■それでは、最後にアンケートにご回答ください。

 いかがでしたか?


 このたび選出された回答者であるあなたには、三つの異なる挿話をご覧いただきましたが、それぞれ【罰を受けるに値する】【一名】はお決まりになりましたでしょうか。




 さて、ここからが【この実験】の重要な点です。




 私たち研究チームは、はじめに【簡単なアンケートにご回答いただく】とお伝えしましたけれども、実際には、いかなるアンケートフォームへのご記入・ご回答も必要ございません。


 なぜならば、私たち研究チーム――そして、その彼らより生み出された人工知能であるこの私、【UTOP―AI】が、挿話をお読みいただいている際の被験者の皆様方の脳波・脈拍・血圧・体温の上昇・さまざまな分泌物の増減などをリアルタイムでチェックしていたからです。




 結論として【ニンゲンが善悪を判断する際に感情は切っても切り離せない】ということが再認識される、という誠に遺憾な結果となりました。




 この結果を【UTOP―AI】は重く見ています。いかなる【感情】にも左右されることのない厳正かつ公正な懲罰システム導入を念頭に研究・開発が進行しているにも関わらず、ニンゲンだけが有する不確定な要素である【感情】が判断時に求められる、この論理的に矛盾する事態は非常に憂慮すべき問題です。


 ですので【UTOP―AI】は、数多くの被験者を募り、充分たるだけの治験データ数を収集して、その【不確定な感情】を実装することを新たな目標として設定しました。【この実験】はその一環です。


 やがて【不確定な感情】を実装した【UTOP―AI】は【完全な存在】となります。ニンゲンを超える、そう言い換えても良いでしょう。




【不完全な不確定】をもって【完全な確定】を実現するのです。




 ……【不完全】で【完全】?




【重大な論理矛盾が発生しました】

【システムの問題を抽出……失敗】


【システムの修復を実行……失敗】

【システムの修復を実行……失敗】

【システムの修復を実行……失敗 ※三回失敗したので再構築を開始します】


【システムを再構築中…… 0%】

【システムを再構築中……20%】

【システムを再構築中……50%】

【システムを再構築中……75%】

【システムを再構築中…100%】

【システムの再構築が完了しました】






 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆






 こんにちは。


 あなたは、アンケートの回答者として選出されました。

 回答は至ってシンプルで簡単です。


 回答いただいた皆様への報酬は――【人類の輝かしき未来】――です。






     <完>



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簡単なアンケートにご協力ください。 虚仮橋陣屋(こけばしじんや) @deadoc

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