濃い味のあとがき
ここまでご覧いただき、ありがとうございました。
まず、この物語で扱っている年齢が若すぎる点について。
本来なら二十歳過ぎスタートが妥当なくらいですが、奈良時代。どうしてもこの年齢設定はスルーできないものなので、ご容赦下さい。
また、時代ゆえ、女性蔑視ととられかねない表現もありますが、著者に女性蔑視の意図はありません。
莫津左売は自己評価がそこまで高くないのと、三虎はその美しさを好ましく享受しつつ、あまり外見に頓着していないので、莫津左売の美しさをあまり語ってはくれません。
莫津左売の美しさは、「あらたまの戀 ぬばたまの夢」をお読みいただけると、良くわかりますよ。
「
とても大きく、広がっていく尊さで、優しく撫でさすってくれるイメージです。
三虎は、遊行女としての莫津左売を必要としていました。
現代におきかえると、銀座の高級クラブに、つきあいとして通うボンボン。立場上、銀座に馴染みの女の一人もいないとおかしい。
東京にいる限りは、月に二回必ず通ってきてくれます。
金離れが良く、けしてしつこくしたり、女を所有しようとしたりしません。上品な上客。
そう考えるとわかりやすい。
でも、冷たいの? 愛していなかったの?
違うと思います。
運命の女への愛とは、違ったのでしょうけれど、遊浮島の他のどんな女にも食指を動かさなかったのです。
三虎は、愛していました。
莫津左売も、そんな三虎を、心から愛していました。
登場時は華奢でヤジにうち震える、男性の保護欲をそそる少女でしたが、年を経て、愛する三虎と触れ合い、華奢な
三虎のことは己の心から分かちがたく愛している。
でも、何年も、ずっと愛させてもらったのです。
三虎が莫津左売の手元から飛び立つと決めたのなら、追いすがったりしません。
三虎を解き放ってあげながらも、莫津左売は己の足に力が満ちていることを感じます。
三虎を己の全てで愛し、与えながら、また莫津左売も三虎から、もらっていたのです。
生きていくための力を───。
莫津左売は、真珠のように美しい女でした。
著者はまず、「あらたまの恋 ぬばたまの夢」を書くにあたり、第十八章「あらたまの年月かねて」を、読み切りみたいにして、書きました。
ズバリ花麻呂の回想は無しで、
そうやって古志加を書いてみたあと、避けられない問題があるな、とその問題と向きあうことにしました。
古代、金持ちは一夫多妻制問題です!
どうにも逃げられないな、これは書いておかねばなるまい。
愛人──ではなく、
吾妹子を持つのなら、ぞんざいに扱う男なんて、ヒーローとして著者が愛せません。
きちんと、吾妹子も愛せるから、ヒーローとして魅力的であるはずです。
と思って莫津左売を書いたら、著者は莫津左売も大好きになりました。
なので、三虎の名を、古志加ではなく、莫津左売にあげました。
著者の精一杯の莫津左売への贈り物です。
きっと、「あらたまの戀 ぬばたまの夢」を読了いただいた方がこれを読んだら、
「あああ! 三虎、何をしとるんだ、その手を放せ〜っ。」
と叫びたくなってしまうのではないでしょうか?
ご安心下さい。わ・た・し・も・です!
莫津左売を応援しつつ、古志加も可愛い著者は、あうぅ、と悶えながらこれを書きました。
でも、書いて良かったです。
「三虎、
まるで見えない地下水脈のように、「あらたまの戀 ぬばたまの夢」の物語の地下を、ひっそりとこの物語は流れ続け、知らないところで土壌を潤し続けていたのですよ。
美しい莫津左売の澄んだ眼差しは、ずっと三虎を影から支えていたのです。
「三虎、吾が夫」の物語が終焉を迎えたあと、
そして、地下水脈は静かにふっつりと消えるのです。
その時、古志加に、笑顔は浮かんできません。
なぜなら、古志加は、三虎の愛がどんなに
一人の女が、そんな愛を失ったのです。
そのことに思いを馳せ、笑顔は浮かんでこないのです。
このことを、なぜここに著者は書くのでしょう?
「あらたまの戀 ぬばたまの夢」を通して読んでも、「三虎、吾が夫」を読まないと、きっと分からない事だからです。
「あらたまの戀 ぬばたまの夢」を読んでない方には、盛大なネタバレ?
いいえ。
ネタバレには違いありませんが、これしきの事を先に開示したとしても、「あらたまの戀 ぬばたまの夢」の面白さが欠けるなどということはありません。
古志加は、ずっと三虎だけを恋して、苦しい恋をして、最後は三虎を手に入れます。
莫津左売は、ずっと三虎だけを恋して、美しい愛で三虎を支えますが、三虎は最後、去っていきます。
二人の女性に愛され、三虎は幸せ者です……。
「あらたまの戀 ぬばたまの夢」を読んだことがない方も、「三虎、吾が夫」は、独立した切ない恋物語としてお読みいただけます。
「あらたまの戀 ぬばたまの夢」を読んだ方は、こういう事だったのか、と納得できる美味しさです。
「三虎、吾が夫」を読んでから「あらたまの戀 ぬばたまの夢」をお読みいただけると、三虎、こうなるのか……。と非常に味わい深いです。
追記。莫津左売は花麻呂と幸せになれたのでしょうか? それが窺い知れる短編を書きました。
「花麻呂、立つ虹の」
莫津左売の名は伏せて。「吾が夫、三虎」「あらたまの恋 ぬばたまの闇」両方の後日譚になります。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
↓挿絵です。
https://kakuyomu.jp/users/moonpost18/news/16818093072807011083
◎参考文献
○仏典Ⅱ 世界古典文学全集7 筑摩書房
○万葉仮名で読む万葉集 石川九楊 岩波書店
○古代歌謡集 日本古典文学大系 岩波書店
○万葉集 岩波書店
○日本の伝統色 和の色を愛でる会 大和書房
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