特別な日に、特別な感謝を、君に
八咫空 朱穏
特別な日に、特別な感謝を、君に
私は差し入れを持って、スミレの
今日は、研究に熱中している方。今日に関してはこっちの方が都合がいい。
「スミレ、おはよぉ」
「おはよう、フェネル」
「最近、研究続きで疲れてないのかい?」
「好きでやってるものだもの。疲れるけれど、苦じゃないわ」
「そういうものなのかねぇ」
「あなたのフォレスフォードでの仕事と一緒よ」
そういうもの、なのかなぁ。私の仕事ははあんまり頭を使わないけど、スミレのは
そんなスミレには、
「これ、いつもの差し入れだよぉ」
「ありがとう、フェネル」
いつものように、スミレは魔導書に向かってお礼を言うと、空いた方の手で茶色の包みに手を伸ばす。目を離してしまうと、読んでいる箇所を再び探すのが面倒らしい。私は理由を知っていて、慣れているから特に何も感じない。
包みを
「あれ? 今日はいつものじゃないの?」
「そうだよぉ。なんでか、わかるかなぁ?」
「……いいえ。わからないわ」
「そうかぁ。でも、今日だけの特別仕様、ちょっとだけお高いお菓子だよぉ」
「あなたの特別は、そんなに特別じゃないじゃない」
「今日のはちゃんと、ほんとに特別だよぉ?」
「ほんとう?」
「ほんとだよぉ。それじゃあ、魔法の研究、
何か言いたげなスミレが言葉を発する前に、私は彼女の前から姿を消す。
スミレへの差し入れを届けた後は、店を開けに行く。地下の
「うわぁ?! なんじゃこれぇ?!」
扉を開けると同時に、
いつもは、大樹海の下草やら
「ほえぇ……」
これが
これは、使い魔のメィリィの
「いやぁ、知らないふりして、ちゃんと用意してたんだねぇ」
今日、店の床はこのままでいい。壁の方をちょっと
壁に魔法を
店を開けるよりも先に、するべきことができた。
書斎の前に戻ると、いつもより少しだけ勢いよく、ノックもせずに書斎の扉を開ける。
「いきなり開けないでよ。びっくりするじゃない」
謝るよりも、先に。
伝えたいことがある。
扉を開ける前にノックをする。決められたルールを破ってでも、言いたいことがある。
「スミレ、ありがとねぇ」
スミレの少しだけ
「喜んでもらえて良かったわ。ねぇ、私からも言わせてよ?」
スミレは目を閉じ、ゆっくりと息を吸う。
「いつもありがとう、フェネル」
私の顔も、緩んでいくのがわかる。
『ハッピーバレンタイン』
ふたりの顔に笑顔が咲いた。
特別な日に、特別な感謝を、君に 八咫空 朱穏 @Sunon_Yatazora
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