第4話初めての活動

 翌日の朝、優希たちは幼稚園の前に集合した。


「それじゃ、いこっか」


 二人は、眞銀の後をついていく。園内に入ると、眼鏡を掛けた少し白髪混じりの女性が立っていた。


「小泉さん、こんにちは」


「樋口さん、いつもありがとね」


「いえ、あ、今日は新入部員も一緒で。こちら、園長先生の小泉さん」


 眞銀が軽く挨拶を済ますと、優希たちに自己紹介を促す。


「い、い一ノ瀬といいます」


「まま前田です」


 二人とも緊張しながら自己紹介をする。


「あら、可愛い子たちね。よろしくね。私ここの園長の小泉です」


「よ、よろしくお願いします」


 優希と歩乃果が頭を下げながら言った。


「あ、ましろ!」


 二人の自己紹介が済むと、後ろから威勢のいい子供の声が聞こえてくる。振り向くと、元気な子供たちが群れをなしていた。眞銀は子供たちに手を引っ張られて連れていかれた。


「樋口先輩。笑ってる」


 昨日から一切見せなかった眞銀の笑顔に、優希は少し驚いていた。


 ドガッ


「いて!」


 優希のお尻に衝撃が走った。振り向くと、男の子が持てる全ての力を使い、優希にローキックをかましていた。


「遊んでやるぞ」


「きみ、急に人を」


「きみじゃねー、おれは慶人(けいと)って言うんだ!」


 ドガッ


「ぎゃぁ!」


二発目のローキックが、再び優希のお尻に飛んでいく。


「みんな、やっちまえ!」


「おー!」


 慶人の合図で、他の園児達も優希に襲い掛かる。優希はまるで、サバンナの真ん中でライオン達に囲まれた草食動物のようだった。群れからはぐれた哀れな草食動物は、成すすべなく骨まで食らいつくされる運命をたどるしかなかった。


「ままって、ぎゃぁあ!」


 チョンチョン


「ん?」


 歩乃果は優希が園児に襲われているのを呆然と眺めていると、自分の袖が引っ張られていることに気付く。下を見ると、女の子が恥ずかしそうに立っていた。


「ん?どうしたの?」


 歩乃果はしゃがみ、笑顔で園児に話しかける。女の子は、歩乃果の耳元に顔を近づけた。


「つまんないから、早く面白いことしてくんない?」


「え?」


 歩乃果は、女の子が囁いた内容をすぐに理解できなかった。


「じゃあ、みなさん。よろしくねー」


 そう言い残すと、園長は笑いながら自分の根城へと戻っていった。

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