ちょこらとちょこらば

292ki

ちょこらとちょこらば

チョコの地獄であった。

板チョコ、トリュフ、ポッキー、フォンダンショコラ、アポロ、チロル、粒チョコ、フルーツチョコレートエトセトラショコラトル。

そこに1人佇む私である。

ダクダクと未だ流れる鼻血(死因)を服の袖でぐしぐしと拭い、私は歩き出す。


♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡


同じ死に方をすると同じ地獄に行けるという。

そうであるならば、めぐむと同じ地獄に行ける人は相当に限られてくる。

バレンタインの日に恋に敗れてチョコを致死量ドカ食いして鼻血を出して死んだ人の行く地獄。それがめぐむがいる地獄なのだから。

だから私は同じようにバレンタインの日に恋に敗れてチョコを致死量ドカ食いしてここに来た。

チョコの山を越えて、チョコの谷を越えて、チョコの河を越えて、チョコの海を越えて、私はめぐむと再開する。

「めぐむ」

私の声にめぐむはびくりと硬直してゆっくりこちらへ振り返った。変わらないおさげ頭がチョコの香りを運ぶ風に吹かれてゆらりと揺れる。

「ちぃちゃん?なんで……」

「このバカめぐむ!」

私はウエハースチョコの道を走って走ってめぐむに突撃する。

1年前の今日。バレンタイン。

机の中に入っていた名前のない洒落た包装紙のチョコレート。

同封された気持ちに答えてくれるなら屋上に来てくださいとだけ書かれた手紙。

好きな人がいるのでいかなかった私。

アホみたいな死因で死んでしまった好きな人。

絶望と共に訪れた貴方の部屋で見つけたあの日無視したチョコレートと同じ包装紙。

ゴミになった本命のチョコレート。

馬鹿な私。馬鹿な私。馬鹿な私!

馬鹿なめぐむ。馬鹿なめぐむ。馬鹿なめぐむ!

「名前くらいちゃんと書きなさいよ、馬鹿!」

「ちぃちゃ、」

「私も大好き!」

馬鹿な私は馬鹿げた地獄で叫ぶ。

「世界で1番大好き!性別なんて超越して大好き!本気のチョコレート気合い入れて作るくらい大好き!アホみたいな都市伝説信じて死んじゃうくらい大好き!」

キスをする。ここはどこもかしこもチョコレートの味がする。だからもちろんファーストキスもチョコ味なんだ。

「あい、らぶ、ゆー!」

「あわ……私も……」

「知ってるー!!」

ハッピーハッピーバレンタインだ!馬鹿野郎!!

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