多分、感受性が強い人は驚いてしまうでしょう。
僕なりに小説を楽しむ方法を大雑把に言うと、理性で読解して深く読み込むものと、感覚で味わい記憶と感情にリンクさせるもの、この二通りだと考えます。これは明らかに後者であり、または違う物と言えます。
なぜ違うかと言えば、すでに感覚すら越えた物を表現されています。
僕はこれを読んだ瞬間、胸が苦しくなり、息が詰まりました。書かれた内容ではなくダイレクトに何かが訴えかけて来たのです。
こういう体験は小説を読むと稀に起こります。
語弊を恐れずわかりやすく書くなら、あなたの恋人の名前や、又はお母さんでもおじいちゃんでも誰でもいいから、最愛の人を呼んでみて下さい。その時、あなたにしか持ち得ない特別な感情を越えた「何か」を感じるでしょう?
その何かをこの短編は、短い文章の中に織り込んで書かれています。
小説の枠を少し超えた体験、弾む様な息遣い、透明感のある文体、切迫した何か。
普通にオチがつけられ、僕は現実世界に戻って来ました。鮮やかに胸の鼓動を弾ませたままに……。