
小学校行事の思い出というページが終わり、1年生から成長の軌跡というページが始まる。そしてふとした瞬間、手が止まる。
「あれ?」
あるページを境に1人生徒がいなくなっている。小学校の頃、俺たちのクラスは2つあった。なので基本的に毎年、ほとんど同じ面子になってしまう。クラスの集合写真を1年ずつ見ている時、その違和感に気付いた。
「この女の子……」
ボサボサとしているが長い黒髪、その髪の間からのぞかせているわずかに紅い目、何より白い肌。
そのことに気付いた瞬間、今まで微かだった頭痛が一気に脳を揺らした。
「……くっ……まさか」
俺からしたら絶対に当たってほしくない予想が当たってしまった感じがする。仮に俺と月が小学校の頃に出会っていて、その時に月が俺の事を好きになった。
「それじゃ……」
彼女の吸血衝動の原因が俺ということになる。だが、確信が欲しい。確かに彼女が俺の過去に存在していたという証拠が。
「やるしかない……」
心の中で覚悟を決める。
その日、俺は人生二度目の命綱なしのバンジージャンプを決行した。
「それは……真のせいじゃないでしょ?」
「だけど……吸血を止めない限り、病気は進行していくんだ。まだ、初期症状だけで済んでいるけど、そのうち取り返しのつかないことになるかもしれないんだ」
「だって……」
そんなことは分かっている。病院で病気を伝えられた時から、原因は多分……私なんだって。それでも抑えきれなかった。何度も我慢した。なるべく吸う量を制限しようとして、吸う場所を首ではなく腕に変えたりもした。でも……
「彼を……忘れて、そうすれば……病気は治るの?」
「少なくともこれ以上は進行しないはずだ。そこから治療法を見つけて行けばいい」
「……」
忘れられるはずがない。小学校の時からずっと彼を思って生きてきた。彼を思うほど、それは強くなる。
「ちょっと……考える」
「どこに行くんだ?」
「外」
そういってほとんど駆け出すように玄関のドアを開いて、ほとんど暗くなってきている空の下に出た。
「はぁ……」
短パンに袖が肘まであるTシャツ。割とラフな格好で出てきてしまった。どうせ散歩するなら財布くらい持ってくるべきだった。
ふと真の家の方を見る。明かりがついている。一度は真と話すことを考えたが、会っても何を話せばいいか分からない。
「ん?」
何故か心臓の辺りがムズムズする。不整脈などではない。今まで感じたことが無い感覚だが、あまり良いものではない気がする。
「こっち?」
一歩歩くたびに心臓がドクッと脈打つ。心臓に連れられるまま、歩みを進める。住宅街を抜けて、大きな橋を渡ると駅の正面の大通りに出る。駅の大通りを素通りしていく。
「お姉さん……居酒屋どうですか?」
「……」
「あ、あの……」
知らない男が話しかけて来るが、気にならない。心臓がより一層鼓動する方に向かって走り出す。
「あ……」
「はぁ……はぁ」
息が上がって来る。
スーツを着た男、子供と一緒に歩く女、横並びに歩く高校生、自転車をこぐ高齢男性。
街灯の明かり、ビルの明かり、車のハイビーム、 いろんな光に照らされながら走る。
「はぁ……はぁ……ここが……」
まるで自分の血に引き寄せられるように、私がたどり着いたのは2階と3階以外空いている雑居ビルの屋上だった。
スチール色の扉を開くと広い空間が広がっている。当然、広い空間の縁には柵がある。しかし、その柵の向こう側に誰かいるのが見える。
「真」
「あれ……月」
振り向いた彼の顔には驚いたような表情は無かった。それどころかわずかに笑っていた。そんな彼のもとに歩み寄っていく。
「なんか来る気がしたんだ」
「私も……」
彼は顔を正面に戻した。彼はビルの裏側にある月をまっすぐ見上げていた。今日は満月のようで煌々と光り輝いている。
「なぁ……月」
「何?」
「思い出したよ。俺は……君が
死ねない俺を殺したい彼女 広井 海 @ponponde7110
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