第5話激闘の果てに

 活動終了の時間となり、優希は最初に挨拶をした場所にボロボロの姿で戻ってきた。


「お疲れさま」


 集合場所には、既に眞銀がいた。彼女は優希の姿を見るなり、戦争に赴いていた兵隊が無事に戻ってきたかのように、労いの言葉を投げかける。


「し、死ぬかと」


「うん、ここの子たち元気だから」


 優希は彼女の言葉に、元気だけの言葉では片づけられないだろうと思ったが、口には出さなかった。


「また遊んでやるからな」


 後ろから付いてきていた園児たちは、満足そうに優希に言った。


「気に入られたみたいね」


「こっちの方が遊ばれてましたけどね」


 二人が会話をしていると、しばらくして歩乃果が戻ってきた。


「ああのお待たせ……しました」


「前田さん、おつかれさ」


優希は歩乃果を見て、狐につままれたような顔をした。


「な、なんかこの子達……」


 歩乃果の後ろを見ると、女の子の園児たちが綺麗に整列をしていた。まるで、歩乃果を隊長とした一つの部隊と成していた。


「次の訪問、楽しみにお待ちしております」


「ちょ、や、やめて」


 歩乃果は園児たちの丁寧な対応に困惑していた。


「前田さん、この子達に何したの?」


「わ、分からないけど気付いたら」


 優希は、整列された園児を見渡し、次は狐につままれた顔をした。


 ドガ


「次いつくるんだ!」


 呆然と立ち尽くしている優希のお尻に、容赦なくローキックの雨が降る。


「とにかく二人ともお疲れさま」


 眞銀が、優しい声のトーンで二人に話しかける。彼女の言葉で優希はハッとなり、ローキックの痛みも認識し始めた。


気付くと笑顔で園長先生が立っていた。


「今日もありがとね、はいこれ」


 園長先生はお礼を言うと、眞銀に和菓子と飲み物を手渡した。


「すみません。こちらこそ、いつも貴重な体験をさせていただいてます」


 彼女はお礼の品を受け取ると、深々と頭を下げた。


「では、失礼します」


 その言葉に続き、二人は園長先生に頭を下げる。園長先生もニコッと笑い、優希たちの会釈を受け止める。眞銀はその光景を確認すると、再び軽く頭を下げその場を立ち去る。優希達も眞銀の後ろに続く。


「バイバイ!」


「またな!」


「ご武運を!」


 後ろを振り向くと、園児たちが手を振っていた。三人も園児たちに手を振り返し、幼稚園を後にした。


「初めての活動はどうだった?」


 幼稚園での活動の帰り道、眞銀が二人に問いかけた。


「大変だったけど、楽しかったです!」


「私もです」


「そう。二人ともうまく馴染めてたもんね」


「いや……」


 二人は声を揃えて、否定した。


「あと、はいこれ」


 眞銀が二人に、園長先生からもらった品を手渡す。


「ありがとうございます」


「ありがとう……ございます」


「最初は断ってたんだけどね。まぁおいしいから帰ったら食べてみてね。この饅頭でお口の中を甘みで満たした後、少し苦みの利いたこの抹茶で流し込むと最高よ」


 優希と歩乃果は、眞銀の話を聞きながら顔を見合わせた。


「なんか、嬉しそうですね」


「……そんなことないわよ」


 優希の問いかけに少し間が空いてから、彼女は前を向いたまま歩みを止めず答えた。

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