第372話 ティターニアの想い

「……それで? 結局、お前はなんで俺たちの前に姿を見せたんだ?」


 話を戻して俺はティターニアに問う。

 彼女は少しだけ考える素振りを見せると、


「気になったの」


 小さく呟いた。


「気になった?」

「あなたは人間で勇者なのに、どうしてそこまであの子に——シルフィーにこだわるのか。他にも妖精はいるじゃない。ウンディーネだってそう。あなたが望むなら私の力でウンディーネを精霊にしてもいい」

「精霊だったら誰でもいいわけじゃない。俺はシルフィーがいいんだ」

「頑固ね」

「お前もな。そこで眠ってる勇者だって、お前のことが大好きだったはずだ。もし同じ状況になったら、俺と同じ答えを出すんだろ?」


 何となくそんな予感がした。

 ティターニアが勇者のことを大切に想っていたのは伝わってくる。

 逆もまた然りだ。

 勇者だってティターニアが誰よりも大切にしていたはず。


「あなたに何が分かるのかしら……と言いたいところだけど、正解よ。あのお馬鹿さんは、最後まで私を見捨てなかった。人間と恋愛して結婚して子供を産んでいれば、もっと幸せになれたでしょうに」


 つー、とティターニアの瞳から涙が零れる。


「なるほど、それが理由か」


 ようやく分かった気がする。


「お前は俺とシルフィーが傷つかないようにしたんだ。人間には人間の人生があり、妖精や精霊には妖精や精霊の時間があると」

「……ええ、そうよ。あなたは勇者、魔王を倒すために生まれた存在。再び勇者が生まれたということは、この世界に災いが起きようとしている。もしかすると封印した魔王が復活するかもしれない。かつて散り散りになった魔族が怪しい動きを見せているわ。それなのに精霊と仲良しこよしじゃ困るのよ」

「むしろ精霊とは仲良くしたほうがいいとは思うけどな」


 精霊がいなくなったら俺は弱体化する。

 それでは本末転倒だ。


「ダメね。あなたは妖精や精霊を道具のように使わなきゃいけない。そうしてでも強さを求めるの。じゃなきゃ、魔王は倒せない」

「それほどの強敵だったのか」

「当時最強と言われていた勇者が手も足も出ないくらいにはね」

「だから情は捨てろと」

「いざとなった時、あなたは選択できる? シルフィーを犠牲にするという選択が」

「……無理だな」


 即答する。

 何度考えても彼女を犠牲にした上で成り立つ平和など俺は認められないと思う。


「だからあなたはシルフィーと別れるべきなの。あの子も、どうせなら平穏に過ごしたほうがいいわ。戦いとは無縁の幸せを噛み締めるべきなの。今まで頑張った分ね」

「…………」


 確かにシルフィーはこれまで何度も頑張ってくれた。

 一緒にレベリングしたり、竜を討伐しに行ったり、魔族を倒したり、精霊になったり……。


 俺はいつだってシルフィーを頼った。

 彼女がいたからここまで来れた。

 シルフィーの幸せを願うなら、ティターニアの言う通り解放してあげるべきだろう。


 だが、できない。

 俺はもう、シルフィーがいないと心の底から楽しめない。


「お前の言いたいことは充分に理解した。確かに俺は甘い。魔王に勝てないかもしれない。冷酷さなんて無い。けど……やっぱりシルフィーと一緒にいたいんだ」


 例えお前がなんて言おうと、俺はシルフィーやウンディーネと共に魔王を倒す。

 最初から最強を目指していたんだ、甘かろうが厳しかろうが関係ない。

 それでも俺は強くなる。それだけのこと。


「そう……本当に、あなた達は似た者同士ね。お互いに、そして私たちに……」


 ティターニアが小さく呟く。

 その言葉の意味はよく分からないが、ティターニアは気にせず指をパチンッと鳴らした。


 すると、上空から何かが降ってくる。

 それは声を発した。


「へ、ヘルメスうううううう⁉」

「シルフィー⁉」


 俺がずっと探し求めていたシルフィーだ。

 彼女が自由落下しながら叫ぶ。


「た……助けてえええええええ‼」

「えぇ……?」


 なぜ? と俺は思う。


 彼女は精霊だ。

 精霊とは魔力によって肉体が構成された存在。

 例え高所から落下しようとダメージは一切受けない。

 そもそもお前風の精霊だろ、それくらい自分でなんとかしろよ。


 そう思った。

 しかし、


「い、今! 力が使えないのおおおおおおお‼」

「マジかよ」


 そういうことか。

 俺は両手を構えてシルフィーを受け止める——ような真似はせず、普通にシルフィーが目の前に落下する。

 凄まじい衝撃音を響かせた。


 おぉ……精霊って力が使えない状態で落下するとこうなるのか。

 俺は素直に感心した。

 あ、シルフィーが起き上がった。


「ちょっと⁉ なんで受け止めてくれなかったのよ!」

「いや……お前精霊じゃん。力が無くてもダメージないだろ」

「感触は気持ち悪いのよ!」

「そんなこと言われてもな。文句はそこにいるティターニアに言え」


 俺がティターニアを指差すと、シルフィーは即座に立ち上がって彼女を睨んだ。


「ッ。どうして私をここに連れてきたの? 何が目的なのかしら」


 彼女は俺とシルフィー、ウンディーネ三人の視線をもらって返事を返す。

 どこか呆れたように。




「もう……やめます」




——————————

【あとがき】

大変申し訳ありません。書籍作業などが立て込んでまして、今後更新が不定期になります。

おそらく週1かな?と考えていますが、それすら難しい可能性もあるので予めご了承ください。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【Web版】モブだけど最強を目指します!~ゲーム世界に転生した俺は自由に強さを追い求める~ 反面教師@6シリーズ書籍化予定! @hanmenkyousi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ